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ピーター・ラフナーの余白に(2)

さて、Smog Veil Records渾身の5LP BOXについて。

DISK1は1972年地元クリーブランドのラジオ放送(WMMS)から2回分、17曲収録。基本ラフナーの弾き語り+ピアノ等のシンプルな編成。ホストとの語らいも収録されていて寛いだ雰囲気のうたと演奏がゴキゲンな感じ。取り上げられている曲はお馴染みのディラン曲とルー・リード曲以外ではトラディッショナルからジミー・ロジャースのカントリー、アーサー・クルーダップのブルース、ラヴィン・スプーンフル、リトル・フィート、ジャクソン・ブラウンまで幅広い。なかでも嬉しいのがラフナーの友人のテリー・ハートマンの曲が2曲入っていることだ。テリー・ハートマンといってもラフナーファン以外は誰もわからないとおもう。クリーブランドのローカルミュージシャンでハートマンが1969年に徴兵される前にラフナーと録音した「Notes On A Cocktail Napkin 」(1969)という謎盤(ラフナーが1970年に2,3ドルで手売りしていたらしい)がDiscogsにあがっていたので私も知った...。youtubeに1曲だけあるので貼っておきます。


DISK2~4は1973~1977までラフナーが組んだ何れも短命に終わったバンド(シンデレラ・バックストリート、フリクション、参加バンドのロケット・フロム・ザ・トゥームズ等)のライヴ録音やリハーサル録音に少人数での宅録等が収録されている。これらの一部は1993年の『Take The Guitar Player For A Ride』2LPで既発だが、たとえば代表曲のひとつ「アンフェタミン」は既発の上記アルバムヴァージョンでも、同じく既発のRFTTのコンピヴァージョンでもない。個人的には『Take The Guitar~』ヴァージョンがベストだと思うが、未発表ヴァージョンを優先するという編集方針なんだろうな。それはそれでありがたいし、ボックスヴァージョンも生生しくすばらしいので文句はまったくない。それから名曲「Rock It Down」も既発ヴァージョンではなくリズム・ボックス入りの不思議ヴァージョンでの収録だ。それとフリクションでの名曲「Don't Take Your Love Away」や同じくフリクションでのリチャード・トンプソンの「Calvary Cross」の名カヴァーが未収録なのがちと残念。これからファンになる方は廃盤で高値になっている上記コンピ買うしかないか...但しyoutubeに全部あがっているので、聴ければいいのであればそれでもいいかも...一応貼っておきます。

「Amphetamine」

余談だが、Wilcoの1996年作『Being There』の冒頭「Misunderstood」という曲でラフナーのこの曲の一節「Take The Guitar Player For A Ride~」が引用され、作詞はジェフ・トゥイーディとの共作としてクレジットされている。

「Rock It Down」


「Don't Take Your Love Away」


「Calvary Cross」


ついでにイーノの「Baby's On Fire」も未収録なので。


DISK5は死の1日前に宅録されたラフナーひとり弾き語りの収録。ジェシ・ウィンチェスターの曲が2曲も取り上げられているのが意外といえば意外。
DAED BOYSも取り上げたラフナーとチーター・クロームの曲「Ain`t It Fun」の一節

”Ain't it fun
When you've broken up every band that you've ever begun
Ain't it fun
When you know that you're gonna die young”

「楽しくないよ
今まで始めたバンドが全て解散したとき
楽しくないよ
きみが若くして死ぬことを知っているとき」

を思わずにはいられない。1977年6月21日に宅録して翌日6月22日に没した。

とりあえず以上がざっくりとしたBOXの所感です。

このBOXには100ページの豪華ブックレットもついていて、貴重な写真はもちろん、ラフナーがCreem誌等に書いた批評やレコード短評、手記が集められる限り収録されています。あと盟友レスター・バングスの有名な「ピーター・ラフナーは死んだ」という追悼文も。興味がある方は在庫があるうちに購入お勧めします!


「100枚のレコードをプレスするだけで、最終的には世界で一番欲しいと思う100人に届くんだよね......人がいつも息をするのと同じようにね........世界中の人が知りたければ、そうするはずだよ。」とチルトン先生が仰せの通りです。

レスター・バングスが上記追悼文で「ルー・リードは俺のウディ・ガスリーであり、十分なアンフェタミンがあれば俺は新しいルー・リードになるだろう! 」というラフナーの発言を引用していた。

文章の前半は噛み砕いて意味を汲み取れば、「ルー・リードは俺の(敬愛する)ウディ・ガスリーと等価だ」ということか...後半は文字通りで理解可能だが、裏返せば「十分なアンフェタミンがなければ、俺は通常のルー・リードのまま」ということになる!何れにせよ、ピーター・ラフナー自身になる訳ではないということが肝(前章で取り上げたロビン・ヒッチコックの「反措定」を想起すること)。

(余談だが、現行クリーヴランドのパンクバンドでThe New Lou Reedsというバンドもいる。2003年の『screwed』というアルバムには「Peter Laughner」というタイトルの曲も収録されている!)

レコード短評ではジョン・フェイフィやハリー・パーチまで取り上げられていて、パーチ評のなかでストゥージズが唐突に登場したりもする。もしかして、ストゥージズの前身バンド、サイケデリック・ストゥージズ(イギーがパーチに影響されて「実験音楽」をやっていたと発言してた)も観ていたのか...と妄想したり。

だんだんとりとめなくなってきたので今回はこの辺で止めておきます。 


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