ロゴス #20
第20話『怒るイエス』
カナでの婚礼を無事に終えた後、イエスは家族や、弟子達と共に、カペナウムへ下って行き、長い日数ではなかったが、そこに滞在した。
その後”過越の祭”が近づいたので、イエスと弟子達は、エルサレムへ上ったのだが、宮の様子を見たイエスは、細縄を手に取ると、何やら作業を始めたので、弟子の一人が尋ねた。
「…先生?何をなさっているのですか?」
その質問に、イエスは答えず、作業を続けるだけだった。
それにしてもエルサレムは賑やかである。庭には露店が並び、生贄用の牛や羊や鳩が売られている。両替人も何人かいるようで、それぞれがしのぎを削って、商売に熱をあげているようだ
全焼の生贄に捧げる動物を担いで旅をするのは大変なので、値段が高くても現地で調達する巡礼者が多かった。両替人の仕事は神殿専用の通貨ツロに両替するため。当時の基本通貨はローマ帝国のデナリだが、それにはローマ皇帝のマークが印されているので、偶像礼拝にあたるとして、神殿では使えなかった。
そんな時、丁度バプテスマのヨハネとその弟子達もエルサレムへ到着した所だった。懐かしい顔にヨハネは嬉しそうに微笑んだ。そして、イエスに挨拶しようとした時
突然の出来事だった
「❗️❗️❗️❗️先生…それはまるで…」
イエスは”それ”を振り上げ、そして振り下ろした。
バコーン❗️❗️❗️❗️❗️❗️❗️❗️❗️
「❗️うわっ❗️❗️」
露店が壊れて、売り物の鳩が飛び立った。大きな音と悲鳴が響いたので、庭にいた多くの人々がイエスの方を見た。
その手には細縄で結った鞭の用なものを持ち、執拗に振り下ろし、店を破壊していった。
商売人はたじろぎ、両替人は驚きでお金を撒き散らした。イエスはそれまで見せたことの無いような形相で、次々と宮から叩き出していった。
「商売道具を持ってここから立ち去れ❗️❗️❗️❗️
私の父の家を商売に利用するんじゃない❗️❗️❗️❗️❗️」
その突然の行動に、弟子達ですらたじろいだ。あの厳しい人、バプテスマのヨハネでさえ、呆気に取られるばかりであった。
そうこうしている内に、あっという間に宮の庭にいた商売人達は誰一人としていなくなった。
旧約聖書 マラキ書 3章「あなたがたが尋ね求めている主が、突然、その神殿に来る。だれが、この方の来られる日に耐えられよう。だれが、この方の現われるとき立っていられよう。まことに、この方は、精練する者の火、布をさらす者の灰汁のようだ」
その出来事にヨハネはハッとして呟いた。ある聖句を思い出したからである…
「…あなたの家を思う熱心が、私を食い尽くす」
旧約聖書 詩篇 69篇 9節「あなたの家を思う熱心がわたしを食いつくし、あなたをそしる者のそしりがわたしに及んだからです」
様子を静かに伺っていた祭司や学者達が、イエスに近づいて言った。
「いやぁ…派手にやりましたなあ…いや、しかし…
こんなことをするからには、あなたはメシアか大層な預言者なのでしょうね❓
どんな”しるし”を私たちに見せてくれるんでしょうか?」
表面的には笑顔であったが、目の奥は笑っていなかった。自分たちの管理するテリトリーを侵されて内心は穏やかではない。「証拠を見せろ」とはなかなか意地悪な要求である。それに対してイエスは答えて言われた。
「この神殿を壊してみなさい…
それを私は三日で建て直そう」
祭司達の要求は信じるための問いではないことがわかったので、イエスは不可解な返答で、祭司達を困らした。
「❗️❗️バカな…この神殿は建てるのに46年かかっているんですよ❓それをあなたは3日で建てると言うのですか❓それも一人で❓」
実はここにいる全ての人がイエスの言葉を誤解している。弟子達もまた同じである。
その誤りに気がつくのは、イエスの三日目の復活を目の当たりにする時。その時、弟子達はこの言葉を思い起こして、より信仰を深めるのだが、それはまだずっと先の事。
さて、返答に困った祭司達は「もういい」とイエスらを解放したのだが、遺恨残す形となってしまった。
日が暮れて、その日の夜の事。一人の男がイエスの泊まる場所を訪れる。
「すいません…少しお話を」
その男は執拗に身を隠している様子であった…
…21話に続く