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第3回 「『パーソナル坊主』のすすめ」

Interview /鈴木泰堂×デポルターレクラブ竹下雄真(全4回)

Deportare Club
2020.1.24

鈴木泰堂(すずきたいどう) プロフィール
宗教法人示現寺代表役員/法華山示現寺住職/僧侶。1975年4月20日神奈川県出身。立正大学仏教学部仏教学科卒業。1987年、在家から出家し、命がけで仏道に邁進する父に憧れて出家し弟子となる。1998年、日蓮宗僧籍取得。2008年、先代住職遷化により住職に就任。以降法務を熟しながら、年間400人以上の相談者の「心の悩み」やスポーツ選手のメンタルをサポート。2014年、瞑想と写経を取り入れた「メンタルファシリテーション」を考案し、東京都渋谷区のコートヤードHIROOにて毎月実施。その他、各種団体主催のセミナー講師など活躍の場を拡げている。2019年12月、清原和博氏との対談『魂問答』を発売。

枯渇した心に水をやるか、それとも火を向けるか

竹下雄真(以下:竹下)
結局、誰でもそういうタイミングさえあれば、いつでもどん底に落ちてしまうかもしれない、っていうことなんですね。

鈴木泰堂(以下:泰堂)
まさにその通り。
清原さんだけじゃなくて、僕の身の回りにも、「この人ちょっと失敗しちゃったな」とか、「やっちゃったよ」っていう人は、たくさんいます。
タイミングが違えば、もしかしたら自分がその立場になっていたかもしれない。
そう思うと、人間はもっと他人に優しくなれるんじゃないかと思うんだけど、現実的にそうなっていない状況が、今の世の中に現れています。
自分さえよければというような、すごく利己主義的な世の中になっていて、それは本来、仏教が説いている「利他」の社会とは対極にあるものなんです。
利己的に生きていると、人間、どうしても心が乾いてきます。どれだけのものを手にしても満たされず、「まだまだ足りない」っていう枯渇を味わい続けます。

竹下:
そういう人、たくさんいます。

泰堂:
その枯渇した心に水を与えてくれるものが、先人の知恵だったり、仏様の教えだったりするわけです。
大事なのは、他人を思う慈悲の心。
慈悲とは、「楽しみを与え、苦しみを抜く」という意味があるんですよ。だから、もし隣の人が苦しんでいたら、その苦しみを抜き去ってあげるのも慈悲。仏様の代わりに、誰でも他人のためにやってあげることができるんですね。
結果的にそれが巡り巡って自分の心を豊かにしてくれるでしょうし、そうしたことが、今の世の中には必要なのかもしれません。

竹下:
「自分さえよければ」という気持ちが、自分の心を砂漠のように乾燥させてしまうということですね。

泰堂:
もちろん人間だから、ときには自分中心なことがあってもいいと思うんです。
でも、いつもいつも利己ばかり追求して、「自分さえ良ければ」という気持ちで動いていると、心がカラカラに乾いてしまいますし、そうした欲深さはどんどん大きくなってしまいます。
だから、ときにはブレーキをかけることが大事なんです。

竹下:
心の病というか、悩みを抱えている人や、精神に不安定さを抱えている人は、いまの世の中、とても多いじゃないですか。
そういう人に対しては、「精神科や心療内科に行った方がいいよ」とアドバイスするのが一般的だと思うんですが、もしそういう人が、「お寺に行ってきました」「御祈祷を受けてきました」っていうと、周囲の人たちは「大丈夫?」「騙されていない?」って心配する。そういう風潮みたいなものがありますよね。
でも、昔から「駆け込み寺」という言葉があるように、もともと宗教は人の悩みを解消したり、不安を取り除いたりする役割があると思いますし、人間はもっとお寺や宗教に頼ってもいいと思うんですが、いかがでしょうか。

泰堂:
僕もそう思います。せっかく日本のあちこちに寺があるわけだし、寺が駆け込み寺としての機能をもっと果たすことができるようになればいいって思います。
もっとも、駆け込み寺の語源には諸説あるみたいですね。
江戸時代、お寺は治外法権だったんですよ、お寺は寺社奉行の管轄だったから。
一方、町は町奉行の管轄で、寺の敷地内に関する一切のことは寺社奉行の許可が必要でしたし、町奉行よりも寺社奉行の方が、位が高かったので、役人はお寺に対して、容易に手出しできるものではなかったんです。
だから、いざというとき、人がお寺に逃げ込んでしまうと、町奉行は関与できなかったんですね。ある意味、現在の大使館のようなものですね。

竹下:
悪いことをした人が、フィリピンへ飛ぶみたいな感じですか。

泰堂:
まあ、そうですね(笑)
ただ、悪いことをした人がフィリピンへ飛ぶのと違うのは、なにも、悪いことをした人だけが、お寺に駆け込んでくるわけじゃなかったんですよ。

竹下:
というと?

泰堂:
たとえば夫からDVを受けているとか。
江戸時代には、DVをさばく法律が明確ではなかったんですよね。でも、実際にDVを受けている女性はいて、そういう人は誰かが助けてやらなければならない。
だから、夫からDVを受けているといって、お寺に駆け込んでくる女性も相当、いたみたいです。
もし町奉行が家に行って尋問しても、夫が「暴力なんて振るっていない」と言えば、もともと日本は男性女卑の風潮が強いから、「この女、嘘を言っているな」ってなっちゃうでしょう。
でも、お寺に逃げ込んで住職がかくまえば、町奉行が追いかけてきてもそこから先は寺社奉行の管轄だから、町奉行はそれ以上入りこめない。
もしかしたら、治外法権であることを悪用していた寺社奉行もあったかもしれないですけどね、それこそ、今のフィリピンみたいに(笑)

竹下:
感覚的に思うんですけど、今の時代、そうやって「どこかへ逃げ込みたい」という人がものすごく増えているんじゃないかって思うんですよ。
毎日のように、DVや児童虐待のニュースが報道されるじゃないですか。
世の中、おかしいと思うことが多いですよね。もちろん現代だけじゃなくて、昔もそういうことがあったんでしょうけれど。
もっと僕はお寺というか、泰堂さんをはじめお坊さんたちに活躍してもらって、そういう弱い立場の方達の支えになってほしいって思うんです。
事実かどうかわからないですが、日本ではコンビニよりお寺の数の方が多いっていうじゃないですか。

泰堂:
本当かどうかわからないけれど、日本のお寺は相当数あるみたいですね。

心を健康にしてくれる「パーソナル坊主」

竹下:
泰堂さんみたいな人がもっと多くなったら、世の中、変わるんじゃないかって思うんです。
さっきお話しされたみたいに、生老病死は誰にでも訪れる苦しみだけど、そういう苦しみに直面したとき、手助けになってくれるような人がいれば救われることも多いんじゃないかって思います。
「パーソナル坊主」じゃないけれど、そんな感じで、一人一人に助けとなってくれる存在がいれば。

泰堂:
パーソナル坊主。いいですね、それ。
ときどきお電話をくださる方がいらっしゃって、僕はよくお悩みをお聞きするんですけど、そういう方にとって、今の僕はまさにパーソナル坊主かもしれないですね。
誰もがパーソナル坊主を持つようになったら、もっと生きづらさが解消されたり、苦しみから解放されたりするかもしれない。だけどそのためには、宗派の壁をもっと壊していかないと。
どうしても日本では宗派の垣根が高くて、「うちは浄土真宗だから」とか「日蓮宗とは相容れない」とか、区別したがる傾向が強いんです。
お寺の名前や宗派ではなく、もっと僧侶一人一人のパーソナリティや個性などを基準にして、パーソナル坊主を選んでいただきたい。「うちはこの宗派だから、この人」というのではなくて、たとえば「自分が死んだら、この人にぜひお経をあげてもらいたい」っていうような感じで、一人一人がパーソナル坊主を持ってほしい。
そんな時代になったら、誰もがもっと安心して暮らせる世の中になるんじゃないかって思いますね。

竹下:
僕もそう思います。
うちも代々お世話になっているお寺があって、夏のお盆のときとか、そのお寺からお坊さんが来てくれて、お経をあげてくれるんですよ。
そのお坊さんはとても立派で高名な方かもしれないけれど、僕はその人のことを全然知らないし、どんなご縁があっていまだにお願いしているのかわからない。
だから、僕の世代になったらお坊さんを変えちゃおうって思っています(笑)

泰堂:
檀家制度が始まったのは、だいたい江戸時代くらいなんですよね。300年くらいの歴史がある。
そろそろプロ野球でいうところのフリーエージェント制みたいに、自分が好きな寺や坊主を選べる時代になってもいいですよね。
そうすると坊主も世間に審査される側にまわるから、もっと修行に精を出すかもしれないし、徳を積むようになるかもしれない。

竹下:
確かに。一人一人が自分の価値観や信条にしたがって、パーソナル坊主を選ぶ時代がきたらいいですよね。
そうなったら僕はきらびやかで絢爛豪華な寺の坊主は選ばないだろうな、一体どれだけお布施をもらっているんだって思っちゃうから。
いずれにしても、パーソナル坊主みたいに、心から信頼できて、すべて委ねられる存在は現代人にとってとても大事な存在だと思いますね。
これだけテクノロジーが進化しているなか、SNSやインターネットを介した人生相談はたくさんあるけれど、僕はこんな時代だからこそ、アナログな場所が必要じゃないかって思うんですよ。

泰堂:
なるほど。

竹下:
僕はニッポン放送の人生相談をよく聞くんですけど、ラジオってすごくアナログな世界じゃないですか。
でもあの番組はすごくよくできていて、絶対にインターネットじゃ実現できない。相談者と回答者が直接会話し、間合いを取りながら、答えを見つけていく。
僕らもパーソナルトレーナーとして、クライアントに1対1で向き合っているけれど、トレーニングの合間には個人的なお話をお聴きしたり、プライベートのお悩みを受けたりすることもあります。
そうやって僕らも勉強させていただきながら、みなさんのお役に立ちたいと思うし、個人のそういうつながりって、とても大事だとと思うんです。

泰堂:
今の時代、そうしたつながりが薄れていますからね。
アナログ回帰とまでは言わないけれど、時代の流れに逆行するような、そういう動きも必要だろうと思いますね。

竹下:
泰堂さんにはコートヤードHIROOの「デポルターレヨガ」でも「メンタルファシリテーション」のクラスを月1回、開いていただいていますが、会員さんにとても好評なんですよ。

泰堂:
「メンタルファシリテーション」のクラスはちょっとユニークで、自分を見つめる時間というか、慌ただしい日常のなかで少し立ち止まる時間を持っていただき、いろいろなことに気づくことを目的にしています。
普段からヨガをする人も多くクラスにいらしているけれど、あれだけ長い時間、じっと静止して瞑想することって、ほとんどないでしょう。

竹下:
写経もやるんですよね。

泰堂:
まず瞑想の時間を十分とって、そのあと写経を行います。毎回お題を決めて、それに沿って4文字、ご自分の好きな言葉で書いていただいたり。
これまで写経をやったことがあるという方もいらっしゃいますが、好きな文字を4つ書くなんて、やったことがないっていう方がほとんどで、はじめはみんな「えー」「それだけ?」ってなるんだけど、いざやりはじめるとそれぞれの個性で素敵に書いてくださったり、デザインで遊んでくださったり……。
とても楽しんでいらっしゃるようです。

竹下:
そうやって自分と向き合う時間って、日常のなかではほとんどないですから。
一人一人が自分と向き合いながら、周囲の人たちのことも尊重する。とても貴重な時間ですよね。

泰堂:
もともと仏教はグローバルなもの。どんな人も分け隔てなく受け入れ、お互いに尊重し、許容する文化なんですよね。
今は社会自体はグローバルになったかもしれないけれど、人間は一体どうだろう、排他的になっていないだろうかって思います。
実際、そういう事件もたくさん起きていますね。

竹下:
僕は先日、スリランカへ行ってきたんです。
目的は伝統医学であるアーユルヴェーダの施術を受けることで、ずっとホテルに滞在して、連日さまざまなトリートメントを受けていたんですけど、スリランカはアジア有数の仏教国。
鍼の治療を受けながら、部屋の中にお経のような音楽が流れていて、とても心地よかったんです。

泰堂:
仏教は異文化を受け入れ、共存する性格を持っているから、そうした心地よさがあるのかもしれないですね。
日本でも明治時代までは仏教と神道が融合していましたし、もっと歴史をさかのぼれば、仏教は日本に伝えられてきたときから日本古来の宗教と混ざり合っていましたから。
そもそも仏教が生まれたインドでは、上層ではなく下層の人たちを救いたいというところからスタートしたので、元来、仏教には排他的な要素がなく、おおらかに人を受け入れる土壌があるのでしょうね。

(つづきます)

2020.1.31

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CONTENTS
第1章 「超人」に憧れる現代人
第2章 超人化計画1 運動でミトコンドリアの量を増やす
第3章 超人化計画2 解毒でミトコンドリアの質を上げる
第4章 超人化計画3 食事でミトコンドリアの質を強化する
第5章 Q&A超人をめざす人のために
対談 超人たちをつくってきた二人清宮克幸×竹下雄真

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