認知症エイコ:スマホを欲しがる

お彼岸が過ぎて、気が狂った様に暑かった夏がようやく醒めた頃。

陽気が過ごしやすくなったせいか、突然認知症エイコが覚醒したのかっ?!と驚く出来事が起こる。

夜20時過ぎた頃、階段を上がるのは嫌だ、といつも言っているエイコが、急に2階の私の部屋に上がってきて、

「5,000円、お金をちょーだい。」と言う。

エイコはパラダイス警察署の事件をサッパリ忘れているのか、

どうなのか私は図りかねる。また万引きで捕まらないか、不安になる。

そして続けて、エイコは

「今、テレビで安いスマホが売ってるの。月4,380円で話し放題。

欲しいから、私の銀行通帳とキャッシュカードを返してちょーだい。」


認知症は、過去を忘れる。特に、近い過去のことはサッパリ忘れる。

ほんのさっき食べたお昼ご飯を、綺麗さっぱり忘れる。

あまりに見事に忘れるエイコに私は唖然とするばかりだ。

…話を戻そう。


エイコは認知症になる前、リンゴのスマホを持っていたのだ。

ある時から、持ち歩かなくなり。

ある時から、充電もしなくなり。

そんなことで、用があってこちらから掛けても、

充電も、持ち歩きもしないで引き出しにしまったままのスマホに

エイコが出てくるわけがない。

そして全く使いもしないのに、無情にも月々の使用料は

エイコの預金口座から引き落とされて行っていたのだった。

「あんた、前持っていたスマホ、結局使わなかったじゃないの?! 

またどうせ、使わなくなるんじゃないの?

それに、すぐ忘れるんだから、持ち歩いて何処かに置き忘れたらどうするの?』

エイコには私の説明は通用しない。

年寄りは、一つのことが気になる始めると、

いつもまでもしつこくそのことに執着する傾向がある。

私はスマホを持つことに反対すると、

エイコは急に態度を変えて罵詈雑言を浴びせてくる。

「あんたはどうせエライ、エライ。一体何様のつもりでいるんだ? 誰のお陰で大きくなったんだと思っているんだ? もうあんたなんかに世話にはならない。自分で全部やるから、あんたなんか出て行け! この家から出てけ! お前が何をしてくれたんだ? 何もしないで、親の金を勝手に使って、お前は親に何をしてくれたんだ? 弁当ばかり食べさせやがって。

もうあんたに面倒なんか見てもらわなくていい!! あんたに預けていた通帳もキャッシュカードも、貴金属も全部返せ! 保険証も返せ! あんたの方がドロボーじゃないか。全部返せ!! あんたなんか居なくて結構!! お前なんか交通事故に遭って死んでしまえ! 」

流石に私も頭に来た。

何もやっていないだと? どうしてそんなことが言えるんだ? 

ゴミ溜めみたいな家をどれだけ大変な思いで掃除したことか。何年も着ないまま茶箱にしまってある洋服の山をどれだけ整理したことか。ゴキブリが汚しまくった壁を掃除しペンキを塗り直し、ワックスもハゲてギトギトで気持ち悪い床をクリーニングしワックスをかけ、トイレもちゃんと水を流さないままで、尿石が溜まり水の流れも悪くなっているのを綺麗にし、靴箱も履かない靴が幾つもあって、カビだらけになっているのを掃除し捨てて、介護保険の手配、往診の医者の手配、薬の手配、ヘルパーの手配、目医者や歯医者に連れて行ったり、ケアマネとの交渉、デイサービスを探して、諸々のお金の支払い、その合間に買い物、洗濯、日常の掃除。

自分のエゴを棚に上げて、

どんだけ子供を苦しめれば済むんだ? 

この馬鹿親。

あまりにもヒドイ。

認知症だから仕方がない、だと? 

そんな軽い一言で片付けて欲しくない。


「あんた、前にスマホを持っていたけど使わなかったじゃ無いか?

自分でなんでもやるって言っても、何もできていないじゃ無いか?

万引きで捕まって、誰があんたを警察署まで迎えに行ったと思っているんだ? 

本来はオヤジがあんたを迎えにいくべきだったんじゃ無いか? 

オヤジの面倒は誰が見るんだ? あんまりふざけたことを言っていると

老人ホームに入れるからな!」

もうこうなったらエイコも言う事を聞かない。

「あぁ、うるさい。あっちいけ! 出てけ! お前なんか出てけ! あっちいけ! 聴きたく無い! あっちいけ! 」

拉致が開かない。

家に居たくなくて、車に乗った。

どこに行こう…。

フラフラと近所を一回りして、そのまま高速に乗った。

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