ロゴス #8
第8話『偽の王がイエスを恐る』
「ユダヤの王として生まれた方はどこにおいでになりますか?
私たちはその星を見たので、拝みに参りました」
ユダヤの王ヘロデはその言葉を聞いて冷たい汗をかいた…
王を目の前にして゛王はどこか❓゛と尋ねるのだ。
東の方から来た三人の博士(占星術学者)はメシア誕生を知らせる星を見たので、来たらしい。
旧約聖書 民数記 24章 17の預言「私は見つめる。しかし間近ではない。ヤコブから”一つの星が上がり”イスラエルから一つの杖が起こり、モアブのこめかみと、すべての騒ぎ立つ者の脳天を打ち砕く」
また、彼らは『旧約聖書 ダニエル書 9章』により、メシア到来の時期を推定していた。その時期と星の上がったタイミングがバッチリだったので、確信を持って、ユダヤの国へ赴いたのだ。
メシア誕生の場所は、旧約聖書ミカ書5章2節に預言されていたが、生まれた地域が預言者ミカの活動地域と異なるので、この博士たちはこの預言を知らない。よって、とりあえず首都であるエルサレムの王の元へ来た
ヘロデは唐突に、心に剣を刺されたようだった。
彼はユダヤの王であったが、自分には正統な資格がないことを自覚していたからだ。
彼はイドマヤ人である。
預言ではユダヤの王となるのはユダ部族とされている。更に言うと、ヘロデはユダヤ人ですらなかったが、ユダヤ教を信仰すれば法律的には王になる権利はあったので、体裁だけを整えてその地位を得ていたのだ。
「長旅で疲れたであろう、少し休むといい。私は今忙しくてね、話は後で詳しく聞かせてくれ」
ヘロデは平静を装い、そう告げると…
集めれるだけの祭司長、学者を集めて、そのメシアがどこで生まれると預言されているのかと問いただした。
不安が、猜疑心の強いヘロデをけしかけたのだ。そして、ヘロデが引き出した情報は、彼を恐怖のどん底に叩き落とすことになる…
集められた者達は唖然とした…ヘロデ王はそんなことも知らないのか…と。
「ベツレヘムです。預言者によってこう書かれているからです。
『ベツレヘム・エフラテよ。あなたはユダヤの中で最も小さいものだが、あなたのうちから、わたしのために、イスラエルの支配者になるものが出る。その事は昔から、永遠の昔からの定めである』」
ヘロデは戦慄した…
私の王位を狙うものが現れる
… … …
ヘロデは博士たちの元へ戻って来て、不安を押し殺し、さりげない風にこう言った。
「一つ聞きかせてくれないか?その星とやらはいつ上ったんだね❓」
「二年ほど前ですね」
「なるほど。…生まれた幼子だが、ベツレヘムにいるようだ。行ったら
詳しく調べて後で色々教えてくれないか❓
私も行って拝みたいと思ってね」
ヘロデは博士たちに、帰りもエルサレムへ必ず寄るようにと告げ、笑顔で博士たちを送り出した。
その笑顔の内に押さえ込まれている憎悪に、配下の者や町の人々は恐れ惑った。
残忍な大王様のことだから、何をしでかすかわからない…
この大王ヘロデの人格を言い表した、皇帝アウグストの言葉に、こういうものがある。
「ヘロデの息子に生まれるくらいなら豚に生まれた方がマシだ」
ヘロデは自分の権力や地位に固執しすぎるあまり、猜疑心の塊となっていた。それはまさに病的で、親族であろうとを次々に殺していった。妻マリヤンメ、その息子アルシュトビラス、アレキサンドル。また別の妻が生んだ息子アンティパテルも殺し、マリヤンメの兄弟アルシュトビラス(同じ名)や母アレキサンドラも殺した。更にマリヤンメの祖父ジョンヒルカノスまで手にかける周到さと残忍さ。その異常さに皇帝も「豚に生まれた方がマシだ」と呆れたのだ。
その異常なまでの殺意が、今ベツレヘムにいるという幼子に向けられている。
「幼子は必ず殺す」
…
イエスが生まれて初めて向けられた殺意…
それは実に邪悪で、強大なものであった…
9話へ続く…