心理学検定のキーワードをおさえて、大学の心理学をザザっと学ぼう!『産業・組織』

人事心理学とその人事・労務管理への貢献

科学的管理法

フレデリック・テイラー(人名)が20世紀初頭に提唱し、ガント、ギルブレスらによって発展した労働者管理の方法論。 テイラー・システムとも呼ばれる。 現代の経営学、経営管理論や生産管理論の基礎のひとつ

これは

職務分析

特定の職務の遂行に必要とされる知識・経験・能力や作業環境などを明らかにし、職務の内容を明確にするための分析。 職務給の決定、人員の採用・配置・教育訓練などのために行われる。

に基づき、客観的かつ合理的に職務を明確化し、職務設計と差別出来高払い制度による動機付けなどを行い、それまでの経営管理の方式を大きく変え、近代的な経営管理や人事・労務管理の出発点となった。

しかし、このような合理的な職務設計は、働く人々の仕事を

標準化

すると同時に

流れ作業

に必須な

細分化

を促進した。そのような単純反復作業は、拘束性が高く

人間性疎外

人間が機械の部分品のように扱われて、人間らしさが無視されること。 社会が巨大化し複雑化するにつれて、人類の発展のためという本来の目的を忘れ、人間性を失っていくことへの警告として生まれた語。

の問題を引き起こした。

技術・科学の視点が優先されがちな科学的管理法に対して、”人”という視点に立ち返り、それを補完したのが産業心理学であり、産業心理学の父と呼ばれる

ミュンスターベルク(人名)

の「最適の人」「最良の仕事」という考え方は人と技術の適合を図ったという意味で大きな貢献を果たした。その一つが

募集・採用時

における

適性検査

職業・学科などにおける特定の活動にどれほど適した素質をもっているかを判定するための検査。

職業興味検査

VPI職業興味検査は、160の具体的な職業に対する興味・関心の有無を回答することにより、6種の職業興味領域に対する個人の興味・関心の強さを測定するとともに、個人の心理的傾向を5領域について把握しようとするもの

等の各種テストの開発などである。

ホーソン実験

アメリカのシカゴ郊外にあるウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われ、「職場の物理的な環境条件ではなく、人間関係が生産性に影響する」ということを突き止めた有名な実験

を通して、働く場における

非公式組織

個人間の接触・相互作用を通して自然発生的に形成されるもので,意識的な構造や制度をもたない社会的結合を意味する

また、そのような集団への帰属意識、そして、集団の持つ

集団規範

集団内の大多数のメンバーが共有する判断の枠組みや思考様式のことをいう。 集団のメンバーは相互作用を続ける過程で、認知や判断、行動について「こうあるべきだ」という一定の基準や価値観を共有し、規範を形成する。 規範はメンバーの心理と行動に強い影響を及ぼす。

集団出来高払いの有効性などを発見した。それらは、働く人が持つ感情

職務態度

や人間関係に関する研究の発端となり、リーダーシップや動機付け

職務満足感

従業員が職務そのものから受け取る満足感。賃金や作業条件や人間関係など職務の外的な条件はいかによく整えても,せいぜい不満を予防する歯止めの働きしかせず,これに対して従業員が満足を感じ業績や能力の向上に動機づけられるのは職務そのものであった。

モラール

集団を構成する成員たちの多くが,その集団に対する信頼,集団内での自分の役割についての自信,集団目標に対する熱意,集団への忠誠心などをもっているような集団内の心理的状態。

コミニュケーションなど、人間関係管理の主要な領域がここから出発している。その後

マズローの欲求階層説

人間の欲求を5段階の階層で理論化したもので、自己実現理論とも呼ばれます。 アメリカの心理学者である アブラハム・マズローが提唱した理論です。 マズローは、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである。」

と、それを企業場面に活用した

マグレガー(人名)

のX理論・Y理論や

アージリス(人名)

の未成熟ー成熟理論など、働く人々の欲求の変化やそれに伴う管理の変化の必要を示唆する多くの研究が1950年代末から60年代にかけて登場した。とりわけ

バーズバーグ

動機付けー衛生要因理論(2要因理論)

人間の仕事における満足度は、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるということではなくて、「満足」に関わる要因(動機付け要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別のものであるとする考え方。

は、成長欲求を持つ人々の管理に新しい視点を提供した。それらは、現実の人事・労務管理が、民主的リーダーシップや様々な意味での

経営参加、職務再設計

を促進する上で理論的背景となった。

近年、わが国では終身雇用慣行が崩れ、人件費の抑制を目的とした

成果主義

企業において、業務の成果、それに至るまでの過程によって評価し、報酬や人事を決定すること。 類似概念として結果のみで評価の判断を行う結果主義が挙げられる

という考え方が濃厚になってきた。そのため、企業に対する帰属意識・忠誠心を持って貢献するという

心理的契約

が破棄された。そのため、公正な評価や、評価基準・評価方法への関心が高まった。

働く人々への評価に関しては、古くから

人事考課

があったが、不明確な評価基準や内容

自己評価と他者評価のギャップ

評価者の持つ

心理的バイアス

など、様々な問題が指摘されてきた。そのため、考課者訓練や

二重考課や多面考課

上司だけでなく、その上の上司を加える評価が二重考課。隣の部門の上司、さらには同僚・先輩・顧客などの評価を加えたのが多面考課。

などの試みが繰り返されたが、成果主義導入に合わせて、より活発となってきた。合わせて

目標管理

組織貢献と自己成長の両方が達成できる個人目標を設定させ、その達成度で評価を行う人事制度

コンピテンシー

「高い業績・成果につながる行動特性」のこと。 例えば、ある特定の業務において、高い業績や成果を出している人がいるとして、その場合、その高い業績や成果を出している人には、何か業績や成果を出す理由があると考える。

という概念を判断基準に持ち込んだりする試みが行われている。

なお、人事評価には、人事考課以外に

ヒューマンアセスメント(アセスメント・センター方式)

企業が従業員に対して職務の適性に対する事前査定、または能力や業績の測定(いわゆる勤務評定)を行うこと

がある。前者は直属の上司が、後者は評価の専門家が評価する点で大きな差異がある。

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職務態度

については、一般的に

職務満足感

職務関与

コミットメント

動機づけ

などが相互に高い関連性を持つことを示す研究が多い。特に職務満足感は、産業・組織心理学研究の中で最もよく用いられる要因である。また生産性との関連から論じられることも多く、産業場面での関心も高い。

職務満足感の初期研究では、離職、退職、無断欠席などの原因として、職務満足感に焦点が当てられていたが、1950年代末に

動機づけー衛生要因理論

が登場し、より、動機づけとの関連を鮮明にしたことが研究を飛躍的に増大させた。しかし、関心を仕事そのものへ集中し、全体的な生活という視点を弱めたという面も否めない。

またMSQやJDIなどの信頼性の高い尺度が開発されたことや

仕事ストレスやソーシャルサポート

QWL

”Quality of Working Life”の略で、「労働者の労働生活の質」を指す。 近代産業以降の労働の機械化などにより、人間性の喪失や健康への影響などの課題が発生し、 その反省から、人間が人間らしく仕事ができるようにする取り組み「QWL」運動が提唱された。

などとの関連から論じられることが多くなったことも研究の拡大を促した。

1999年、ILO総会でQWLという言葉の代わりに

ディーセント・ワーク

「働きがいのある人間らしい仕事」という意味の言葉で、具体的には「子どもに教育を受けさせ、家族を扶養することができ、30年~35年ぐらい働いたら、老後の生活を営めるだけの年金などがまかなえるような労働」であるとされている。

という言葉が使われるようになったが、この尺度としても職務満足感は重要な役割をしている。

職務満足感に影響する要因としては、仕事の面白さ、達成、承認、責任などの内面要因や、周辺にある労働条件、人間関係、パーソナリティ、家庭、社会、経済的要因など様々なものがある。また時代によって求められることが変わってきていることも予測される。

仕事そのものの要因が重要とされるのは

成長欲求

を持ち、自己の仕事の統制感や

自律性

に大きな価値を置いている人たちである。それは

職務拡大や職務充実

への展開につながり、その前提となる

職務特性モデル

JDS(職務診断調査)

の研究を促した。

ディーセント・ワークやQWLや労働の人間化には二つの目的があり、一つはマニュアル化、細分化された労働な非人間性から生じる

人間性疎外

人間が機械の部分品のように扱われて、人間らしさが無視されること。 社会が巨大化し複雑化するにつれて、人類の発展のためという本来の目的を忘れ、人間性を失っていくことへの警告として生まれた語。

への対応で、これには

社会ー技術システム論

新しい技術などを導入する際に、それを扱う人間の特性や科学と人間の相互作用にも配慮して、両者の同時最適化を図ろうとする考え方。

に代表される。テクノロジーと人との調和の模索と自律性の拡大という目的がある。もう一つは決定権がないことから生じる疎外現象への対案で、産業民主主義を目指した、経営に関する意思決定の参加という目的がある。

それぞれを具体的に見ていくと、社会ー技術システム論については、スウェーデンのボルボ社で有名な

自律的作業集団や半自律的作業集団

チームの中で,だれがどのような仕事を,どのような手順や速さで行なうかを自分たちで決定する。作業チームごとに独自の職場出入口や休憩コーナーが設定され,自分たちで仕事と休息の時間を決めることができる。またチームリーダーを自ら選び,リーダーとメンバーの間は民主的な関係になっている。週または1ヵ月の生産目標は管理者との交渉によって決められるため,半自律的であると考えられている。この新しい作業方式は,労働者の自律性の尊重という観点から「労働の人間化」の重要な方策とされ,ILO (国際労働機関) などがその普及を進めている。

などがあり、個人の仕事の充実に関しては、米国で展開した職務拡大や職務充実などがある。それらが離職、退職を減らしたり、生産性を向上させたりという報告も数多くなされている。

わが国ではQCサークルが盛んであり、一人で全ての組み立てを一貫して行う一人屋台

セル生産方式

製造における生産方式。1人、または少数の作業者チームで製品の組み立て工程を完成(または検査)まで行う。ライン生産方式などの従来の生産方式と比較して、作業者一人が受け持つ範囲が広いのが特徴。

も、多品種少量生産や高機能商品の生産性の向上を前提に試みられている。

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働く人の

メンタルヘルス(心の健康)

は、個人が快適に過ごせるかだけでなく、企業にとっても、生産性の向上や、事故・訴訟などのリスク回避のため関心が高まっている。特にリストラや、成果主義は、職場でのゆとりをなくし、無用な競争を働く人々に強いるため、メンタルヘルス維持の上で大きな負の影響をもたらしている。

メンタルヘルスに関しては

仕事ストレス

が挙げられることが多く、その原因である

ストレッサー

ストレスを生物に与える何らかの刺激のことを言う。 また、その範囲は広い。 主に物質的な刺激のことをいうが心理的な意味も含まれる(暑さ、寒さ、痛み、生理的物質への反応、怒り、苦しみ、など)。 この用語は主に心理学、生物学等においてストレスの原因の意味として使われる。

と、その反応である

ストレイン

ストレスにより生じる心の負担、緊張感

の二つの面から論じられることも多い。

ストレッサーとしては、賃金、労働時間、休日など仕事の内容や

疲労

だけでなく人間関係や、物理的環境(気温、湿度、騒音など)の影響も少なくない。特に人間関係は上司との関係だけではなく、様々な人との

役割葛藤

たとえば、医者の役割を例にとってみると。患者に対する医者の役割には、二つの矛盾する役割期待がふくまれている。第一に、患者に対して感情にとらわれずに冷静に診断すること。でなければ「いい加減だ」とか「やぶ医者」といわれかねない。その一方で、医者の役割には、患者に対して同情的な関心を示すことも要求される。痛みを訴える患者に対して「それはつらかったでしょう」の一言もつけくわえるぐらいでないと「人情味がない」とか「冷たい」と評価されてしまう。そういったジレンマ

が大きな問題となっている。

ストレインは、単にイライラするといった事から、心身の不調、事故、病気、退職

バーンアウト

燃え尽きるという意味で、心身のエネルギーが尽き果てた状態を指す表現。 それまでひとつのことに没頭していた人が、心身の極度の疲労によって、ある日突然、まるで燃え尽きたかのように意欲を失い、社会に適応できなくなってしまうことを「バーンアウトシンドローム」(燃え尽き症候群)という。

過労死

などに至る大きなリスクまで多岐にわたる。多くのストレインは労災の訴訟を伴う要因であり、企業は

メンタルヘルス管理

が要求されている。メンタルヘルス管理は

ストレス・コーピング

日常生活においてストレスを感じた時に、そのストレスと上手に向き合うための技術や能力のこと。 ストレスに対して、なんとなく行動するのではなく、戦略的、かつ、適切に対処することでストレスは限りなく低減させることができると考えられている。

などの

一次予防

から始まり、上司・同僚などによる

気づき

監督者への注意喚起、組織内専門家

産業カウンセリング

心理学的手法を用いて働く人たちが抱える問題を自らの力で解決できるよう援助する活動。

などによるケア、治療などがあり、近年は、治療からの復帰者に対する復職プランの策定が大きな課題になっている。また個別の企業では専門家を雇用できないことが多く、そこでは

EAP

Employee Assistance Program(従業員支援プログラム)の略で「働く人のメンタルヘルスケア」のこと。従業員の心の健康をサポートするメンタルヘルスケアのプログラムとして高い評価を得ている。

などの外部委託も行われている。

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多様な働く人々と雇用の多様化

時代の流れと共に働き方などがと多様化してきた。さらに雇用機会均等法の制定を受け、女性正社員の処遇が課題となってきた。そこでは、男性中心の総合職と女性中心の一般職という

コース(採用)区分

男性中心の総合職、女性のみの一般職という区分は、性による処遇差別との批判を浴びたが、地域限定社員のような男女を問わず、転勤や異動の制約により処遇を変える企業も増えている。

を通じて、男女格差の整合が図られた。

バブル崩壊後、リストラが盛んになり、労使の

心理的契約

企業において従業員が雇用されることとなる場合においての契約であるが、内容が暗黙の了解において結ばれるようなもののことを言う。契約というのは通常は契約書などを通じることにより明文化されることとなっているものの、心理的契約にはこのような契約書は存在しない。心理的契約というのは、信頼に基づいた上で結ばれるという側面が強い。日本の企業においては多くの場合は心理的契約という形で労働契約が結ばれていた。というのも日本においての雇用形態というのは終身雇用制が主であり、従業員というのは終身を就職先で過ごすこととなり、余程の事がない限り他の企業に移るということが無かったからである。

は破棄されたが、解雇の自由を確保したまま労働力を得たい企業は

非正規社員

という形で普及していった。現在でも非正規社員は40%(女性は60%)近くを推移し、外国人労働者も増え、多様な働く人々が職場を構成している。

非正規社員はパートタイマー以外にも派遣社員、契約社員、嘱託社員など、形態が多様化してきた。このことは主婦が家事と仕事を両立せざるを得ないというわが国独特の

ジェンダー

生物学的男性ないし女性にとってふさわしいと考えられている役割・思考・行動・表象全般を指す。男性にとっては男らしさであり、女性にとっては女らしさである。「男は仕事、女は家庭」といった考え方。

のためにパートタイマーを選択し、自分の専門性を生かしたい人が、派遣社員や契約社員を選択するというように、それぞれのニーズを反映したとも言えるが、正社員になれないからという理由で男性の非正規社員も増えている。

このように多様な人々で構成される職場では、動機付けやリーダーシップのあり方など新しい管理方式

ダイバーシティ・マネージメント

個人や集団間に存在するさまざまな違い、すなわち「多様性」を競争優位の源泉として生かすために文化や制度、プログラムプラクティスなどの組織全体を変革しようとするマネジメントアプローチのこと。

の模索が要求されることになる。また、多様な雇用形態は多くの身分的階層を生み、様々な

ハラスメント

相手に対して行われる「嫌がらせ」のことで、地位や権力などを背景に相手に嫌がらせを行うパワハラ(パワーハラスメント)や男女問わず性的な嫌がらせを行うセクハラ(セクシャルハラスメント)など様々な種類のハラスメントがある。

の温床になりやすい。

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キャリアの発達と能力開発

キャリアとは、職業生活やそれに関連した経験・見聞を通して身につくもので、積極的意図があろうがなかろうが(仕事)生活の中で自然に蓄積され、常にキャリア発達は進行しているといえる。また

スーパー(人名)

をはじめとした様々な論者が、発達段階と年齢を関連付けて

キャリア発達の段階

第1期 成長期(0~15歳) 身体的成長。自己概念の形成が中心。興味や能力の探求が始まる
第2期 探索期(16~25歳) さまざまな分野の仕事やその必要要件を知る。徐々に特定の仕事に特化していき、そのための訓練を受け、その仕事に就く。
第3期 確立期(26~45歳) ある特定の職業分野にしっかりと根を下ろす。その職業分野に貢献し、生産的に活躍し、より責任のある地位を求める。
第4期 維持期(46~65歳) 現在の職業的地位を維持し、若い世代に負けないように、新しいスキルを身につける。この時期の終わりに、退職に向けての計画を立てる
第5期 下降期(66歳~) スローダウンし、少しずつ有給の雇用から遠ざかる。より余暇や家族、地域活動とのつながりのある新しいライフスタイルを始める。

を論じている。

キャリア発達を促進するものとしては家庭や社会での仕事観や、学校教育における基本的な知識や教育、企業における

能力開発

などがある。また私的なキャリア発達支援と公的な発達支援という分け方もある。

企業による能力開発は

OJT

実際の職務現場において、業務を通して上司や先輩社員が部下の指導を行う、主に新入社員育成のための教育訓練のこと

off-JT

職場外での教育訓練。 特に集合研修、講習会、通信教育等、日常の業務を離れて行う教育訓練のこと

の二つに大別される。前者を能力開発の中心と考える人が多い。なお

自己啓発

本人の意志で自分自身(=自己)の能力を開発したり、精神的な成長を目指したりすることを指し、そのための訓練を行うこと

に関しては、企業はそれを支援すべきであろう。また、道筋を示すために

CDP

企業が従業員を育成するプログラムの一つで、個人の適性・希望を考慮しながら、教育研修や配属先を決定し、従業員の能力を最大化するための長期的なプログラム

を作成することも多い。

長期的な人材育成を志向する企業では、その一環として異動を捉え、教育目的で計画的に異動を繰り返すことも多い。その一方で昇進や能力の頭打ち現象を

キャリア・プラトー

組織で働く人に訪れる「停滞状態」のことです。 プラトーは「高原」という意味であり、ある程度のキャリアの山を登ってきた社員が、それ以上のステップアップを期待できなくなる状態を指します。

という言葉で表し、キャリア開発の重要な課題とする企業も少なくない。

私的なキャリア発達支援として

メンタリング

人の育成、指導方法の一つ。 指示や命令によらず、メンター(mentor)と呼ばれる指導者が、対話による気づきと助言による被育成者たるプロテジェ(protégé)ないしメンティー(mentee)本人と、関係をむすび自発的・自律的な発達を促す方法

がある。私的な関係のため、その支援の仕方も多様である。メンタリングを公式に行うのがプリセプターやシスター・ブラザーなどという制度で、初任者を対象にすることが多い。

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心理学の原理を産業場面や経済生活に応用した先駆的研究者は

ミュンスターベルク(人名)

ドイツ生れのアメリカの心理学者,哲学者。 W.ブントのもとで学び,さらにハイデルベルク大学で医学を修めた。フライブルク大学講師を経て,1892年ハーバード大学客員教授,97年正教授。応用心理学の創始者の一人で産業,教育,医学,法律などの領域に心理学を導入することに努めた。産業心理学の父とも呼ばれる。

で、ライプツィヒ大学の

ヴント(人名)

ドイツの生理学者、哲学者、心理学者。 実験心理学の父と称される。哲学者のマックス・ヴント(ドイツ語)は息子である。

の下で学位を取得し、その後米国に渡って活躍した。ミュンスターベルクは

1.最適な人材の選抜

2.最良の仕事方法

3.最高の効果発揮

という3つの基本的な枠組みをもとに、経済生活上の心理学応用を考えた。これらの枠組みは、のちに産業心理学の主要な研究領域として発展した。彼の研究は『心理学と経済生活』(1912)『心理学と産業能率』(1913)『精神工学の原理』(1914)などの著書にまとめられた。心理学の産業的な応用はミュンスターベルクから始まることから、産業心理学の創始者とされる。

同じくヴントの指導を受けた

スコット(人名)

著書『広告の理論The theory of advertising』(1903)を起源として,知覚心理学,認知心理学,社会心理学などを基礎とする応用分野として発展してきた。広告が消費者に与える心理的・行動的影響を説明するために多くのモデルが提案されてきた。

はその業績をもって

広告心理学

広告の方法,手段,その効果などの心理学的な側面や基礎を明らかにしようとする研究分野。

の創始者とされる。

科学的管理法

を提唱したテイラーも、産業心理学に大きな影響を与えた。テイラーは組織能率を経営における管理の視点から捉え、無理・無駄・ムラのない管理の標準方式の確立を目指した。その中心は

時間研究 及び 動作研究

と呼ばれる方法であり、両者を合わせて

作業研究

と呼ぶ。

テイラーの考えは『科学的管理法の原理』(1911)としてまとめられた。科学的管理法では、作業の

単純化

専門化

標準化

が中心となる。テイラーの管理思想は

テイラー主義

と呼ばれる。

テイラー主義は、当時の業界に急速に普及していった。米国ウェスタン・エレクトリック社でも大規模な実験的研究を開始した。

メイヨー、レスリスバーガー(人名)

らによって指導された一連の研究は、実施された工場の名をとって

ホーソン実験

アメリカのシカゴ郊外にあるウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われ、「職場の物理的な環境条件ではなく、人間関係が生産性に影響する」ということを突き止めた有名な実験

と呼ばれる。この研究では、当初の予想に反し、物理的な環境変化よりも、仲間から認められたいといった社会的欲求や、非公式集団の中で生まれたルール・規範が従業員の行動や生産性に強い影響を与えることを明らかにした。この結果は科学的管理法では省みられなかった社会心理学的な視点の重要性を明らかにし

人間関係論

生産性を高めるためには従業員のモラールを高めることが必要なことと,モラールを高めるためには職場の人間関係の改善が必要であることを主旨とする理論。 1927年から 32年にウェスタン・エレクトリック会社のホーソン工場で行われた実験において,生産性が作業条件の変化とは無関係に上昇すること,およびそれが作業条件の変化に対する各作業者のモラールの変化に基づくことが発見され,これが基となった。人間関係論は,企業における人間的要素の重要性を強調したという点で,従来の科学的管理法に対するアンチテーゼとなり,50年代のアメリカ産業界や戦後日本の産業界に大きな影響を与えた。

の発展を促した。

二度の世界大戦では、兵員の選抜、訓練、兵器生産能率向上などに心理学が応用され、産業心理学にも大きな影響を及ぼした。紙と鉛筆でできる

集団式知能検査

二つの種類があり、A式は識字能力のあるものを対象にした検査で、B式は読み書きできないものを対象とする検査

など、多くの簡単な検査方法が開発され、これらはやがて、民間でも利用されるようになった。また、兵器性能の向上に伴い、機械とそれを操作する人間側の適性を考える必要性が求められ、ここから

人間工学

人間が可能な限り自然な動きや状態で使えるように物や環境を設計し、実際のデザインに活かす学問である。 また、人々が正しく効率的に動けるように周囲の人的・物的環境を整えて、事故・ミスを可能な限り少なくするための研究を含む

の分野が生まれた。

第二次世界大戦後に社会の急速なオートメーション化が進んだが、そうした中で

仕事単調感

人間性疎外感

人間が機械の部分品のように扱われて、人間らしさが無視される感覚

などの問題が深刻化してきた。こうした問題に対応するため

欲求(要求)

動機づけ

人間関係

職務満足

リーダーシップ

などの研究が発展した。

研究が広がってくるにつれて、産業心理学という名前では全てをカバーできなくなり、1970年代に入って名前を

産業・組織心理学

と改称した。この二つは厳密に区別されるものではない。

消費者行動研究

労働災害

事故防止

に関わる

安全行動

の研究も、今日の産業・組織心理学の重要な領域である。

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集団目標達成に向けて、集団の力を最大限にできるように働きかける力、あるいはその過程を

リーダーシップ

と呼ぶ。リーダーにはそれを発揮し、集団をまとめ上げてく役割が期待される。類似した概念に

ヘッドシップ

がある。

ヘッドシップの3要素

強制    脅かし、命令など
報酬    地位、金銭
正当    役割、ポジション

リーダーシップの5要素

公平    公平、人の道
正確性   専門性(資格、実績、経験)正しい情報
一貫性   一貫した理論、言動一致
許容性   人を受け入れてくれる優しさ
開放性   楽しさ、ユニーク、明るさ

リーダーシップ研究の初期には、リーダーシップは生まれ持った才能、資質だと考える

特性発見的アプローチ

が優勢であった。偉大なリーダーに共通点を探そうとする

偉人説

もその一つである。しかしその特性は研究によってばらつきがあることや、共通する特性を取り出すことが困難であることなど、限界が指摘された。対して

行動記述的アプローチ

では、リーダーシップは資質などに縛られることなく、後天的に学習によって誰でも身に付けることができるものであると考える。

PM理論


(1) 組織目的を達成させるような「職務遂行機能」 Performanceと,(2) メンバー間のコンフリクト解消などの「集団維持機能」 Maintenanceの2つの次元からとらえ,リーダーシップを PM型,P型,M型,pm型 (ともにその機能が弱いもの) の4つに類型化した。それらのリーダーシップ型と組織の生産性やモラールとの関係について調査したところ,状況のいかんを問わず,PM型リーダーシップにおいて生産性,モラールともに最高となることがわかった。

マネジリアル・グリッド

リーダーシップの行動スタイルを「人間に対する関心」「業績に対する関心」という2軸に注目し、それぞれをどの程度関心を持っているか、それぞれの軸を9段階に分ける。ここに出来る計81の格子(グリッド)をマネジメント・グリッドと称し、典型的な5つのリーダーシップ類型(1・1型、1・9型、9・1型、9・9型、5・5型)に分類した。
この類型の中では9・9型が最も理想的なリーダー類型であると、ブレイクらは主張している。
1・1型: 生産にも人間にも無関心な放任型リーダー
1・9型: 生産を犠牲にしても人間への関心が高い人情型リーダー
9・1型: 人間を犠牲にしても生産最大化への関心が高い権力型リーダー
9・9型: 生産にも人間にも最大の関心を示す理想型リーダー
5・5型: 生産にも人間にもほどほどな関心を示す妥協型リーダー

などがよく知られているが、どの研究でも

課題志向性

課題解決や目標達成優先

関係志向性

良好な人間関係優先

の二つの次元に大別される。この二つのどちらも高められるような訓練プログラムがリーダーシップ育成には効果的であるとされる。

行動記述的アプローチは、リーダーシップの可能性を広げた点で有用であったが、どのような状況にも当てはまるリーダーシップスタイルを見いだすことは難しい。むしろ優れたリーダーシップというのはリーダー単体の問題だけでなく、メンバー側の特性や、集団の特性なども考慮する必要があるとする考え方もある。これは

状況適合的アプローチ

唯一最適なリーダーシップ・スタイルというものは存在せず、集団の特性や集団が直面している状況に応じて、望ましいリーダーシップのスタイルは異なるという理論。

と呼ばれる。例えば

フィードラー(人名)

は、リーダーとメンバーの関係、課題の構造、リーダーの地位勢力の三要素から8つのカテゴリー

オクタント

に分類し

LPC尺度

LPCスコアとは、フィードラーが提唱したリーダーシップの尺度で、「最も一緒に仕事をしたくない同僚(LPC)」について評価させ、スコアとしてもの。
LPCが寛大なリーダー(人間関係志向型のリーダー)はこのスコアが高くなり、逆にLPCが厳しいリーダー(タスク志向型のリーダー)はこのスコアが低くなる。

を元にどのような状況下ではどのようなリーダーが効果的であるか探った。

結果は、状況が好ましい場合と、好ましくない場合の両方では課題志向型のリーダーが適していて、中程度の環境では関係志向型のリーダーが優れているという結果になった。また

ハーシーとブランチャード(人名)

状況対応リーダーシップ

メンバーの成熟度により、有効なリーダーシップスタイルが異なるという理論
リーダーシップの有効性を高めるためにはどうすれば良いかを、4つの区分(状況)で示している。4つの区分は、縦軸をリーダーとのコミュニケーションの必要性、横軸をリーダーによる業務指示の必要性として分ける。4つの区分は、次のようにS1からS4に分かれ、メンバーの成熟度合によりS1からS4へ遷移する。

S1:教示的リーダーシップ(メンバーの成熟度が低い段階で用いる)
(コミュニケーション必要性:低い、業務指示必要性:高い)
仕事のゴールを明示し、仕事の方法を詳細に指示する

S2:説得的リーダーシップ(メンバーが成熟度を少し高めてきた段階で用いる)
(コミュニケーション必要性:高い、業務指示必要性:高い)
仕事が必要な理由を説明し、仕事の価値や意義を共有する

S3:参加的リーダーシップ(メンバーが成熟度を更に高めた段階で用いる)
(コミュニケーション必要性:高い、業務指示必要性:低い)
仕事の懸念事項を話し合い、十分なサポートがあることを理解させる

S4:委任的リーダーシップ(メンバーの成熟度が高く、自立した段階で用いる)
(コミュニケーション必要性:低い、業務指示必要性:低い)
仕事遂行の責任を委ね、業務過程をモニターする

S2、S3の成熟度が中間段階で、コミュニケーションの必要性が高く、S1、S2の成熟度が高くない段階で、業務指示の必要性が高くなる。

ハウス(人名)

パス・ゴール理論

では、リーダーシップを集団の現象として考えるよりも、リーダーとメンバーの二者での交換関係の視点から捉えようとした。

また、自ら率先して変革を志向することで集団に自己変革能力を育てようとする

変革型リーダシップ

もよく知られている。こうしたリーダーシップの一方で、率先して指示・命令する役割よりも、奉仕者的な役割で、メンバーを背後から支援し、メンバー自らの気づきや、成長を促すことがリーダーの役目とする

グリーンリーフ(人名)

サーバント・リーダーシップ

も注目されている。

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仕事の動機づけ

ある目標に向けて行動を引き起こし、達成に向かわせる一連の活力を

動機づけ

と呼ぶ。仕事の成果は適切な能力とともに仕事への動機づけが不可欠であり、どちらが欠けても高い成果を得る事はできない。

動機づけを探るアプローチはいくつか種類がある

動機づけは何か?という直接的に動機づけの源泉を辿ろうとする理論を

内容理論

と呼ばれる。内容理論には

マズローの欲求階層説

人間の欲求を5段階の階層で理論化したもので、自己実現理論とも呼ばれます。 アメリカの心理学者である アブラハム・マズローが提唱した理論です。 マズローは、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである。」

や、マグレガー(人名)の

X理論・Y理論

人間観における理論で、生来、人は怠け者とするX理論(低次欲求)と、自ら設定した目標に向かって仕事することが本性であるとするY理論(高次欲求)に捉えるもの

アージリス(人名)

未成熟ー成熟理論

として発展した。

アルダファー(人名)

ERG理論

これは組織が経営されそして発展するというのは、人間というのは主要な3つの欲が元となっているとする理論。このERGというのが主要な3つの欲を意味する単語の頭文字であり、

E はExsistenceで存在すること
R はRelatednessで関わるということ
G はGrowthで成長するということ

マクレランドやアトキンソン(人名)

達成動機理論

バーズバーグ(人名)

動機付けー衛生要因理論(2要因理論)

人間の仕事における満足度は、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるということではなくて、「満足」に関わる要因(動機付け要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別のものであるとする考え方。

なども、内容理論の系譜に属している。

内容理論に対して、動機づけが何故、どのように変化するのかの過程に注目する理論は

過程理論

と呼ばれる。代表的なものが

ヴルーム(人名)

道具性期待理論

期待(E)「実現可能性」

誘意性(V)「報酬の魅力」

道具性(I)「報酬の二次的効果」

とし、さらにこれを公式として捉えた

このモデルを改良したものに

ロウラー(人名)

によるモデルがある。

ロックとレイザム(人名)

によって提唱された

目標設定理論

目標という要因に着目して、モチベーションに及ぼす効果を探ることを目指した理論のことを言う。目標設定理論では、モチベーションの違いは目標設定の違いによってもたらされると考えられている。本人が納得している目標については、曖昧な目標よりは明確な目標のほうが、また難易度の低い目標よりは難易度の高い目標のほうが結果としての業績は高い、ということが確認されている。

も過程理論の系譜に属し、

目標管理制度

ピーター・ドラッカーが提唱した、組織における目標管理制度(MBO)。この目標管理制度は、組織貢献と自己成長の両方が達成できる個人目標を設定させ、その達成度で評価を行う人事制度として用いられている

の背景ともなる代表的な理論の一つである。

成果主義

導入の中で、目標設定の重要さが認知されるようになってきたが、経過を評価せず、結果だけ評価するような目標設定は、かえって動機づけを低下させる危険がある。

他のアプローチとして、動機づけを外発的と内発的に分ける考え方もある。金銭、昇進、名誉など、外的要因による動機づけは

外発的動機づけ

達成感や満足感によって生まれるものは

内発的動機づけ

と呼ばれる。

デシ(人名)

は、内発的動機づけの本質を

有能さ

自己決定

の感覚であるとし、報酬や特典を伴わなくても、有能さと自己決定を実感できる場合には行動への動機づけが高まることを示した。反対に、報酬への依存は、内発的動機づけを損なうことがあるので注意が必要である。

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規則と制限に従い、支配と服従を基本とする階層的な構造を持つ組織は

官僚制組織

と呼ばれる。能率や合理性の点では優れているが、個人の裁量も少ないので、過度に強まると没個性化や

人間性疎外感

を引き起こす。環境に適切に対応していくためには、常に変革を求めていくことが大切であると言える。そのための計画的・継続的努力は

組織開発(OD)

と呼ばれる。これは、組織の制度にとどまるものではなく、積極的な働きかけを通じて

組織風土

組織構成員の間で共有認識として扱われている行動規律や価値観などといった組織独自の特性の総称。類似する概念として組織文化や社風などがある

組織変革

を目指すところに特徴がある。

組織風土における価値観と、個人の価値観の一致が注目を集めていて、大きな枠組みで見れば

個人と組織の適合(P-Oフィット)

の問題である。この適合は、

職務満足

組織コミットメント

を高めることが明らかになっている。

組織が大きくなるほど、組織間のコミニュケーションが重要になってくる。

リッカート(人名)

上から下、下から上への橋渡しとなる人を

連結ピン

と呼んだ。この働きが、組織を円滑にする。

近年は組織のグローバル化に伴い、異文化間コミニュケーションの問題も浮上している。文化人類学者の

ホール(人名)

は、文化的価値観などの手がかりを

コンテクスト

と呼んだ。この共有する度合いで、ハイとローに分け、ハイ・コンテクスト文化では、共有するコンテクストを頼りに、相手の意図を読み取ろうとするが、ロー・コンテクスト文化では表現の具体性や正確さが求められる。アジアでは前者、欧米では後者の傾向が強いとされる。

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人間工学

は「人間とシステムを構成する様々な要素との相互作用を理解するための科学的学問であり、人間の安寧とシステムの総合的性能との最適化を図るため、理論・原則・データ・設計方法を有効活用する独立した専門領域である」と定義される。

人間工学には二つの源流があり、その一つは

エルゴノミクス

この言葉はギリシャ語由来。もう一つは

ヒューマンファクター

こちらは米国中心。この両者の境界は消失しつつあり、いずれも

人間中心設計

という原則のもと、安全、快適に貢献することを目指している。

人間工学では

マンマシンインターフェース

の研究が重視され、人の要求を機械に、機械の状態を人に理解させるための設計・実現することを試みている。

ノーマン(人名)

は、このインターフェースには3つの重要なキーコンセプトがあると言う。

1.知覚されたアフォーダンス

対象物から提供される情報に基づき、それをどのように使うことが可能か、操作決定を促す基礎的な特徴のことを意味する。

2.フィードバック

機械操作に対して、その操作情報を確かに受け取ったという、機械側からの反応のこと。

3.対応づけ

直感的に理解できる設計になっているか。

安全人間工学

は自動化が進む中で、安全問題を人間工学的アプローチにより解決しようとして提唱された。これに基づく設備設計の一つに

フールプルーフ

がある。これは仮に誤った操作をした場合でも危険な状況にならないように講じられている設計や、安全装置など。

もう一つの有名な設備設計に

フェールセーフ

がある。これは仮に機械の機能の一部が故障などによって損なわれても、全体が致命的な障害を被らず、安全に運用できるような設計思想。

ただし、安全がどんな場合でも機械停止が最良というわけではない。航空機のような場合は、安全のために、故障などが生じても、主要な機能を維持しなければならない。こうした思想設計を

フォールトトレラン

と呼ぶ。

1970年代以降、コンピュターの普及により

VDT作業

ディスプレイ、キーボード等により構成されたVDT(Visual Display Terminals)機器を使用して、データの入力・検索・照合等、文章・画像等の作成・編集・修正等、プログラミング、監視等を行う作業をいう

が増大した。これに伴い、コンピュータとの対話が課題となり

対話の原則

1.仕事への適合性(suitability for the task)
2.自己記述性(self descriptiveness)
3.可制御性(controllability)
4.利用者の期待への合致(conformity with user expectations)
5.誤りに対しての許容度(error tolerance)
6.個人化への適合性(suitability for individualisation)
7.学習への適合性(suitability for learning)

が具体化された。また

ユーザビリティ

は「ある製品が指定された利用者によって、指定された利用状況下で、指定された目的を達するために用いられる際の有効さ、効率及び、満足度の度合い」と定義された。ユーザビリティは、利用するユーザー・タスク・利用状況に大きく依存し、製品使用時の利用品質として規定される。この考え方は

ユニバーサルデザイン

「できるだけ多くの人が利用可能であるようなデザインにすること」が基本コンセプトである。デザイン対象を障害者に限定していない点が「バリアフリー」とは異なる。

にも援用される。ユニバーサルデザインは

メイス(人名)

によって、誰もが生活しやすい環境を実現するために提唱されてきた。従来、障害者に対する方策として

バリアフリー

の概念が用いられてきた。これに対してユニバーサルデザインは全ての人を対象にしている。その7大原則として

1.どんな人でも公平に使えること。(公平な利用)
2.使う上での柔軟性があること。(利用における柔軟性)
3.使い方が簡単で自明であること。(単純で直感的な利用)
4.必要な情報がすぐに分かること。(認知できる情報)
5.うっかりミスを許容できること。(失敗に対する寛大さ)
6.身体への過度な負担を必要としないこと。(少ない身体的な努力)
7.アクセスや利用のための十分な大きさと空間が確保されていること。(接近や利用のためのサイズと空間

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チェルノブイリ事故を調査した国際原子力機構(IAEA)は、その事故の原因として、組織の

安全文化

の脆弱性を指摘した。これは、安全に対する考え方として、組織と文化という新しい切り口から見直しを求める意味を持つ。現在ではあらゆる企業で、基本理念として受け入れられている。

安全文化をIAEAは「全てに勝る優先度を持ち、その重要性に見合った注意が確実に反映されるよう働きかける組織機能と個人の集積」

英国安全衛生局(HSE)は「個人の集団の価値、態度、認知、認識、効力、組織健康や安全管理へのコミットメント、スタイル、進歩を決定する行動のパターンなどの成果」と定義した。このようなものの構築に貢献した研究として

シャイン(人名)

組織文化の3層モデル

レベル1 直接観察可能

レベル2 直接観察可能ではないが、行動観察から推察できる

レベル3 暗黙の仮定であることから観察不能である

が挙げられる。

大規模化した企業の事故は、個人のレベルに留まらず、組織全体に及ぶことから

組織事故

と呼ばれる。これに対して

ペロー(人名)

は、現代の組織構造の中ではわずかな潜在リスクなどが大事故に繋がるリスクが常に存在し、事故は不可避であると主張する。これが

ノーマルアクシデント理論

である。これに対して、高い信頼性を維持している

高信頼性企業(HRO)

も存在する。これについて

ワイクとサトクリフ(人名)

1.失敗に注目する
2.解釈の単純化を嫌がる
3.オペレーションに敏感になる
4.回復に全力を注ぐ
5.専門知識を尊重する

という5つの特徴を挙げている。

企業組織では、基本ルールの遵守のみならず、信頼に答えるために倫理規範を実践する

コンプライアンス

が重視される。また社会との関係の中で負うべき

企業の社会的責任(CSR)

も企業価値とされる。さらに昨今では、事故、不祥事などに対する抵抗力や危機的状況からの回復力

レジリエンス

の重要性も指摘されている。

危険起因を管理するために、多くの職場では

リスクマネジメント

が展開されている。一般には

リスク

は、被害の起こる確率とその被害の重要性の積と定義される。リスクマネジメントの第一ステップが

リスクアセスメント

である。ここでは組織内の

ハザード

を特定し、被害の程度と発生確率を推定してリスク判定を行う。第二ステップでは、リスクレベルに応じて対策をとると共に、その結果を広く公開する

リスクコミニュケーション

へと至る。

人のリスクに対する判断は一定ではない。

リスク認知

は、定量的に表現されたリスクに対する主観的な見積もりを意味する。

スロヴィック(人名)

はリスク認知を「恐ろしさ因子」と「未知性因子」から説明した。また、リスクレベルが高いにもかかわらず、危険敢行の利得ー損失の意思決定に基づき、リスクを認識していながらそのリスクをとる

リスクテーキング行動

も知られている。

ワイルド(人名)

リスクホメオスタシス理論

危険を回避する手段・対策をとって安全性を高めても、人は安全になった分だけ利益を期待してより大胆な行動をとるようになるため、結果として危険が発生する確率は一定の範囲内に保たれるとする理論

を提唱し、結果的にリスクレベルは変化しないと考える。

特に緊急事態では、人間の判断や、行動には様々なバイアスがかかる。自己の願望や信念を裏付けるような情報を重視する一方、反証となる情報を軽視、排除する心的傾向を

確証バイアス

と呼ぶ。また、緊急事態が起こっても、それを過小評価したり、無視したりすることで心的バランスを保とうとする

正常性バイアス

他者の動きを探りながら、それに合わせて行動することが適切であると考える

多数派同調性バイアス

も知られている。さらに、ある事象が発生した後で、それをあたかも事前に予見可能であったと見積もる

後知恵バイアス

も知られている。

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技能の熟達化

の研究は、まず正確な動作の習得に関する

運動技能

次いで

知覚技能

これらを統合した

知覚ー運動技能

と発展した。

フィッツとポスナー(人名)

は、技能を必要とする作業の特徴として、常に一連の統合化された動作を行う

体制化

技能を要する動作の

目標指向

技能には動作に対応する反応を利用する

フィードバック

を挙げた。

ウェルフォード(人名)

は、技能を「練習と経験の結果としての能力を、能率よく効果的に使うこと」と定義した。そして、技能は

1.対象や状況との関係で体制下された感覚により成立し

2.一定の行動様式は反復経験の中で構築され

3.時系列的である

という3つの特徴を指摘した。

コルブ(人名)

は、技能習得などの学習に関して

経験学習理論

経験学習サイクルは「経験→省察→概念化→実践」という4段階により構成され、このサイクルを繰り返すことによって、人は学び、成長していくとする理論

を提唱した。これは

具体的経験

から

内省的観察

を行い、得られた教訓から

抽象的概念化

を通して

能動的試行

をもたらす、というモデル

高度な

熟練者

になるには10年の期間を要すると言われている。熟練技能には、状況の判断や、全体の把握・理解といった

精神的技能

の熟達化も含めて考えられる。

1990年代

レイヴとウェンガー(人名)

は、置かれた状況にこそ学習の本質があるとする

状況論的学習理論

を主張した。学習は状況に埋め込まれ、学習者は

実践の文化

を学ぶと考える。未熟練者は、初めは実践共同体の周辺に位置する。しかし、その中心に位置する者が、未熟練者を認めることで正当性が生まれる。つまり

正統的周辺参加

として位置付けられるとした。

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米国の保険会社員の

ハインリッヒ(人名)

ハインリッヒの法則

を発表した。この法則は、傷害の程度は状況の偶発性によるため、事故を引き起こす

不安全行動

不安全状態

を制御することの有効性を説く。この考えに基づき、多くの職場で

危険予知(KY)活動

(K:キケン、Y:ヨチ)活動とは、現場で作業を開始する前に、その作業に伴う危険に関する情. 報をお互いに出し合って共有化し、危険のポイントと行動目標を定め、作業の要所要所で指差し呼称を行って安全を. 確認し合うこと。

TBM活動

職長を中心にして、その日の作業の内容や方法・段取り・問題点について短時間で話し合ったり、指示伝達を行うもので、その際、工具箱(ツール(T)・ボックス(B))に座って行うことがあることからこのような名称がついている。
このTBMは、作業開始前だけでなく、作業の進行に応じて作業中や職場ミーティング時にも行われる。

ヒヤリハット活動

300 件のヒヤリハットを集め、事前の対策と危険の認 識を深めることで、重大な事故を未然に防ぐ活動。

などの

安全活動

が実施されている。また、安全性のみならず、生産性や品質も

品質管理(QC)

を推進する

QCサークル

などの小集団活動によって

改善(KAIZEN)

が図られる。

事故に対する概念のモデルとして、古典的には、事故要因の一つが引き金となり連鎖的に他の要因に波及していくとする

ドミノ理論

がある。

ラスムッセン(人名)

ラダーモデル

を提唱した。またそのほかに

リーズン(人名)

スイスチーズモデル

が有名である。

ホルナゲル(人名)

は、人、機器、機能の揺らぎが共鳴を起こし、増幅されると事故が発生すると考える

機能共鳴事故モデル

を提唱した。

ヒューマンエラー

に着目したモデルとして

スウェイン(人名)

の定義した

オミッションエラー

するべきことをしないこと

コミッションエラー

余計なことをすること

が知られる。また

ホーキンス(人名)

は、人間を中心として、その周りとの境界の不適合によってヒューマンエラーが発生する

SHELモデル

を提唱した。これにマネジメントを追加した

mーSHELモデル

も知られる。またリーズン(人名)は

不安全行為

を、意図しない行動として

スリップとラプス

意図した行動として

ミステイクと違反

に分け、違反を除く3タイプを基本的なヒューマンエラーと考える。

ノーマン(人名)

は、スリップの事例研究から

ATS理論

ATS(行為引き金スキーマ)理論に見られるもので、行動にはそれを行うための前提条件があり、前提条件がそろって初めて特定の行動が行われるというスキーマがあると言う考え方。たとえば、学校へ行くと言うスキーマが活性化するためには、かばんを用意する、弁当を入れる、教科書や筆記用具を入れるなどの子スキーマがあり、これらがすべてそろったとき学校へ行くというスキーマが活性化し、実行されるという理論

を構築し、スリップの分類及びその発生メカニズムを説明した。またリーズン(人名)はラダーモデルとATS理論を統合した

包括的エラーモデリングシステム

を開発した。

事故の

再発防止

の対策を導出する手法として

4Mー4E分析法

が知られる。これは、事故要因として4M

対処としての4E

の組み合わせから、事故が解析される。また、事故分析のために

リスク評価手法

が援用されることも多い。これには

欠陥関連樹法

システムの故障を頂点とし、故障を発生させる可能性のある事象を下位に向かって列挙する樹状図(トーナメント表のような図)を作成し、システム故障の確率を算出する手法

事故関連樹法

事故のきっかけとなる事象を端緒として、機械・設備の各部分や、作業工程の各段階で、枝分かれ的に記述し、分析する

故障モード影響解析法

製品やシステムの故障や不具合を、あらかじめ想定して、対策し、信頼品質を高めるために考え出された手法。 製品やシステムの故障モード毎に、その影響、発生頻度、検出の可能性を分析してリスクを評価する

いずれも事故の

未然防止

を意図したものである。

事故分析法として

バリエーションツリー法

か知られる。また

特性要因図法

根本原因分析法

原因を追求するために「なぜ」を繰り返すことで根本原因を追求していく方法

はいずれも再発防止に活用される。

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消費者行動

は「経済財やサービスを獲得したり、使用したりするのに直接的に関与する個々人の行為であり、これらの行為に先行したり、規定する意思決定過程をも含むものである」と定義される。エンゲル、ブラックウェル、ミニアード(人名)らが提案した購買意思決定モデル

EBMモデル

によると

消費者の購買意思決定プロセスは

1.商品の必要性認識

2.商品情報の収集

3.複数商品との比較

4.購買

5.使用後の商品評価

6.満足・不満足

という順序で進む。EBMモデルでは、このプロセスに影響を与える要因として、環境と個人差が示されているが、このような概念を用いた枠組みにより

消費者の知覚・認知

のメカニズムの説明が可能になる。

関与

思い入れや、重要度の強さを表す構成概念であり、購買行動や動機づけ動機づけの強さを規定するもの

について、アサエル(人名)は「関与水準」「ブランド間の知覚差異」という二つの次元を設定し、それらの高低を組み合わせて、4つの購買行動を定義した。

1.複雑な購買行動

(高関与・知覚差異大)複数の各ブランドに対する評価を行い、購買するブランドを決定する。

2.不協和低減型購買行動

高関与・知覚差異小)自分の選択が正しいという確信を持つことが難しく不協和を覚える可能性があるので、購買後の不協和を回避できるような購買行動がとられやすくなる

3.バラエティ・シーキング型購買行動

(低関与・知覚差異大)「いろいろな商品を買って試す」という購買行動をとる。

4.習慣的購買行動

(低関与・知覚差異小)深い情報処理を行うことなく、普段から購入しているブランドを習慣的に購買する

価格に対する知覚・判断に焦点を当てた理論として、小嶋外弘による

心理的サイフ理論

購入する商品の種類ごとに心理的に複数の財布を持っているという概念である。たとえば1万円相当の品物を買う場合に、それが自身にとって重要だと思われるものならば1万円の出費でも大した額ではないと思われる反面、それが自身にとって重要でない品物を買う場合となれば同じ1万円であっても大きな出費であったと感じるというということ

がある。

消費者行動研究は心理学研究と深い関わりを持っている

ハワード=チェス・モデル

消費者は刺激(Stimulus)を生活体(Organism)で受け、反応(Response)するという消費者行動の基本的プロセス

は、1950〜1960年代の学習理論(S-O-R理論)に基づいたものであり、EBMモデルは1970年代以降の認知心理学の流れを受けたものとなっている。いわゆる

情報処理パラダイム

人間を情報処理システムとみなし、コンピュータとの等価性や類似性に注目して意思決定過程を説明しようとする枠組み

ただし、心理学をベースにした考え方に批判的立場もあり、感情などの非合理的側面や消費の意味の解釈に重点を置く

ポストモダン・アプローチ

が、ハーシュマンとホルブルック(人名)によって提唱された。また

カーネマンとトヴェルスキー

が提唱した

プロスペクト理論

不確実性下における意思決定モデルの一つ。 選択の結果得られる利益もしくは被る損害および、それら確率が既知の状況下において、人がどのような選択をするか記述するモデル

を始まりとして、合理的経済人を前提とした消費者の捉え方ではなく、非合理性を前提として理解する

行動経済学アプローチ

が見られるようになってきた。

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マーケティング

とは「個人および組織の目標を満足させる交換を創造するために、アイデア、財、サービスについて、コンセプト作り、価格設定、プロモーション、流通を計画し、実施する過程」と定義されている。

マッカーシー(人名)によるとマーケティングは

製品(Product)

価格(Price)

流通経路(Place)

販売促進(Promotion)

の四つから構成されていて、これらを組み合わせてマーケティング戦略(頭文字から4P戦略という)を進めていくことが可能だとしている。

マーケティング戦略には、消費者の心理的特性、行動的特性を踏まえることが必要で、消費者ニーズを

モチベーションリサーチ

消費者がどのような動機で商品を買ったかを科学的に調査をすること

等を実施して把握したり、

消費者のブランド志向

ブランド選考

のメカニズムについての理解が役立つ。ブランドの実体について、アーサー(人名)による

ブランドエクイティ理論

では、ブランドを規定する要因として

1.知名度(どれだけ知られているか)

2.ブランドロイヤリティ(ブランドの信用、忠誠)

3.知覚品質(感じている品質の良さ)

4.ブランド連想(どの程度連想されるか)

5.イメージ(ポジティブなイメージ)

を挙げている。

マーケティング遂行においては

製品差別化

市場細分化

といった戦略がとられる。後者は市場を需要に分けて分割し、それぞれの小市場ニーズに合った製品を開発し、またそれに合ったプロモーション方法を立案していく戦略である。区分する手法としては性別、年齢など人口統計学的指標に基づく

デモグラフィック・セグメンテーション

や、ライフスタイルに基づく

ライフスタイル・セグメンテーション

などがある。

これらは個人差に着目した考え方であるが、それだけでなく、店頭における陳列などの環境要因が及ぼす影響の仕組みを知ることも重要である。このような考えを大槻博は

店頭マーケティング

という用語で表している。近年では日用品について

計画購買

「もともと予定していた購買」 逆に、非計画購買とは「当初は考えていなかった購買」

の割合が減少していることが指摘されているために、特に店頭での仕組みについては研究が進み、環境づくりに生かされている。BGMをかけ、歩く速さをコントロールしたり、陳列や

POP広告

の使用により

非計画購買

を促したりといったことなどである。青木幸弘によれば非計画購買には

1.想起購買

商品や広告を見て必要性が認識される

2.関連購買

購入された商品との関連性から購入する

3.条件購買

明確な意思はないが、条件が整えば購入する

4.衝動購買

新奇性や欲求に基づく購買

がある。

消費者に関する研究は、実務としてのマーケティング遂行に生かされていると言える。すなわち、それに必要な

消費者ニーズ

の把握や

顧客満足

を高めることの必要性や、方法に関する理論を提供してくれる。これは消費者にとっても必要な重要なものである。詐欺や、悪徳商法から身を守るためには、行動特性や、心理的メカニズムを理解しておく必要がある。このような消費者利益や社会的利益に重点を置いたマーケティング遂行は

ソーシャル・マーケティング

という概念で表される。

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広告には

情報伝達機能

説得機能

があり、広告の実施に当たっては上記を踏まえて

媒体特性

それぞれのメディアの持つ特徴

請求対象

情報を伝えようとする対象者

を考慮した上で、戦略を考える必要がある。

広告心理学

スコット(人名)

による

『広告の理論』

が初めとされるが、その説得機能については

説得的コミニュケーション研究

が、その理論的基礎になる。例えば

ホヴランドとワイス(人名)

は、同一の情報を提示する場合でも

信憑性

が高いほど説得効果が高まることを明らかにしている。この研究では、信憑性は

専門性

信頼性

の二つの要因によって規定されることを示しているが、このことは

推奨広告

誰かが、商品を進めているようなCM、広告など

において、どのような人物を起用するのかの参考になる。また

ジャニスとフィシュバック(人物)が行なった

恐怖喚起コミニュケーション

に関する研究では、強い恐怖で喚起された人は、恐怖の低い喚起しかされなかった人より説得の程度が低かった。この結果は、全てに当てはまるとは言えないが、少なくとも「強い脅かしをかければ人は態度を変える」という安直な考えが正しくないことだけは事実であることを示している。

広告効果モデル

広告の効果を説明するためのモデル

として

AIDMAモデル

がある。また店頭でPOP広告などを見てその場で購入した場合は、上記のMの段階がないので

AIDAモデル

となる。最近では、インターネットの利用を前提にした

AISASモデル

が提案されているが、このモデルでも示されているように

口コミ

が容易になったことで、汎用している広告の信頼性の低下と相まって、口コミの信頼性を高めている。このように、実際の効果を測定する広告効果の指標として

リーチ

広告の到達率のこと。 交通広告などオフライン広告でも使用される指標で、Web広告ではUU(ユニークユーザー数)が使用される

フリークエンシー

ウェブ広告では、ユーザが広告に接触した頻度のことを指す。 1ユーザに対して、何回配信するのか、配信頻度のことを、フリークエンシーと呼んでいる。

などがある。

消費者の説得は、広告によるものだけでなく、販売員を介して行われることも多い。この時使われるテクニックとして

段階的要請法

相手が同意しやすい小さな要求から始めて、段階的にハードルを上げると、本命の要求がとおりやすくなるという交渉術

譲歩的要請法

わざと大きな頼みごとをして一度断らせてから、(本来の目的の)小さな頼みごとを承諾してもらうという交渉術

承認先取り法

まず好条件を出して承諾を得てから、不利な条件を付け加える、または条件の内容を変更という要請方法。

などがある。説得に関する心理的メカニズムについては社会心理学者でもある

チャルディーニ(人名)

によって、数多くの研究が行われている。

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心理学に重点を置く研究が「個人」に焦点を当てているのに対し、社会学に重点を置く研究では「集団、社会」に焦点を当てたものが中心になる。代表的なものはロジャーズ(人名)による新製品の採用、過程に関する理論である。イノベーションがいかに全体に普及していくのかを捉えており、消費者は購買時期によって5つのグループ

採用者カテゴリー

1.イノベーター 最も早い時期にイノベーションを採用する消費者。新製品への関心が高く、情報感度も高い。
2.初期少数採用者 そこそこ革新的な層であり、社会的には大衆から一目置かれる、高い地位にある人が多い。平均よりも一歩進んだ層であるため、大衆のモデルとしてオピニオンリーダー的な役割を果たす人が多い。
3.前期多数採用者 社会の平均よりもやや早いタイミングで採用する大衆。採用には比較的慎重に時間をかける。
4.後期多数採用者 平均的な人が採用した後に行動に出る慎重派。新製品の社会的評価が出るまで採用しない。
5.採用遅滞者 変化を好まず、新製品に無関心。社会的にも孤立した人が多い。

オピニオンリーダー

集団の意思決定(流行、買物、選挙など)に関して、大きな影響を及ぼす人物(インフルエンサーとも呼ばれる) 世論形成者、もしくは世論先導者とも呼ばれる。 一方、影響を受ける相手はフォロアーと言える。

普及過程における研究には「流行」を説明する基礎にもなっている。

流行の心理的メカニズム

を説明するための理論として社会学者のジンメル(人名)は、他者を真似したり、集団に順応しようとする

同調化への欲求

と、他者から区別して、独自性を表現したい

差別化への欲求

を指摘している。これらに加えて

新奇性欲求

が流行を支配していると考えられる。

流行は、一定のプロセスに従って展開

流行の過程

し、その対象は極めて多様に存在する。

ファッション

と呼ばれる、大規模流行以外に

ファッド

と呼ばれる、小規模流行。広範囲に影響を及ぼす、熱狂的流行「クレイズ」などがある。また、流行の様式についてカイザー(人名)によれば「トリクルダウン過程」(上から下へ)滲出過程(特定の部分からの伝播)水平普及過程(特定の階層や文化からの水平方向の伝播)の3つが示されている。