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パラダイス警察署取調室
警察署の入り口を入って直ぐの目の前に、受付のおまわりさんが机の向こうに座っていた。
「すみません。先ほどお電話をいただいて、母がこちらにいると伺って来ました。デヴァヴァニと申します。」
「あー、じゃぁ、まずはここに名前と時間を書いて、これを持ってそこの椅子に座って待っていてね。」
持たされたのはビジター証明の番号がふってあるネームプレート。
名前を書き込んで、椅子に座って待っていると、受付のおまわりさんは何処かの内線に電話をかけている。
程なくエレベーターの出入り口の方から一人のおまわりさんがスタスタとピンとした背筋でこっちに向かって歩いて来た。
「エイコさんのご家族様ですね? どうぞこちらへいらっしゃってください。」
あたふたと椅子から立ち上がって、おまわりさんの後を離れないように、廊下を歩き、階段を登る。当たり前だけど、廊下や階段には、アチコチで色んなおまわりさんが行き交っていた。
警察署の雰囲気って、封建的って言うか、保守的って言うか、上下関係厳しそうって言うか…。なんか、馴染めない感じ…。
そりゃ、そうよね。軟派でノンノポリでいい加減にノラノラ生きて来た自分は、こう言う場所は全く似つかわしくない。
辿り着いたフロアーの廊下の先を進むと、右手の扉の向こうには机が寄せ集められた島がいくつかあって、その奥の小部屋にエイコの姿がチラッと見えた。
「あれは、お母様で間違いありませんか?」
「はい。母です。」
「実は、今日午後2時ごろ。パラダイス駅地下のショッピングモールで
お母様は未払いの商品を鞄に入れて、そのまま出て行かれたところを
女Gメンに万引きの疑いで捕まったのですよ。」
「え”っ????? 万引きですかっ?!」
ビックリした。エイコは加害者であって、被害者ではなかったことに私はショックを受けた。
おまわりさんはちょっと気の毒そうに、でも慣れた風の紋切り型の言葉を続けた。
「まぁ、初犯ですし、本人も反省されているようなので、以後このようなことがない様に、身元引き受け人のあなたが呉々も気をつけて見てあげて下さい。」
「は、はいぃぃぃ…。」
「じゃ、こちらに身元引き受け人のサインと、今後この様なことが起こらない様にしますと言う宣誓書に印を押して下さいね。あ、ハンコが無かったら、母印で大丈夫ですよ。」
「は、はいぃぃぃぃ…。」
言われるがままに署名して、出されるがままに朱肉に親指の腹を押しつけ、
宣誓書に印を押した。
ナンだか、自分が犯罪者になった気分だ…。
エイコには、どう声を掛けたらいいんだろう…。
怒っても、叱っても、ダメだろうな。
きっと私より、本人の方がショックが大きいに違いない…。
何も言わず、何も責めず、迎えに来たよ。お腹減っていない?
何処かで何か食べて帰る? 心細かっよね。もう大丈夫だからね…。
グルグルと、色んな言葉が心から溢れ出す。
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