ロゴス #29
第29話『人間を捕る漁師』
あなたたちを人間を捕る漁師にしよう
イエスは湖畔に立つと、弟子シモンの船に乗り、陸から少し漕ぎだすように頼んだ。
少ししたところで、イエスは座り、集まる群衆に向かって、船から教えを説き始めた。
この時、イエスの元には国境を超えて各地から多くの群衆が押し寄せ、イエスの教えを聞こうと群がっていた。普通に湖畔に座って話をしても、人に埋もれて奥の人まで声が届かないし、何より突き落とされそうで危ない。そのため、船で少し漕ぎ出して、水上に座って、人々に向かって福音を伝えるスタイルが確立しつつあった
群衆は革新的な教えに驚きながら聞いていた。
話が終わるとシモンに
「深みに漕ぎ出して、網をおろしなさい」
と指示したが、シモンは言った。
「先生、私たちも夜通し働きましたが、何一つ獲れませんでした」
シモンは今日は魚が捕れないということを痛感していたのだが、イエスに頼まれたので
「でも、お言葉通り、網をおろしてみせましょう」
と答えて、言う通りに網をおろしたのだった。
その様子を見ていた他の弟子や、漁師たちも「捕れるわけがない」と思った。最近不漁が続いているし、普通の漁は夜間に行うものなのに、今の時間は真昼間、何もかもメチャクチャである。捕れるわけがない…
しかしである…程なくすると…
なんと、網が破れそうなほど魚が溢れたのだ
シモンは、自分一人では無理だと瞬時に判断し、別の船の者に合図をして、助けを求めた。あまりの魚の多さに、今にも転覆しそうである。
助けの船がやって来て、両方の船でやっとの思いで引き上げると…
二そうとも沈みそうなほどの魚で溢れかえっていた…
この町は漁業の町で、漁師もとても多い。この時点での弟子達も全員漁師であるし、それ以外の見物人も、漁業に馴染みのある者ばかり…つまり、見物者のほぼ全員、その道のプロである。
しかし、目の前で起こった出来事について、説明できるものは誰一人としていなかった。このようなことは、未だかつて起こったことがない。一体何が起こったのだろうと驚き、誰もが言葉を飲んだ。
病気の癒しや悪霊の追い出しなどのしるしを見て、人々や弟子達はイエスの力を理解したつもりではいたが、それはどこか自分とは遠いわざであり、実感が足りなかったのかもしれない…が、今回の事はわけ違う。漁業に関してはプロである。起こったことの重大さを何よりも思い知るのは目の前の者達なのである。
自分たちよく知る生業を用いて”しるし”を示されたことで、イエスの力をまことに思い知ることとなった。
群衆は言葉を失い、魚の跳ねる音と、風と、せせらぐ水の音だけが響いていた…
シモンは急に恐ろしくなって、イエスの足元にひれ伏し
「主よ…私のような者から離れてください…私は罪深い人間ですから…」
と言った。シモンのイエスに対する姿は、神を崇める姿そのものであった。シモンはイエスを神だと感じ、自身の罪深さに押しつぶされそうになったのである。そしてそれは、その他の者達も同様で、ひどく恐れたのだった。
イエスはシモンの背中に手を置くと、優しくこう言われた。
「怖がらなくてよい…これから後
あなたは人間を捕るようになるのです」
その言葉を受けた弟子達は、陸に船をつけると
何もかも捨てて、イエスに従った…
…30話へ続く