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ロゴス #21

第21話『小さな光』

「すいません…少しお話が」

夜、人目を避けながら現れたその男の名前は『ニコデモ』という男

パリサイ派(特にイエスと対立することになる宗派)の最高法院の議員で、ユダヤ教の指導者でもあったが、彼の目にはイエスに対する敬意があった。ニコデモは言った。

「”ラビ(師)”…私たちは、あなたが神のもとから来られた教師であることを知っています。そうでなければ、昼間のようなことはとても出来ません」

ニコデモはイエスの倍ほど歳をとっていたが、そのニコデモからイエスへ”ラビ”と呼びかけたことは、相当な敬意の現れと言える。その言葉を受けたイエスは、「まことにあなたに告げます」と重要性を前置きをして、ゆっくりと語りかけた。

「人は新しく生まれなければ”神の国”に入ることはできません」

パリサイ派の教えでは、アブラハムの子孫であるユダヤ人は、無条件で神の国に入ることができると教えていたので、イエスのこの言葉は、ニコデモの信仰を否定することになる

イエスの言葉は受け入れがたいものであったが、ニコデモは「そうですか」と必死に飲み込もうとしているようだった。そして質問する。

「人は年老いていずれ死んでしまいます…

私ももう長くないでしょう。そんな私がどうやったらもう一度生まれることができるのでしょうか❓

母に胎内に戻って、もう一度生まれると言われるのですか❓」

「人は”水と御霊”によって生まれなければ、神の国に入ることはできません

聖書では一般的に水は言葉の象徴的表現として用いられるので、水と御霊と言う表現は”神の言葉”と受け取ることができる。つまり”ロゴス”

肉によって生まれたものは肉です。言葉(ロゴス)によって生まれたものは霊です」

その言葉をニコデモは理解することができなかった。ただ”この人の言葉はしっかりと聞いて置かなければならない”…そう思い、心に刻むことだけに終始した。

「理解は難しいでしょう…しかし不思議に思わないでほしい…

風は思いのままに吹きます…

それをあなたは音で実感するでしょう…

ただ、あなたはその風がどこへ行くのかは知らない…

言葉(ロゴス)によって生まれるということも同じことです…

あなた達は知らないことばかりなのです」

ニコデモは頭を抱えるばかりであった。

「…どうして、そんなことがありうるんでしょう❓」

イエスは言った

「あなたは…ユダヤのラビでありながら、見に見えることしか理解できないのですか?」

不思議そうに見つめられるニコデモは、その視線をひどく痛く感じるのだった。イエスは例を変えて「これなら」と説き始めた。

「モーセが荒野で蛇を上げたように

旧約聖書 民数記 21章「主はモーセに仰せられた。『あなたは燃える蛇を作り、それを旗ざおの上につけよ。すべてかまれた者は、それを仰ぎ見れば、生きる』モーセは一つの青銅の蛇を作り、それを旗ざおの上につけた。もし蛇が人をかんでも、その者が青銅の蛇を仰ぎ見ると、生きた」

”人の子も”上げられなければならないのです…

それは…

信じる者が皆、人の子でありながら永遠の命を持つためです」

さらにイエスは言葉を重ねた。

「神はひとり子(私という犠牲)を与えたほどに、人を愛された

それは、そのひとり子(私)を信じる者が、一人として滅びることなく、永遠の命を持つためである」

… … …

帰りの道で、ニコデモはまだイエスの言葉を信じきれずにいた。しかしその一つ一つの言葉の力に圧倒され、また深く突き刺さっていた。

最高法院の議員としての誇り、人生…いわば

自分の全て

と、突然現れた

イエスという名のメシア

の間で…ニコデモは激しく揺れ動き、葛藤を繰り返すのだった…

…22話へ続く