映画『アルキメデスの大戦』

The Great War of Archimedes
2019年/日本/130分
監督・脚本・VFX:山崎貴
原作:三田紀房「アルキメデスの大戦」
撮影:柴崎幸三
音楽:佐藤直紀
編集:宮島竜治
照明:上田なりゆき
美術:上條安里
録音:藤本賢一
音響効果:岡瀬晶彦
配給:東宝

 日本が欧米列強との対立を深めていた昭和8年を舞台に、戦艦”大和”が建造されるまでの道のりを描いたサスペンス映画。ちなみにストーリーはエンドロールでも分かるとおり、あくまでも史実から着想を得たフィクションである。原作となる三田紀房の同名漫画は未読。

感想(ネタバレ)
 まず、素直に面白かった。はっきり言ってこの映画、観る前の期待値はかなり低かった。予告編の感じからしても、監督・脚本が山崎貴であることからしても、所謂ダメなタイプの邦画の匂いがプンプンしており、どうせ『永遠の0』みたいな映画になるんだろうな、と予想していた。しかし蓋を開けてみると、その予想は大きく間違っていた。一本の映画として、エンターテイメント作品として、かなり面白く、それでいて今作られた事に意義を感じる社会派な一面も持ち合わせる秀作だった。
 なにがそんなに良かったのか、一つは山崎貴のダメな所がほぼ出てこないことだと思う。いつもの山崎貴作品の短所といえば、クドい感動演出、テンポの悪いストーリー展開、出演俳優のわざとらしい演技、うるさい音楽、などであろうか。本作では後述する様々な理由から、こういった短所がほぼ顔を出さない。
 まず本作は戦艦”大和”が敵軍と戦い沈没する場面を初っ端に持ってきている。要は物語的な結末を最初に見せてしまう。おそらく山崎貴が本作を監督するにあたり、一番やりたかった所(一番気合いが入っている所)なのだと思う。過去作を観ていると、こういうのが好きなのはおのずと分かる。そしてやはりさすが山崎貴と言うべきか、この戦闘シーンでの演出・VFXはお見事。絵的なカッコ良さ、派手さで、序盤の掴みとしては抜群。『永遠の0』『海賊とよばれた男』の経験が活かされていてVFXもなかなかの出来。『永遠の0』とは違い、しっかりと血を流し、爆発でバラバラになった兵士の死体の残骸をちゃんと見せている点もグッド。船体の血が、上がってきた波で流されるカットは印象的で凄く良い。おそらくこの"大和"沈没シーンは『パイレーツ・オブ・カリビアン』とかを参考にしてるんじゃないかな。ただ本作は、ここが映画的なクライマックス級の見せ場なっているので、初っ端に持ってきたことに関しては賛否分かれる部分だと思う。しかしこの序盤のシークエンスは掴みであること以上に、結末を先に見せること自体が2つの仕掛けのミスリードになっているので自分は賛。あとそれに加えて、このシーンのおかげでこの先出てくる登場人物達の一部を除きほぼ全員(特に戦争に乗り気な奴ら)が愚かに、そして滑稽に見えてくるという効果もあった。
 2週間というタイムリミッドを設定したことにより、展開・話運びがスピーディになっているのも良い。菅田将暉と柄本明が仲良くなるくだりとかもテンポ良く見せていて良かった。いつもはダラダラしている印象のある山崎貴作品だけど、タイムリミッドが作品を引き締める役割を果たしているのかも。いつもはうるさい音楽も、本作の劇伴は結構抑えめで気にならない程度で好印象。
 役者陣は、若手の演技が個人的換算で2箇所ほど気になる所はあったけど概ね良し。ベテラン陣は、舘ひろし、田中泯、橋爪功、國村隼、小林克也、小日向文世、笑福亭鶴瓶、とこれだけの面子を揃えただけあって演技アンサンブルを見てるだけでも楽しい。橋爪功の良い意味でイライラする演技とか最高だった。菅田将暉が演じている数学の天才はハッキリ言って変態、というか狂人的で、途中遠くから戦艦を見てメジャーをカシャカシャやるシーンはもうオナニーにしか見えなかった。
 その他にも良かった所を列挙すると、まず音フェチ要素。『バクマン。』ほどではないけど、鉛筆で紙にスーッスーッと線が引かれる音や黒板にチョークが当たる音が心地よかった。あと菅田将暉が見る幻覚のVFX。人や街が燃える様子がリアル。それとお堅い映画に見せて実は笑えるシーンが多いのも嬉しい。それも変顔や変なことして笑わせるのではなく、ちゃんと会話劇で笑わせていたのが好印象。
 こう色々と良いところがある中で、本作の白眉は終盤の怒濤の展開。ラストの軍事会議で明らかとなる、軍部と大企業の関係や税金の無駄遣いなど現代の、特に最近の日本とかなりリンクして胸が痛くなった。変わってねえよな...日本。菅田将暉の台詞「国民が汗水たらして稼いだ税金だぞ、一銭たりとも無駄に使ってはならない」ニュアンス違うかもしれないけど大体こんな感じのことを言ってた。これ当たり前の事だけど一部のクソ政治家共に聞かせてやりたいですね。軍事会議では一応菅田将暉を一度勝たせて物語的なカタルシスを与え、ホントに凄いのは軍事会議後の本当のラスト。結局”大和”は建造される。ラストカット、菅田将暉は涙を流し、”大和”は明らかに雲行きの怪しい方向へと進んでいく。その雲行きは”大和”の運命を表しており、おそらくは現代の日本が進んでいる道を暗示している。そう解釈した自分は、このラストの圧倒的切れ味に、たぶん山崎貴作品で初めてのちゃんとしたバッドエンドに、超痺れた。

点数:85点

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