あるくこと(2024/5/10, Fri.)

 道に出て、すぐ右の路地の終わりを抜け、車を見送ってから向かいに渡る。先般、そこにある数台分の駐車スペースと一軒の境をなしているカナメモチの垣根が真っ赤に染まり尽くしているのに目を見張ったところだが、その葉がもう赤さをほぼうしなって、青リンゴみたいにひかえめな緑にながれていたのでおどろいた。西を向いて歩く。前方に停まっているワゴン車の、ボンネットと屋根の縁にそれぞれ白光がかたまりなして放散しており、むやみにまぶしい。すでに四時だが西空に陽は高い。かがやきの周辺、ある程度までの範囲は薄白く染まっていて、雲がなじんでいるようにしかみえないのだが、四囲に首をふれば瑕疵のない水色が行き渡っていて雲のひとかけらもない。通りを渡って豆腐屋の前で歩道に乗り、横にながれてH通りに折れる。公園の濃緑があまりにも充実している。行きながら何度もそちらに顔を向けて目をやってしまう。上下の段層になった葉のつらなりがすごい。背景は一面まろやかな青さだが、飛行機雲の消え残りが一本、錯覚じみている。見ているのは道の向かいからである。公園敷地の範囲を過ぎるころ、風が出て、葉鳴りがはじまったので足もとに目を落としながら耳を寄せ、それから顔を上げて首を右にやり、こずえがうねっているのを見上げた。小学校の校庭周りでも草ぐさがすこし騒いでいて、低い部分には光点をやや溜めてゆらしているものもあり、その向こうの敷地内はよくもみえないが遊具かサッカーゴールかの棒らしきものが草よりもつよく白さをまとってきらめきを見せて隠してする。HA通り。左折して歩道を推移する。横断歩道が青だったが、無為の足になっていて急ぐのが面倒だったので、ちょうど赤に変わったあたりで白線のまえに立ち止まり、ボタンを押した。立ち尽くす。通りの左右にイチョウの木の葉叢が、これもまたあまりにもみどりしていて密度がすごく、いちばん手近の一本をみれば陽をかけられてあかるんだ箇所がまだしも弱くは映って、陰との境も明瞭なのでおとなしいところ、少し離れた木々はどれもひといろの纏いでつよく鮮やかに斉一である。見ているうちに信号が青になったので渡って入店。店のそとにチャリが多く、入ったときにもひとの印象がそこそこ密でちょっと気後れを感じたが、回ってみればじっさいそれほどでもなかった。BGMはさいしょ、アシッドジャズみたいなクールでいかしたやつで、なにか有名なやつじゃなかったかというメロディを聞いたがわからない。そのあと爽やかなメロウさの曲にながれていて好感触だ。ものを買って整理して出る。通りを渡ってすぐ裏へ。足は無為のそれだが腹や胸や右の手首のあたりが少し痛んだ。ゴールデンウィークで蓄積された疲労やダメージがいまだにあとを引いているような印象だ。道が細くなるあたりで風が来た。日陰で盛ってもまったく冷たさがない。このあたりの一軒にベルのたぐいがいくつか取りつけられているようで、風があればリンラン鳴るのだけれど、その響きがなかなか倍音豊かで精妙なかさなりになっており素敵だ。細道の右側に、蔓でつながれた葉を壁にはびこらせた一宅がある。見える限りでは全方をなかば以上包むような具合で旺盛にはびこっており、窓だったか門だったかの木格子が赤茶けているのを見ても、たぶん空き家なのだろう。壁は薄青い。その葉っぱの厚くなっている一帯が風にふれられてぱたぱたちいさく煽られており、ああこういう風景があったのかとおもった。建設中や改修中の家やビルの周りがシートで覆われていることがある。あれが風を受けると襞を生みなして、時々のリズムと範囲でふくらんだり抑えられたり、宙に縦向きの波をえがく。あの風景がたまらなく好きだ。見ていてほとんど恍惚めくときがある。波打ちが少しもないということは稀だから、まったく停まっていれば停まっているでそれもいい。このときの葉っぱのゆらぎはその風景に通じるところが少しあった。小さな犬の散歩をしているひとがいる。先んじた若い女性は一匹、あとから来る婦人は二匹だか連れていて、たぶん親子だろう。そこが裏道の出口で、横にはさまった車道を左右に会釈しながら渡ってふたたび裏に入り、まっすぐ抜ければ公園で、入り口の傾斜を利用して女児数人がスケボーに興じている。チャリで出てきた子もいる。ひとりはまだだいぶ幼くて、よく見なかったが補助輪付きだったかもしれない。父親がうしろについて補助をしながら、こちらの前方を進んでいく。もうひとり、水色のシャツを着た女の子がその右を合わせるようにゆっくりと漕いで行く。たぶん家族だったんだろうがよくわからない。女の子の背を見ていると、家々の途切れで陽が射しているところにかかって後ろ姿があかるんだ、と同時にじぶんもちょうどべつの途切れに入っていて視界もあかるみ顔の左側にぬくもりがあらわれた。すぐなくなる。女児の背ももとに戻る。じきにまた薄あかるむ。こちらは日陰のなかにいる。