【要約】ブラック・スワン 第15章 ベル・カーブ、この壮大な知的サギ

この章で、#タレブ は、#カール・フリードリヒ・ガウス のつくったカーブ、つまり #ベル型カーブ について論じます。

まず、彼は「 #ガウス 的なもの」と「 #マンデルブロ 的なもの」に分けます。

まず、ガウス的なものは、ほとんどの観察結果が月並み、つまり平均近辺に集まっている場合です。たとえば、身長を取る場合、ガウス分布となります。平均身長を167センチとすると、平均より10センチ高い人は6.7人にひとりです。同様に20センチ高い人は44人にひとり、30センチは740人にひとり、40センチは32000人にひとり、50センチは350万人にひとり、60センチは10億人にひとり、79センチは7800億人にひとりとなります。

このように平均からかい離するほどに加速して確率が下がっていきます。この場合、出くわす確率が急激に下がるため、外れ値を無視しても大丈夫だということになります。ただし、そういう分布は一つしかありません。それがベル型カーブ(とその親戚である拡張不能な分布)なのです。

次に、ヨーロッパのお金持ちの分布を見てみます。富は拡張可能、つまりマンデルブロ的です(ただし以下は単純化したもの)。純資産が100万ユーロを超えるひとは62.5人にひとり、同様に200万ユーロ超える人は250人にひとり、400万ユーロは1000人にひとり、800万ユーロは4000人にひとり、1600万ユーロは16000人にひとり・・・3億2千万ユーロの場合は、640万人にひとり。

ここでは現象のスピードが一定です。水準がどうであっても、金額を2倍にすると可能性は4分の1になります。これが果ての国なのです。

更に、もっと不平等が大きい国の場合はこのようになります。200万ユーロを超える人は63人にひとり、400万ユーロは250人にひとり、800万ユーロは500人にひとり、1600万ユーロは1000人にひとり・・・。この場合は、金額を2倍にするとオッズが2分の1になっています。

このガウス的とマンデルブロ的な分布には質的な違いがあることがわかります。後者の拡張可能な分布の別名を「ベキ乗数」と言います。ガウスのベル型カーブに従う変動は、平均から離れていくにつれオッズが下がるスピードがどんどん速くなります。一方、拡張可能なマンデルブロ的分布の変動にはそういう制約がありません。

不平等のあり方という点では、ガウス的な枠組みでは、かい離が大きくなるほど不平等は小さくなります。ところが、拡張可能な枠組みだと、不平等は全体を通じて同じでです。つまりスーパーリッチな人たちの間の不平等も、普通のリッチな人の間の不平等も同じで、かい離が大きくなっても緩やかにならないわけです。これが拡張可能ということです。

この本で述べられてきたタレブの主張をもう一度繰り返しましょう。ベル型カーブにもとづいた不確実性の測度は、急なジャンプや断絶が起こる可能性とその影響を単純に無視してしまいます。だから果ての国では使えないわけです。予測できない大きなかい離はめったに起こらないが、そういう結果は積み重なってとても大きな影響を及ぼすので、外れ値だとか言って無視するわけにいかないのです。

最大値が平均からそれほど離れないという合理的な理由がある変数ならガウス的なやり方を使ってもいいと、タレブは言います。また、均衡から離れた状況が実現しても、その後は状況を均衡周辺へと戻す強い力が働くならガウス的な方法でいいと考えられます。月並みの国ではそれでいいわけです。

月並みの国では、サンプル数が大きくなると、観察される平均値はどんどん一つの値に集まり、分布はどんどん狭くなります。たとえば、カジノの経営者は、ギャンブラー1人に巨額の賭けをさせず、たくさんのギャンブラーに限られた大きさの賭けを何度もさせます。だからカジノ全体ではどんなに大きな金額が動いても、カジノの収益のブレは非常に小さいわけです。

しかしながら、所得や資産、ポートフォリオのリターン、本の売上といった集計量を扱う場合、ガウス流の分布を使うのは間違いで問題が起こります。これらは月並みの国に属していないのです。一つのデータが全体の平均を大きく左右するかもしれないし、一度の損失で100年間ため込んだ利益が全部飛ぶかもしれないのです。「これは例外だから」ではすみません。

ベル型カーブのつくりかたについてタレブは説明しています。ピンボール・マシンで落下するボールを左右に公平に振り分けて何段か落とすとボールは真ん中に集まってくること、あるいはコイントスを40回やった場合も表と裏は平均化してきます。しかし、これらはそれぞれ一回の事象がまったく独立して行われたことが前提になります。

ところが、第14章で見たように #優先的選択#マタイ効果 というものがあり、どちらの仮説も、今日勝てば明日勝てる可能性が上がると主張しています。従って、現実には、確率は過去の結果に左右されるものであり、ガウス型ベルカーブへとつながる第一の仮定は現実には成り立っていません

さらに、ベル型カーブの都合のいい第2の仮定として、「荒っぽい」ジャンプが起こらないというものがあります。常に1ステップの大きさは決まっており、1ステップで動く大きさが激しく変動する状況にでくわすことがないという仮定になっているわけです。

これらの2つの主な仮定のうち、どちらか1つが満たされていない場合は、ベル型カーブになりません。何が起こるかによって、強いランダム性をもつマンデルブロ的な分布になることがあります(次章参照)。

ガウス的なベル型カーブが人気なのは、ものごとを確実にしてくれる(ように見える)からです。ガウス分布がどこにでも現れるなんて考えるのは、私たちの頭が抱える問題で、私たちの世界の見方がそんな問題を起こしてしまっているわけなのです。