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ピーター・ラフナーの余白に(3)

Life stinks
I'm seeing pink
I can't wink
I can't blink
I like the Kinks
I need a drink
I can't think
I like the Kinks
Life stinks
(Peter Laughner「Life Stinks」より)

酷い人生だよ
ピンクが見えてきたよ
ウインクができないよ
まばたきができないよ
キンクスが好きだ
一杯やりたいんだ
考えることができないんだ
キンクスが好きだ
酷い人生だよ


ピーター・ラフナーは13歳で将来ミュージシャンになることをきめたらしい。1952年生まれだから1965年位のことだ。ディランでいえば『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』と『追悼のハイウェイ‘61』の年。最初に友人と組んだミスター・チャーリーというバンドではヤードバーズやストーンズのコピーから始めたということなので、よくあるローカルガレージバンド風情だったと思われる。当時LA CAVEという地元クリーヴランドのライヴハウス?で歓迎されていたヴェルヴェット・アンダーグランドを観て感化され様相が変わった。レパートリーに速攻で連中の曲が追加される。1967年~1969年のことだ。1971年頃、カリフォルニアにギター一本抱えて旅にでたこともあったらしい。その当時のレパートリーがおそらくBOXの1枚目に入っている楽曲だろう。トラディッショナルからカントリー、ブルース、ディラン、ルー・リードからジョン・セバスチャン、ジャクソン・ブラウンまでレパートリーの幅広さからするとガレージ時代からアコースティック・ギターの修練とアメリカンフォークソング(カントリーやデルタブルース)への遡行も並行して行っていたことが覗える。それとかなりの読書家だったことも。後年自作曲に「シルヴィア・プラス」、「ボードレール」って曲を物してるのは見易いが、ルー・リードのレコード評でルーの師匠デルモア・シュワルツに言及したり、チャールズ・ブコウスキーの書評までしている。レスター・バングスとの友愛もルー・リード崇拝とは別にそうしたバックグラウンドを含めた「理解」あってのことだったんだろう。いまとなってはフツーじゃんって揶揄されるかもしれないが、ヴェルヴェッツが近所のライヴハウスで演奏してるのを直に観てるのだよ。そしてただ観るだけでなく、それをテレコに録音、分析してリアルタイムでカヴァーし、のみならずその曲が派生した源泉まで辿ってるんだ。同じような連中はクリーヴランドと同様にヴェルヴェッツが歓迎されたボストンにもいたかもしれないが、ラフナーほどイカレタ感じの人物は知らない。

話が逸れたが、ラフナーはやっぱりバンドがやりたかった。けど、どのバンドも長続きしなかった。ロケット・フロム・ザ・トゥームズに関しては自ら参加を申し入れ、レコーディングまでラフナーが行い、ラジオ局(WMMS)やレスター・バングスに売り込みまでするが空中分解し、その後の創設まで関わったペル・ユビュも追い出される?まあドラッグやアルコールの問題も大きかったのかもしれない。レスター・バングスのラフナー追悼文にもあったように親友のバングスでさえ、晩年のラフナーの惨状を目の当たりにして距離をとっていたようだし、同文の中ではパティ・スミスのステージに乱入しレニー・ケイ等に蹴落とされ会場からも放り出されたエピソードなんかもある(ブックレットにはケイとラフナーが互いを指差している写真も載っていて微笑ましい)。当時はリチャード・ヘルもうざがっていたようだし、前に訳したロバート・クワインはインタヴューで「大馬鹿物」と云っていた。が、ラフナーの残している音源を聴く限り、ヘロヘロ、ヨレヨレの演奏などないし、むしろ緊張感の高い熱演が多い。それだけの演奏をしても周りの評価がそれほど芳しくないことに対する苛立ちは相当なものだっただろう。フリクションで一緒に演奏していたアントン・フィアーの発言(「ピーター・ラフナーの余白について(1)」を参照)などラフナーを認めているようで全く賞賛していない。RFTTのチーター・クロームの発言によれば「ピーターは優れたバンドリーダー」で曲を細部まで理解し、リハーサルで猛特訓されたと云っている。実際フリクションのライヴ演奏等を聴くとアレンジもかなり練られたものだ。このバンド(フリクション)でスタジオ録音のアルバムが残せていたら、クリーヴランドパンク至上の名盤に成っていたかもしれない。にもかかわらず、生前に発表されたのはぺル・ユビュの7インチ2枚だけで、リーダーアルバムは1枚もだせなかった。ラフナーが録音魔でなかったら我々にとっては「無」でしかなかっただろう。

死の前日に13曲も録音しているということも堪らない。衰弱している肉体にどうしてそれほどのエネルギーが残っていたのか...またAin`t It Funの一節が脳裏を掠める...

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