ロゴス #9
第9話『ヘロデからの逃亡』
三人の博士(占星術学者)たちはイエスの元へ訪れ、マリアとヨセフに、星の導きによって来たことを告げた。
そしてひれ伏して拝み、宝箱を差し出した。その中には
黄金 王としての身分の象徴
乳香 神性(神であるということ)
没薬 死後に体に塗る薬(死を象徴する)
の三つの贈り物があった。これは古くからの聖書的な伝統としての贈り物で、メシアに捧げられる物として考えられていた。
貧しいヨセフとマリアの家にとって、とんでもない値打ちの贈り物であった事は言うまでもない。
少し躊躇したが、博士たちはどうしてもと言うので、有り難く頂くことにした。
しかし、この資金がこの後、すぐに重要な役割を果たすこととなる
博士たちはそこで一晩を明かし、疲れをとった後、帰路に着いた。
当初の予定とは違うルートを通って…
博士たちは夢で御使いから啓示を受けたのだ。
「ヘロデの元へは帰るな」
… … …
数日後、博士たちが違うルートを通って、ヘロデに幼子の事を報告することなく帰郷したことが、ヘロデ王の耳に入った。ヘロデは憤慨した。
「くそ❗️❗️あの狸どもめ❗️❗️」
騙された…そう思ったヘロデの目は悪魔のようで、臣下の者たちは震え上がった…この暴君はまたとんでもない事をするのだろう…また死者が出る。
ヘロデは命じた
「ベツレヘムへ行って2歳以下の男の幼子を皆殺しにしてこい❗️❗️❗️」
2歳以下という指定は、ヘロデが博士たちから聞き出していた、星の上った時期に基づいている。
その夜…ベツレヘムでは悲劇を嘆く声と、幼子の泣き叫ぶ声が響き続けた…
悲しくもこの時、一つの預言が果たされていた…
【旧約聖書 エレミヤ書 31章 15節】
主はこう言われる
ラマで声がする
泣き、そして嘆き叫ぶ声が
ラケルがその子らのために泣いている
ラケルは慰められる事を拒んだ
子らがもういないからだ
ラマとは地名、ラケルは人の名。本来この預言はバビロン捕囚時の様子を語ったものだが、ベツレヘムでの悲劇の型と言われている。
… … …
さて、イエスの命運であるが、もちろん尽きてはいない。
イエスらはこの時エジプトにいたのである
イエスは神に守られていた。
話は戻って、東方の博士たちが帰った日の事。ヨセフの夢に御使いが立ってこう告げた
「立って、幼子とその母を連れ、エジプトへ逃げなさい
そして、私が知らせるまで、そこにいなさい
ヘロデがこの幼子を探し出して殺そうとしています」
その言葉を聞いたヨセフは、その日の内に家族を連れ、エジプトへ向かった。
この時代、エジプトもユダヤの国と同様に、ローマ帝国の支配下にあったが、エジプトはヘロデの管轄外であるので、エジプトへ行けばヘロデの脅威が及ぶ事はない。また、エジプトで孤独になる事はなかった。当時エジプトにはユダヤ人は100万人以上住んでいて、共同体も形成されている。神殿もあり会堂も数多くあった
これは、神が、預言者を通して伝えたことが成就するためであった。
旧約聖書 ホセア書 11章 1節 「私は我が子をエジプトから呼び出した」これは【旧約聖書 出エジプト】の出来事を言った聖句であるが、同時に、イエスがヘロデの魔の手からの脱出した出来事の型であったと言われている。
イエスの生涯で、自分の国、イスラエルを離れたのはこの時だけである。
エジプトへの移住の資金は、博士達からの贈り物によって賄われている。
速やかな逃亡は、東方の博士たちによる誠の信仰によって可能になったことであり、ここにもまた”主”の救いが働いているのだろうとヨセフは感じた。そして、マリアとヨセフはベツレヘムの悲劇に心痛めた。まだ幼子であるイエスも悲しんでいるようだった。
… … …
ヘロデの死後、一家はイスラエルに帰還した。
「我らの”主”が帰ってきたぞ❗️❗️」
ヨセフは心の中で声高らかに叫んだ。
「”我らの民の救い”は、まだ生きておられる、安心しろ」
イエスを…メシアを待ち望む人たちに届いて欲しいと願いながら、静かに叫んだ。
そして、一家はガリラヤ地方のナザレに向かった。ベツレヘムはヘロデの息子である残忍なアケラオが治めていると聞いて恐れたからだ。
ナザレに住居を構え、イエスが活動を始める30歳まで(祭司の仕事は30歳になってからと決められていた)イエスは父の仕事の手伝いをしながら、平穏に暮らした。
…10話へ続く