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「9割本」超えたブーム。全260冊の「品格本」

流行の書籍タイトルについて、はやり廃りを国会図書館オンラインの検索データを元にまとめる個人的趣味企画その3は「品格本」です。

すっかり過去のものとなり、今は新刊を見かけることも無くなったように思える「品格本」ですが、ブームのピーク時には年間61冊、2020年までに全260冊が出版されていました。
「9割本」は2020年までに全157冊が出版されているのですが、それをはるかに上回る数字で驚きました。

「品格本」ブームのきっかけ

「品格本」ブームのきっかけは、2005年11月に出版された藤原正彦氏の「国家の品格」です。

続いて2006年には坂東眞理子氏の「女性の品格」が出版されて、こちらもヒットしました。

 この2冊のヒットを受けて、ブームになった「品格」は2006年の流行語大賞を受賞し、タイトルの影響はドラマ「ハケンの品格」にまで広がっていきます。

ただ、タイトルとしての「~の品格」は、「国家の品格」が最初というわけではありません。2005年には「国家の品格」を含む3冊の「品格本」が出版されているのですが、残る2冊は実は「国家の品格」よりも先に出版されています。

2005年出版本

出版には4か月程度のタイムラグがあり、それぞれのタイトルの発行部数や売れ行きはわからないのですが、「国家の品格」のタイトル決定になにかしらの影響を与えていたのかもしれません。

「品格本」の定義と抽出について
「品格本」のリストアップは、「9割本」「フランス人本」の時と同様に国会図書館オンラインの検索を元にしました。
「~(名詞)~の品格」をタイトルに含む書籍を対象とし、「~の品格」がひとまとまりの名詞として使用されているものに限定しています。
たとえば、「大人の女性の品格あるマナー」は少し悩みましたが、対象外としました。「あなたの品格を~」も代名詞ということで対象外にしています。一方で固有名詞(ex. 大鵬、ヤマダ電機 etc.)はピックアップの対象としました。
また、「品格本」のタイトルの定義に当てはまるマンガが2011年から現在に至るまで刊行され続けており、こちらも悩んだのですが、冊数のカウントには入れ、タイトルとしては1として換算することとしました。グラフは冊数カウントなので、2014年に7冊、以降は年間2冊ほど底上げになっています。

大ヒットの後、語として定着した「品格」

 「品格本」は、2005年以降で260冊(シリーズ本含む)も出版されています。2005年以前には、1965年から2004年までの40年間にわずか6冊だったのと比較すると、1冊のヒットがもたらす影響の大きさがうかがえます。

出版数推移

出版のピークは「国家の品格」出版の3年後の2008年で、年間61冊。以前に調べた「9割本」「フランス人本」と比較してもすさまじいブームです。このあまりにもな状況は、読売新聞の記事にもなっていました。
※リンク先はインターネットアーカイブです。

ずいぶん増えたと感じる「フランス人本」でも、関連本を含めた年間20冊が最大ピーク。

タイトルがもはやテンプレ化した「9割本」も、15年間の全出版数こそ157冊にもなっていますが、年間出版数で言えば22冊が最大です。

「9割本」「フランス人」関連本の出版数と推移を比較してみると、「品格本」の圧倒的なブームがわかります。「9割本」、「フランス人本」が多いと感じていたのは一体なんだったのか…。
そのうえ、ブームがひと段落した2010年以降も継続的に出版され続けているのがわかります。(継続中のコミックによる年間2冊の底上げはあるものの、それでも「9割本」「フランス人本」に並ぶ。)

はやりタイトル推移比較

出版社別にタイトル数をカウントすると、「女性の品格」を出版したPHP研究所が最多です。坂東眞理子氏の著作は3つ(うち1つは特装版)なので、出版社が積極的に「品格本」ブームに乗ろうとした様子がうかがえます。

出版社ランキング

ところで、さきほどの読売新聞の記事中には「女性の品格」の編集担当による「品格本」の定着を予想する言葉が載せられています。

正直、ここまでヒットするとは……。でも、これだけ長期間売れるのだから、『品格』は一時的なブームではないのでは

この結果を見ると、果たしてその通りになったようです。
出版ブームは確かに去りましたが、それまであまり高い頻度で使われることのなかった「品格」という語が認知され、ついに定着したのは間違いないようです。

国・職業・趣味嗜好まで広がる「品格」

「品格」の対象について、タイトルから抽出した語でワードクラウドをつくってみました。フォントの大きさはタイトル数に比例しています。(連載中コミックは1タイトルとして換算)

ブームのきっかけが「国家」と「女性」だったこともあり、国や政治関連の語の他、ジェンダー、職業・職掌などでセグメントする語が多いように思います。

傾向として、「品格」という堅い語にサブカルチャー的な語をぶつけてみて、ギャップで目を引いたり、新しい切り口からの考察であることをアピールするようなタイトル付けが多いようです。

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ところで「品格本」のブームは、そのさらに2年前に出版された「バカの壁」が起こした新書ブームを背景にしていたようです。となると「壁本」も調べるべきかと思ったのですが、他の語に比べて「壁」は使用頻度が高くて抽出が一筋縄ではいかない感じなのです。
やり方をまた別に考える必要がありそうです...。

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