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ロゴス #28

第28話『多くの癒し』

悪霊の騒ぎが落ち着くつくと、イエスはすぐに弟子シモンの家に向かった。カペナウムの会堂とシモンの家は目と鼻の先であるので、礼拝後の食事に招待されていたのだ。

イエスの奇跡を目の当たりにした民衆の多くはイエスらについて行って、シモンの家へ殺到した。

会堂での礼拝は安息日(土曜日)に行われるが、ユダヤ社会では安息日の午後の食事を一週間で一番重要なものと考え、豪華な食事をする。この時は多くの人がペテロの家に押し寄せているが、当時の習慣として、礼拝を執り行ったラビの食事の場は、民衆が質問する教えの場にもなるので、公に開かれた場所となる。シモンの家に人が殺到したのは不自然なことではない

シモンの家は裕福な家であるが、用意された食事は、比較的質素なものであった。申し訳なさそうにシモンはイエスへ言った。

「すいません…妻一人では、準備が間に合わなかったようです」

宴会というのは和やかなものだが、シモンの家には重く悲しい空気がたちこめていた。民衆の一人がイエスへお願いした。

「シモンの母を癒してあげてください」

シモンの姑が、病気に侵され、ひどい熱に苦しんでいるというのだ。会堂での奇跡をついさっき見て来たばかりの人々は、イエスに期待の眼差しを向けていた。それはシモンも同じであった。

すると、イエスは姑の傍に立って、上体をかがめて語りかけた。

「治りなさい」

それはまるで病気に命令しているようであった。その言葉一つで姑の容体はみるみる回復し、熱も直ちにおさまった。そして、なんと、癒された姑はイエスのもてなしまで始めたのだ。その光景に人々は驚き、また大いに喜び、イエスの癒しを讃えた。

重苦しい宴会は突如晴れ上がり、楽しい宴会へと変わったのだった。

日が暮れると、色々な病気で弱って者を抱えた人たちが、その病人を癒してもらおうと連れてきて列をなした。

日が暮れてから病人が殺到したのは、律法により禁止されていたから。安息日にはいかなる労働も許されず、病人を運ぶこともできなかったので、人々は日の暮れるのを待っていたのだ ※イエスはこの安息日の規定に意を唱え、今後も病人を癒していくが、これが後に安息日論争へと発展していくことになる

イエスは一人一人に手を置いて癒していった…その奇跡に人々は皆、イエスを信じ、幸せに満たされた。

そんな中に悪霊に憑かれた人も何人か現れて

「あなたこそ神の子です❗️❗️❗️」

と叫ぼうとするが、イエスは直ちに叱りつけて、悪霊がものを言うのも許さなかった。その癒しと権威に、人々はますます確信を深めていった。

それまでのカペナウムはどこか悲しみに包まれた、暗い町であったが、この日を境に希望に溢れる幸せの町となっていったのだった。

またペテロも気持ちを新たにして、イエスに仕える決心を強めた。姑の事が解決した事で、重荷を下ろしたような清々しさと、感謝に満ちていった。

この癒しの噂はガリラヤに留まらず、北のシリア、デカポリス、エルサレム、ヨルダン川の向こう側、ユダヤ全土に広がり、大勢の群衆がイエスの元に押し寄せるようになった。イエスは次々に癒やしていった。

そんなある日のこと、イエスは、湖のほとりで、網を洗っている漁師の姿を見かけた。

弟子達の職業は湖で魚を捕る漁師である。

弟子達に尋ねると、魚が獲れないので早々に切り上げて片付けをしているのだと答えた。

それを聞いたイエスは歩み寄って、その網を手に取り

「あなたたちを人間を捕る漁師にしよう」

この後に見せる奇跡によって、弟子達は仕事も何もかも捨てて、イエスに従う決意をするのだった…

…29話に続く