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サウナとフィンランドの男たち

フィンランドとの付き合いはすでに25年以上になる。
アメリカにきて、最初の友達がフィンランド人の二人だった。
当時はまだ、20代前半の彼氏、彼女だったが、今では彼らの子供二人が、大学に行く年齢となっている。

あちら側から、よく一家できて、ひと月近くここサンフランシスコに滞在する。そのたびに彼らの国の休暇の長さを、うらやましく思う。

自分の方から、あちらへ行ったのは三回ほど。
過去2回とも夏だったが、今回は、冬のこの国も見ておきたかった。
一時はフィンランド語を、地元の大学に行って習うほどだったが、あまりの英語との違いに挫折しては、やり直すのくりかえしだった。


サウナの話。フィンランド人にとってサウナは、生活の一部で切り離せない程重要なもの。
5百万程の人口に国に対してサウナの数は300万。
一家に一台ではすまない。
夏に過ごす、サマーコテージを持ってる人も多く、そうなるとひと家族当たりのサウナの数は、2つ、3つといった具合。
彼らの両親の家、叔母さん、彼氏の弟の家など、大きさは違うが必ずサウナがあって、そちらに遊びに行くときは、コーヒーかお茶を出すような感覚で、サウナをすすめてくる。
まずはサウナでリラックスして、その後でCIDER(日本でいうシードル)で火照った体をさますと、身も心も、無防備がらあきで、どうにでもしてくれ、といった風になる。

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そういった文化背景なので、商談なんかもサウナでやったりするらしいが、ほわーとして、ちょっと真剣なことは考えられなんじゃないかと思う。

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そのサウナは友人達の住んでいる、ヘルシンキ市内の家から、車で15分ほどだった。
年末のフィンランドは5時少し過ぎでも完全にやみ夜。
深くつもった雪の白色がヘッドライトの光で、鮮やかにうきあがる。
今日あなたが行くサウナは特別なのよ、と友人の Leena が教えてくれた。
運転中の車内は全員男。友人の Jouniと、彼の妻 Leena の二人の兄。
今日は、男達がこの場所を使える曜日だった。

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Suomen Saunaseura
英語だと The Finnish Sauna Society.
歴史ある、会員制サウナ。
フィンランドで最も由緒あるサウナという話だった。
会員になるにも、すでにメンバーである人物、二名の紹介がないと入会できないらしい。(2021年現在、新規の会員になることはできないらしい)
政府の役人も来るらしく、海外からの賓客もちらほらと、ここでおもてなしとなる。
最近では、アメリカから、オバマ前大統領も任期中にここで、フィンランド首相と会談をしたという。

入り江の中の, 小さな島のはじにそのサウナがある。
周りを木々にかこまれてその建物があった。
男性が入る曜日と、女性の曜日があると言っていた。
中に入る、外からはわからなかったが、かなり広い。
5つのサウナがあるということだった。
そのうち4つは昔ながらの薪を燃やして、焼け石を温めるもの。
ここフィンランドでも薪を使わない、電気式が少しずつ増えてきている。
入口から向かって右側は、休憩できるラウンジと売店。そして外の海に通じるスロープ。
かなり寒いので外に通じるドアはしまっている。

まずシャワーで体をきれいにして、煙を外に出さない伝統的なサウナにいく。

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サブサウナという、煙の香りがするサウナ。
雪景色の見える小窓には、うっすらと、煤がついている。
よく考えたら、これってスモークサーモンを作るのと同じ工程。
自分はこれから燻製になるのだ。
中は、薄暗く、煙りの混ざった空気が、厚い綿の布団のようにからんでくるが、不快な感じは無い。
皮膚に、じんわりと、熱と、焼け石にかけた水が蒸気となって、しみてくる。
煙の香りは、バーボンのようにねっとりしていた。
男達はみな、しずかに汗をかいている。
焼け石に水をかけ、スチームを発生させるのだが、その時は中にいる連中に確認して、ひしゃくで水をかけるのが、マナーだ。
水をかけた直後は、温度が一気にあがる。
8人ほど入ると、いっぱいになる、そのサウナの中は、静寂の中に、ある種の連帯感があった。
自分の友人達以外は、皆知らぬもの同士だが、ここでは構える必要がないのだった。
自分の知っている、フィンランドの男たちは普段から、口数がすくないが、サウナのなかでは、さらに静かになる。
嫌な感じは、しない。
人間、他人といても、信頼があれば、話さなくてもいい時もあるのだ。


15分ほど中にいて、からだが芯から熱せられた後、外にでてすずむ。
雪が降っているが、大変心地よかった。
中に戻り、次のサウナへ。
今度は中の温度が非常に暑くなるサウナへ。
最初のサウナと違い強烈な暑さで、中にいるのは10分が限界だった。

氷のあな
Leena の 次兄 Jyrki がAvantoへ行くか、といった。
にやついている。
行ってみよう、というと海に通じるスロープの方へ歩き出した。
Avanto, 氷にあいた穴のことだったが、この場合は海に張った氷の穴。
そこに入って、火照った体を冷やすのだ。

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外に通じるドアを開けると、一気に冷気が入ってきた。
昨夜の最低気温はマイナス18度。今夜もマイナス10度前後か?
友人のJouni, 次兄のJyrki と小走りに、海へ向かう。
スロープが切れたところに、短いはしごが海面まで伸びていた。ライトがはしごの周りを照らしているが、海面はおだやかな漆黒の顔をしていた。
凍ってはいないようだ。


まず次兄、次に自分が続く。雪が降っている空気中よりも、海の中は温かく感じた。
雪が漆黒の海面に吸い込まれるように、消えていく。
真冬の海水浴は30秒ほど。
海から上がると、寒さのせいで、吐息がはげしくなる。
またもと来た道を、三人とも急いでサウナの方へもどる。
分別のある大人は、こんなことはやらないらしい。
フィンランドの男は時々、こういったおかしなことを、真面目にやる。
彼らのそういった、性格が自分は好きだ。
普段は物静かな友、Jouniも例外ではなく、息子と同じレベルの馬鹿をやって、妻のLeena に、息子と一緒に怒られたりする。
フィンランドの男、なかなか侮れない。
真冬の海から、室内に戻り、誰ともなしに笑い出した。

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1時間ほど、サウナと海の往復の後、ラウンジへ移行。
真ん中に暖炉の火があり、周りを囲んで、皆静かにくつろいでいた。
売店で、ホットドックを買った。
フィンランド人はなぜかみな、ソーセージが大好きだ。
暖炉の火にあたり、食べたホットドックの味は、冬のフィンランドの、いい思い出となった。


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