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ナンデ私ヲ産ンダンダ?

シンイチロウとエイコは喧嘩をしては、口も聞かない冷戦を半年とか、1年とか平気でやる。

そんな家に住むのは、心の芯まで正直シンドイ。ずーっと目に見えない張り詰めた糸。今にもプッツンと切れそうな怖さが隅々まで漂い充満して、息苦しい。

喧嘩が始まると、初めは口喧嘩で済むが、そのうちシンイチロウは仕事に託けて朝早くに家を出て、夜中の遅い時間に帰宅して、エイコと顔合わせようとしないで逃げ根性丸出しの弱虫男に成り下がる。

それがいつまでも冷戦が続く原因だ。目に見えない氷が家を固める。


二人が喧嘩している期間中は特に、エイコの愚痴を聞かされる。それも、いつも食事の時間に。

そんなにグチグチ言うなら、別れればいいじゃないか、

と私は内心思って、それを口にする。

「あたしは、あんたたちのために別れずにいるんだ! どうしてそれが分からないんだ!」 

『え? 誰が別れないでくれと、いつ頼んだんだ? そんなこと頼んだ記憶がない。』

と、これ以上口にすると、エイコの怒りは収集がつかなくなりそうだから、黙る。

また容赦無く、エイコは愚痴を吐き出し続ける。

「もう、あんたの愚痴は聞きたくない!!」

と言うと、

「あんたは冷たい子だ。子供が親の愚痴を聞くのは、当たり前なことだ。

どうせあんたはシンイチロウの家系の血が濃いんだ。あたしは、あんたをそんな風に育てた覚えはない! 出て行け! この家から今直ぐ出て行け!」

高校生の私にエイコは滅茶苦茶な事を言い出す始末。

食事時に、今度は私とエイコの喧嘩が始まる。。。

食事も不味くなる。味わうことも許されず、側でギャーギャーヒステリックに喚くエイコから逃げたくて、早く2階の自分の部屋に篭りたくて、食事を噛まずに飲み込んで、階段を駆け上がる。


しばらくは怒りと咀嚼されていない食べ物が胃に溜まって気分が悪くなる。

嫌なことは、寝て忘れることにしている。

取り敢えず、腹は膨らんだ。寝てしまおう。


眠りから覚めると、エイコとの喧嘩を反芻してしまう。

そして自己嫌悪に陥る。

そして、私が死んで仕舞えば、エイコは結婚という呪縛から解放されて、

きっと幸せな人生を送れるのだろう、と真剣に思いつめて自殺を考える自分がいる。

高校時代は、何度も何度も自殺を考えていた…。


ナンデ私ヲ産ンダンダ? どうして、私ばかりに愚痴を聞かせるんだ。

どうして、自分の思い通りに子供が言うこと聞かないと、

「お前は冷たい子だ、お前はエライね。お前はご立派だね、

誰のお陰で、そんなに大きくなれたんだ?」

嫌味と恩着せがましいことをエイコは口にし始める。

私は、それを聞かされる度に、罪悪感と反発心が沸き起こっていた。


ナンデ私ヲ産ンダンダ?? 

そんなに私を苦しめて、あんたは嬉しいのか?

そんなに私を責めて、あんたは気持ちがいいのか?

ナンデ私ヲ産ンダンダ??

テレビの向こうでは、理想の家族を描いたアニメが楽しそうに流れてる。

ウチの家は、全然違う。



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