2024/5/29, Wed.

 三時半ごろ外出。部屋を出ると思いのほかに空気のながれが涼しい。通路の端からあかるい空がみえる。階段を下りて簡易ポストをあけると、何やら用紙。いったん措いて外へ。右方向に路地を抜け、さらに右折。即座に暑い。道に陽が照っている。首を曲げれば背後のほうには雲があるようだったが、行く手の東はすっきりとした快晴である。郵便局へ。その角の十字は歩行者用信号がない。こちらから行く道の十字路手前は停止線がだいぶ遠いところに引かれていて、車が止まっていると、ずいぶん前から止まってるなと思う。郵便局の駐車場は(……)の敷地に面しており、柵のすぐ向こうの木が短くしだれた葉を揺らがせている。ヤナギと浮かんだがたぶん違う。柵のそばにはツツジがあり、一株格子の隙間から顔を出していて、そこから落ちた残骸が乾いたピンク色で地面の端っこに転がっている。局に入って金を下ろす。出ながら通帳の記録を確認。しまって道を戻る。まぶしさと照りが正面になる。道沿いの左右に点在している小さな木のてっぺん付近のみが光に濡れている。瓦屋根もひとつ、てらてらしたのがのぞいている。西空の雲は内側を、周囲の水色を少しだけくすませたような青さで満たしており、囲む輪郭部の白は袋に入った砂糖の固まりめいた質感で、雲というよりは空のなかにもう一層、囲いこまれた空があるような様子だ。大層暑い。まちがいなく熱中症になる人間が出る暑気である。こちらも平衡感覚のふらつきと気持ちの悪さと少しだけ感じた。みずみずしい空の色と雲には清涼感がある。アスファルトを見通せば一面の日なたに電線の細い影が申し訳のように添えられているのみ、ひかりのために白っぽく映ったが、あらためてみれば白であるはずがない、かといって黒でもない、何色といえばいいのか混乱をもたらされながら進んでいき、T字のそばで間近の路上に目を移せば、まあ濃い目の灰色というべきだろうがしかしこれが灰色か? と印象の混迷は続いている。道を渡ると豆腐屋の横から細路地へ。なにかを建設中の土の土地に槌を振りかぶって木杭を立てている人がいる。一軒から婦人が出てきて塀のきわを掃きはじめる。開襟の白いシャツに、同じような薄色のゆるめのボトムス。身をかがめながら間の短い音をひびかせてすばやく掃いている。(……)通り。イチョウの木々の凝集した濃緑を筆頭にものどもの色がことごとくあざやかで、いかにもロマン主義的な天気、ロマン主義詩人になれてしまいそうなあかるい日だと思っているうちに横断歩道に至った。ボタンを押す。向かいにはチャリに乗った年かさの婦人がこちらが至り着くまえから待っていて、しかしボタンを押すでもなくただ無動でいた。目をつぶって首を回す。しばらくすると青になっていたので渡る。(……)に入店。ペダルを踏んで消毒液を手に塗る。籠を持つ。回ってものを集める。(……)荷物を整理して退店。渡る。裏に入る。日なたが広い。光が厚く重い。途中の貧相な小公園の縁にピンク色のツツジが咲き残っていたり地に落ちて無惨だったりする。ツツジというのも長いな、こんなに続くんだったか、と思った。路地の出口が間近のころ、背後から入りこんでくる陽によってこちらの影が前に伸びている。後ろから折りたたみ傘の形をした影が少しずつ近づき、こちらの影を侵食していく。出たところで幅のそう広くない道路を前に並んで立った。お互い車をうかがって左右を見回す。一台目は止まらずに過ぎ、次まで間があったので女性が渡りだしたのに遅れてこちらも渡る。そのまままっすぐ、左右とも住宅の狭く接して続く路地を進む。女性の後ろ姿を見やる。折りたたみ傘はほんのわずかに緑のほうにも寄ったような薄青さで、脚部分が太めのゆるやかでやわらかそうなボトムスはもういくらか濃い控えめな青、右腕に真っ赤なバッグをひとつ携えており、その赤さはワニの鱗をおもわせるような、やや乱れて激しさをはらんだ線で格子状に区切られていた。背にはもうひとつ、真っ黒なのを負っている。金具が揺れてちらちら光る。左手首に腕時計の白い帯。後頭部に形の定かでない白っぽい髪留め。見ているあいだに右手の一軒から笛の音が湧き出してくる。すばらしい。視覚のほうに傾いていたので音がはじまってからしばらく気づかず、遅れてはっとなった。