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ロゴス #27

第27『恐る悪霊』

ナザレでの拒否を受けて、弟子達は動揺していた。どの地でも受け入れられるものと思っていたからである。まさか、イエスの郷里で拒否されるとは…

イエスは

「偽善者達は、自分の目の中でメシアを見つけようとする」

とだけ弟子に語って、それ以外は何も言わなかった。残念そうではあったが、驚いた様子はなかった。

ナザレを去ったイエスたちは、病人を癒した町、カペナウムを訪れた。ゼブルンとナフタリの間にある、湖のほとりの町である。

カペナウムに着くと、すぐにイエスは会堂に案内され、朗読を頼まれた。会堂には多くの人々が待っていて、その目は輝き、イエスの言葉を待望にしているようだ。役人の息子の癒しの話は、カペナウムで知らない人はいないほどに噂されていたからだ。そのイエスが朗読をしに訪れたというので、いつにも増して、会堂に人々が押し寄せていたのである。

イエスは、早々に朗読を終えると、その朗読箇所の教えを説き始めた。その内容は、これまでの朗読者とは全く違ったので、聞いている人々は驚いた。

普通の朗読者は、決まった文章の朗読がメインで、解説などは気持ち程度のものであった。儀式的なものとして行われていたので、内容に思いを巡らすようなことはなかったのだが、しかしどうだろう?…

イエスは聖書の内容を自分の言葉のように語り、その教えの真意を事細かに話された。その姿は預言者のようであり、その言葉には権威があったので、人々は大いに驚き、息を飲むように、聞き浸っていた…

「ナザレの人イエス❗️❗️❗️❗️❗️❗️」

それは突然にイエスの言葉を遮った。

「一体俺たちに何をしようというのだ❗️❗️

俺たちを滅ぼしにきたんだろう❗️❗️

俺たちはあんたを知っている❗️❗️

神の清い御子様よ❗️❗️」

その叫ぶ人の様子を見て、人々は汚れた霊に憑かれて叫んでいるのだということがわかった。

当時悪霊に憑かれるというのは、そこまで稀な出来事ではなく(本物であるかどうかは別として)悪霊祓いは祭司などによって行われていた。その手順としてはまず悪霊の名を突き止めることから始まる。名を呼ぶというのは支配を表し、支配するからこそ追い出せるので、名を聞くという作業が一番重要である。ここで悪霊は「イエス」と名を呼んでいる。悪霊がイエスを支配しようとする意思が伺える

人々は距離をとったが、悪霊はひどく怯えているようだった。

「あんたは、間違いなく聖者だ❗️❗️❗️讃えよ❗️❗️」

悪霊に讃えられるイエス…という不思議な構図に、人々は違和感を覚えた。するとイエスは断ち切るように叱った。

「黙れ!!この人から出て行け!!」

すると、その人は痙攣を起こし、大声をあげて叫んだ。人の声ではなかったので、悪霊が叫んでいるのだと皆がわかった。悪霊は追い出されたのである。しかし、追い出したことよりもさらに驚くべきことが起こっていた。イエスは

悪霊の名を呼んでいない

のだ。それまでの追い出しとは根本的に違う。そう気がついた人々は皆さらに驚いて、お互いに論じながら、口々に言った

「これは…権威ある新しい教えではないのか?

汚れた霊でさえ、叱るだけで戒められ、従うのだ」

こうしてイエスの評判は、すぐに、ガリラヤ全地の至る所に広がった。

この時以降、イエスは、ここカペナウムをガリラヤ伝道の拠点とする事になる。

カペナウムでは漁業が盛んで、塩蔵の品を各国に流通させていたので、商人や異邦人の往来も多く、水路も豊富で、要衝の地として栄えていたので、伝道の地としてはとても優れていた。

そして、この時、また一つの預言が成就していた。

旧約聖書 イザヤ書 9章 1〜2節 「ゼブルンの地、ナフタリの地にはずかしめを与えられたが、後には海に至る道、ヨルダンの向こうの地、異邦人のガリラヤに光栄を与えられる。 暗やみの中に歩んでいた民は大いなる光を見た。暗黒の地に住んでいた人々の上に光が照った」

…28話へ続く