ロゴス #23
第23話『サマリヤの女』
イエスと弟子達がサマリヤ地方のスカルという町を歩いていた頃、疲れを感じ始めた時に、井戸を見つけたので、そこで休もうと腰を下ろした。
日も落ち始めたので、弟子達は食料などを調達するために、それぞれに歩いていった。
イエスだけ井戸に残り、休んでいると、一人の女が井戸から水を汲もうと現れた。女はイエスがまるでそこにいないかのような様子で、水を汲もうとしている。
イエスを見て、ユダヤ人だと察した女は、イエスを無視して、早々に用事を済ませようと思っているのだ。
ユダヤ人に出くわすなんて運が悪い…
イライラしながらも、何故ユダヤ人がサマリヤの地にいるのだろう?と疑問に思うのだった。
「…私に水を飲ませてくれませんか?」
「❗️❗️えっ❓」
女は腰を抜かすほど仰天し❗️❗️❗️水を少しこぼしてしまった…
ユダヤ人が私に話しかけた
それ以外にも驚くべきことがある
まず公の場で男から女に声をかけることは異例であるし、ましてやイエスは「水をください」とお願いしているのだ。
ユダヤ人にとってサマリヤ人に恩を負うことは、どうあっても避けたい屈辱なのだ。プライドが許さない。現に食料を買う弟子達は、必要以上の代価を払って恩を受けまいとしたくらいである。
そんなユダヤ人の男が、女の私に、お願いをしている
当時では考えられないイエスの行動で、それまでのイライラなど一気に吹き飛び、素直に聞き返した。
「…あら驚いた。あんたはユダヤ人なのに、サマリア人の私に水をもらいたいのかい?」
女の言葉は、少し乱暴ではあったが、悪意などはなかった。イエスの行動が
社会的、人種的、宗教的壁を一瞬によって粉砕したのである。
イエスは答えた。
「もし、あなたが神の賜物を知っていて、水を飲ませてくれと言っている人が誰であるか知ったなら…
あなたからその人に求めたでしょう…
そしてその人は”生ける水”を与える」
イエスの言葉を女は理解できないので、とりあえず疑問に思うことをイエスに投げかけてみた。
「水をくれ…はいいけどさ先生?あんたは汲むものも持っていないみたいだけど、この井戸は深いよ?…どうやって汲むつもりなのさ?
で?代わりに”生ける水”とやらをくれるっていうの?
この井戸はご先祖様のヤコブが掘ったんだよ…彼も彼の子孫も家畜たちもみんなこの井戸の水に生かしてもらっているんだ
まさかあんた…ヤコブよりも偉いっていうんじゃないだろ?」
イエスは答えて言われた。
「この水を飲んだとしても、少しすればまた喉は乾きます…
しかし、私が与える水を飲むものは、誰であろうと決して渇くことはありません…
私が与える水は、飲んだ人の中で泉となって溢れていきます…
それは永遠の命の水です」
女は笑った。
「あはははは、そいつは良いねぇ…もう汲みに来なくてもいいなんて最高だよ。そんな水があるなら、ぜひ下さいな」
「わかりました…あなたの夫をここに呼んできなさい」
「おっと、残念…大先生?
…私に夫はいないんだよ」
そう言って、女はまだ笑っていたが、次のイエスの返答に驚き、言葉を失った。
「確かに、夫がいないというのは本当ですね…
あなたには以前に5人の夫がいたが
今一緒に暮らしているのは夫ではないですからね…
あなたの言ったことは本当だ」
イエスは女の状況を全て的中させたのである。女は驚いて言った。
「先生…あなたは預言者だと思います」
イエスを指す”先生”という言葉に、もう嘲りの色は見えなかった。
「先生…一つ聞きたいことがあります。私たちは、先祖もみんなこの山で礼拝しています。でもユダヤ人は礼拝する場所はエルサレムだと言う…どうすれば良いのでしょう?」
イエスは答えた。
「神を礼拝する場所は
この山でもなく、エルサレムでもない
…そういう時が来ます
真の礼拝者たちが霊とまことによって父を礼拝する時…
今がまさにその時です
神が求めるのはそういう人たちです
神は霊なのです
ですから、神を礼拝する者は、霊とまことによって礼拝しなければなりません」
礼拝に場所は関係ない。神に対する理解とまことの信仰、姿勢が重要なのだとイエスは説いたのである。
女はイエスの言うことが革新的過ぎて、理解が追いつかず、混乱してしまったので、逃げるように言った。
「いずれ、キリスト呼ばれるメシアが来ることは、こんな私でも知っています。その方が来られる時には、全ての事を教えてくれるでしょう…それまで待ちます」
イエスは言われた。
「あなたと話している私がキリストです」
イエスが自身をキリストと断言したのは、この時が初めてであった…
…24話へ続く