脳科学系院生がOpenBCIを使ってみたレビュー
日本語のOpenBCI情報が少ないので簡単にレビュー。
買うか迷ってる人、買ったけど困ってる人向けに。
簡単に自己紹介をすると、神経科学系の研究室の博士課程1年で、脳波を対象とした研究をしています。Twitterは@deriba9です。
なので研究向けの脳波計との比較をしながらOpenBCIのレビューをできればと思います。
OpenBCIとは
そもそもOpenBCIとは
・脳波計
・10-30万円ぐらい
・8-16チャンネル
・ドライ電極(ジェルとかを使わない)
・3Dプリンタで組み立てる(完成品もある)
・ワイヤレス
といった特徴のある簡易脳波計。
研究用には弱いけど、誰でも買えるクラスの脳波計としてはしっかりしている印象があるがどうか。
開封
届くとこんな感じ。
高額のガジェットが届いたときはいつでもワクワクしますね。
購入したのは以下(詳しくは後述)
・ヘッドセット
・脳波計本体
・コーム型電極
全部入りのスターターキットもあるけどいらないもの(EMGやECG)もついてくるので別々で購入。値段は大して変わらないのでセットでもよかったかも。とりあえず以下を買っておけば脳波を測ることができる。
ヘッドセット
ヘッドセットはいくつかオプションがあって、それによって値段が変わる。
一番安いのは、自分で部品を3Dプリントして組み立てるもので、最低限の電極などが入っているもの。これで約400ドル。
次に安いのは、3Dプリントした部品はついてくるけど組み立ては自分でやってね、というもの。約700ドル。
一番高いのは3Dプリント済み+組み立て済みのもの。900ドル。
さらに、チャンネル数も選べる。デフォルトで8chとなっているところ、16chにすると+100ドルぐらいになる模様。
ちなみに頭の大きさに合わせてSmall, Medium, Largeがある。
自分は3Dプリント済みで組み立ては自分でするタイプ・8ch・Mediumを選択。これで700ドル。
本体
基盤。ヘッドセットの脳波電極から信号を受け取り、BluetoothでPCに伝達するもの。
チャンネル数によってバージョンや値段が異なる。
今回は8chまで計測できるCytonボードを選択。750ドル。
750ドル払った記憶がないので自分が買ったときより値上げしているかも。
コーム型電極
上記のヘッドセットにも電極はついているのだが、このコーム型電極を購入することを「強く」勧めるとページに書いてあったので購入。強く勧めるなら最初から同梱して欲しい。45ドル。
デフォルトでついてる電極との違いは、名前の通りコーム(櫛)型になっていることで、このおかげで髪の毛があっても頭皮から信号を計測しやすくなる模様。
組み立てる
英語のドキュメンテーションに沿って組み立てるとこんな感じ。電池のボードをセロテープで止めていてダサいけど公式の通り。ダサい。
電極の位置は公式でこうするといいよっていうのがあるけど、自分好みにちょっと変更している。
組み立てはドライバー等も必要で案外分かりづらかったけど1時間ほどあればなんとかなると思う。
使ってみる
とりあえず測ってみるだけならとっても簡単。
公式のソフト(GUI)をダウンロードして、脳波計の電源をオンにして、専用のUSBをパソコンに挿せばいい。
画面はこんな感じ。
とても使いやすい。
信号の質も悪くはなさそう。
ドライ電極でこれだけ取れれば十分か。
信用できるかは別にして、このGUIでリラックス度合いなども可視化するモードがあったりする。
おそらくこのGUIを使って脳波を計測→CSV等に書き出し→Python等で解析、などできるはず。自分は後述する理由でやってないので分からないけど。
リアルタイムでPythonにデータを取り込む
自分はOpenBCIを使ってニューロフィードバックとか諸々やってみたかったので、専用のGUIではなくPython等にデータを取り込んでリアルタイム処理したかった。
そのためPythonにデータを取り込むプログラムを実装した。
これが本当に情報が限られているし、Python自体も不慣れでとても苦労したところ。
結論から言うとBrainFlowというAPI(開発用のツール的なもの)があるのでそれを使う。
BrainFlowをインストールしてPythonにインポートすれば色々できる。Pythonの使い方についての説明は省く。
↑のPython Real Time Plotのコードをうまい具合に使えば、Pythonにリアルタイムで脳波を取り込む感覚は掴めるはず。
とはいえ情報がめちゃくちゃ限られていて、エラーがでたときの対応にかなり苦労する。エラーメッセージで検索しても何も出てこない。
そんなときはサポートチームのSlackがあるのでガンガン利用するといい↓
1週間ぐらい首を捻っても解決しなかった問題をここで質問したらものの数分で解決した。質問は偉大・・・
まだ開発途中なのでこれを利用してニューロフィードバックや簡易的なBCI等作ってみようと思っているところ。
研究用の脳波系と比べてどうか?
使ってみて思ったことを列挙していく。
・一瞬で脳波が計測できる驚き
研究室で使うような脳波計は電極をセットしてそれぞれに導電性のジェルを注入していく必要がある。だから計測開始までの準備に1時間ぐらいかかることもあるのだが、OpenBCIはドライ電極(ジェル等を使わない)だからものの数分で計測までできてしまう。これは素直に驚き。
・信号の質
信号の質はどうかというと、やはり研究用で使うものと比べると悪い。脳波の信号の質を見るときにインピーダンス(頭皮と電極のあいだの抵抗的なもの)という指標を用いるが、研究では5kΩ以下にするのが普通だが、OpenBCIは1000kΩ弱とかなり高い値にしかならない。とはいえ、これでもシータ・アルファ・ベータ帯域の比較的低周波の脳波までなら十分計測できそうな感じ。そもそも、それ以上高周波の脳波になるとインピーダンス以前に筋肉のノイズなどが問題になってくるから研究用でも結構計測するのが難しい。だからOpenBCIが特段問題あるとはいいにくい。
・電極の感じ
上記したコーム型のドライ電極について。これが頭皮を圧迫して結構痛い。15分以上つけていると我慢できないぐらい痛くなることがある。目的によるけど長時間つけて何かしたい場合は他の選択肢の方がいいかも。
・データの安定感
データは正直結構不安定だ。ワイヤレスでデータを送受信しているせいか途中途中で明確にデータが飛ぶ(ノイジーになる)。例えばこんな感じ↓
この間瞑想をしているときの脳波を時間周波数解析したもの。概ねちゃんと計測できているけど、ところどころ縦に黄色い線が入っている。これはおそらく脳波計とPCの接続が悪くなっていることによる。原因としては周囲の電波を発するものや電源、またはバッテリの消耗や本体の不具合等が考えられるらしい↓
・体動にかなり弱い
ドライ電極であること、頭に載せているだけであることから、かなり体動に弱い。頭を少し傾けただけでも接触が悪くなりNG。この点は研究用の脳波計と比べてかなり劣る。じっとしている時の脳波以外は測れないと思った方が良さそう。
・ボタンが壊れた
本体の電源スイッチが細過ぎて(2mmぐらい)すぐにポキッといってしまった。本体の電源をオフにできなくなったので毎回電池を入れたり取ったりして電源のオンオフにしている。
・楽しい
やっぱり毎日サクッと自分の脳波が測れるのは楽しい。究極の自己分析的な感覚。
まとめ
良い点もあれば微妙な点もある感じ。
脳波を使って消費者が何をできるか?っていうのはまだまだ未発達かつ開発の余地がありそうなので色々試していきたい所存。
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