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ロゴス #25

第25話『ガリラヤ伝道』

サマリヤを通過したイエス達は、無事にガリラヤ地方にたどり着いた。

ガリラヤでのほとんどの町で、イエスは大歓迎された。
ガリラヤの多くの人たちが、過越の祭りに出向いていたので、イエスの行なった数々の事を見て、言い伝えていたからである。

ガリラヤは田舎なので、同郷出身のイエスの活躍を誇らしく感じていた。皆イエスの言葉を聞きたがった。イエスはそれぞれの町の会堂を渡り歩いて、福音を宣べ伝えていった。

「時が満ち、神の国は近くなった

悔い改めて、福音を信じなさい」

そんな順調な布教活動のおり、一人の男が、追い詰められた顔で、イエスにすがり付いて来た。

「先生❗️…助けてください❗️、息子が…先生しか…もう」

ここは以前、イエスが婚宴の場で”しるし”を行なったカナという町である。しかし、話を聞くに、この男はどうやらカナの住民ではなく、カペナウムに住む王室の役人らしい。彼はイエスの噂を聞きつけ、急いで来たのだ。

「死にそうなんです、もう…」

身なりから察するに、相当裕福な暮らしをしていることは明らかであった。

そのような身分であっても、息子の病気にはなす術がなかった。
お金がいくらあっても、どんな手を尽くしても、次第に弱っていく息子を目の当たりにして、無力感に絶望していた。
そんな時、イエスの事を知り、恥も何もかも捨てて、イエスに助けを求めたのだった。

「あなた方ユダヤ人は”証拠”を見せない限り決して信じない」

ユダヤ人の地位の高い人間ほど、イエスの言葉に耳を傾けず、証拠を求めて、否定しようとする、しかし自分が弱い立場に置かれると、手のひらを返したように助けを求める都合の良さに対する叱責であった。それに対し王室の役人はただひたすらにひれ伏し、懇願するのだった。彼には心の余裕も時間の猶予もなかった。

「主よ❗️どうか❗️どうかお願いします❗️❗️私の息子が死なない内に❗️どうか息子の元へ来てください❗️❗️」

イエスは彼に言われた。

「帰りなさい…もう治っています」

あっという間の事だったので、すがっていた男は頭が真っ白になってしまい、うっかりと言葉を漏らした。

「へ?…本当ですか?…あなたは息子を見てすらいないのに?」

「あなたは私を信じるのですか?信じないのですか?」

イエスの問いに、男はすぐさま返答した。

「いえ、申し訳ない❗️信じます❗️❗️…ありがとうございます」

イエスを疑ったところで、もうこの方を信じる事以外、どうしようもないのだ。

今、自分にできることは、ただイエスの言う事を信じ、従うだけ

そう思うと、今までの疲れがどっと押し寄せて、歩けなくなった。気が張っていたのでわからなかったが、ここ数日はまともに眠れなかったし、色々な場所を駆けずり回っていたので、疲れがピークに達していたのだ。その様子を見たイエスは優しく言われた。

「今日は休んで帰りなさい」

男はイエスの言葉に素直に従い、寝る場所を探すことにした。特殊な状況下ではあるが、役人の男は確かな信仰を持っていたからである。(ちなみにカナからカペナウムまでは30キロほど離れているので、その日すぐ帰るのは結構過酷)

次の日の朝、男は息子のいるカペナウムへ帰っていった。そんな帰路の途中に、部下たちがこちらに向かって来るのが見えた。それは息子の容態についての知らせだと察したので、すぐに駆け寄って尋ねたが、その答えは喜ばしいものだった

「熱が引きましたよ、元気そうにしておられます」

その良い知らせを聞いて、男はとても安堵したのだが、続く部下の言葉で、目がさめるような衝撃が走る

「ちょうど7時くらいですね、急に熱が引いて嘘みたいに元気になられたんですよ。不思議なことがあるもんですね」

「帰りなさい…もう治っています」

息子が治った時刻は、イエスが「治った」と告げた時刻その時であった…

この”しるし”により、彼自身と、その家の者たち、またカペナウムの多くの人が皆イエスを信じた。

順調に進む伝道の旅、しかし…

いつも、どこでも必ず上手くいくという訳ではない

事を、イエスとその弟子達は思い知ることになる。いや、イエスだけはわかっていたのだろう。イエスは事あるごとに弟子達にこう語っていたからだ

「預言者は、自分の郷里では歓迎されないものである」

次に向かう場所は、イエスの郷里ナザレであった…

…26話へ続く