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文学フリマ『犬より長生き』について

今週末、11月24日の文学フリマ東京に参加します。
初参加&新刊『犬より長生き』を引っ提げての参加です。
まだ誰も読んだことのない、ふかふかの本についてご紹介します。

『犬より長生き』について

四月、実家で飼っていた十二歳のパピヨン犬・あさがふらりと家を出てしまってから、本当によく彼女の出てくる夢を見ます。
外へ出れば、簡単に犬の話に当たります。
ついこの間も久々に会った先輩から「一人暮らしを始めたら、実家の犬となかなか会えなくなっちゃってさみしい」という話を聞き、「実家にいるならいいじゃないか」と、思ってしまいました。
あさと同じパピヨンという犬種は愛玩犬として人気があるので、住宅街を歩いているとあさに似た犬がてこてこと散歩をされているのもよく見かけます。
半年以上経っても気持ちの整理はつきませんが、犬には頭と手足があるからなあ、と思っています。でも、頭も手足もあるんだから、いつかふらっと帰ってくるといいのにとも思います。
けれども誰かの家に居ついて、幸せに暮らしていたらそれはそれでいいのかもしれません。人だってそんなものかもしれないし。

今回は前々から「この人の文章が読みたい」と思っていた人たちにご協力いただき、犬にまつわるエッセイを寄稿して頂きました。
それぞれ全く違う毛色の文章で、一本一本の面白さに興奮しています。
豪華な一冊になったので、ぜひお手に取ってみてください。

ブースについて
文学フリマ東京 2019年11月24日(日)11時から17時まで
東京流通センター 第一展示場 (東京モノレール「流通センター」駅徒歩1分)
【ト-15】『犬より長生き』
当日の様子はTwitterでご確認いただけますと幸いです。

執筆陣のご紹介

井上美穂「犬の写真」
坂戸生まれ酒屋育ちの会社員・みほちゃんは、大学の同期です。
私が四年生の頃だけ入った軽音サークル(そのサークルには一年生の頃から仲のいい友人がたくさん居たのですが、楽器の練習をぜんぜんやりたくなかったけれど卒業旅行と卒業ライブには参加したかったので四年生で入部しました、めちゃめちゃです)で一緒でした。
なんだかんだと卒業後もよく遊んでもらっています。
電線スカートを作ったワークショップに誘ってくれたのもみほちゃんです。
なにかとセンスのいいみほちゃんは、いい感じの文章を書いてくれそうだから読んでみたいし、一緒に新しい遊びができたらうれしいなと思って寄稿をお願いしました。
かわいいイラストと、かわいい文章です。

今本統人「それでも犬を飼う」
出版社勤務の今本さんは多方面に顔の広い、働きマンの方です。
はるな檸檬先生『ダルちゃん』や谷口ジロー先生『犬を飼う。そして…猫を飼う』などの話題作を手掛けながら、怪奇現象がごく頻繁に起こる部屋にお住まいでした。(もうお引越しされています)
『犬を飼う。そして…猫を飼う』について、今本さんがお話しされたインタビューもあります。見てみてください。

Facebookでひっそりと公開されている日記がめちゃくちゃ面白いので、もっと今本さんの文章を読みたいなあと思ってお願いしました。
『犬を飼う そして…猫を飼う』にまつわるエピソードを交えた、優しく切なく、抱き締めたくなるような文章です。
秋の空気にぴったりなので、ぜひイベントでお手に取ってください。

小川哲汰朗「2019年10月12日」
小川さんは大学の先輩で、理屈好きです。
学生時代、よく一緒に遊んでいた元彼に恋人ができたのを教えてくれ、
私が江古田の六畳間でおよよと泣き崩れるさまを見て、
もう一人の先輩とにやにや笑いながらスピッツの「チェリー」をアコギで弾き語りし始めたときのことは忘れられません。
いま思い出しても素晴らしい選曲だったと思います。

エモーショナルな文章を書かれる小川さんは、先日、バンド「髭 HIGE」のTシャツデザインを手掛けたそうです。そしてなにより、大の愛犬家です。
飼い犬への深い愛情が詰まった文章です。

西口想「有害な男らしさと白い犬」
西口さんは句会仲間で、オフィスラブを扱った小説を評論した『なぜオフィスでラブなのか』の著者でもあります。

ポーカーフェイスの西口さんは、大の犬好きで「大抵の犬には好かれる自信がある」そうです。
「有害な男らしさと白い犬」では社会で語られる男らしさについて、
テレビ制作会社で働いていた西口さんの経験をもとに、丁寧かつ鋭く考察されており、非常に読みごたえがあります。
仕事に揉まれてへとへとになった心に寄り添ってくれた、白い犬のお話です。

山本ぽてと「犬を投げる」
沖縄生まれのライター・山本さんは、鋭くて面白い文章を書かれます。
Twitterを見ていて「おっ」と目を引く社会派の記事は、山本さんがインタビューや執筆、構成などで関わっていることがよくあります。
最近では『STUDIO VOICE』の「We all have Art. 次代のアジアへ——明滅する芸術(アーツ)」特集、韓国文学についてのページで編集もされています。
そしてとにかく、エッセイの名手です。

今回はタイトル通り「犬を投げる」話です。めちゃくちゃ面白かったです。
私がなんか言うよりもぜひ、ぜひ、お読みください。

石山蓮華「あさは呼んでも出てこない」
書き出しから一部掲載します。

母から「どうしよう。あさがいなくなっちゃった。」というラインが来た。
読んだ途端に、両目から涙がぼぼぼ、と落ちてきた。
急いでタクシーを捕まえて、舞台の打ち上げ会場のある麻布から高速に乗り、埼玉の実家へ帰る間に、状況を確認するため母に電話をかけた。
「ドアは全部閉まっていたの、おばあちゃんも私も、お互い犬は隣の部屋にいたと思ってたの。気づいたら、どこにもいないのよ。近所を見たけどどこにもいないの。」と話す声は途方に暮れ、本当に不思議そうだった。
そのとき心配したのは、あさという名前の犬よりも母と祖母だった。
ふたりはだんだん老いてきた小さな雌犬を可愛がり、祖母は犬と同じベッドで寝ていた。
私は犬とそんなに仲良くはなかったし、世話だってろくにしていなかった。私が呼んでも大体寄っては来ないし、たまに来たら来たで「ここなら撫でさせてやってもいい」というように後ろ脚をすっと上げて、撫でさせたい場所だけを撫でさせる。
犬の気が済むと、後ろ脚でざっざとカーペットを蹴り上げ、私に土をかけるふりをしてから一瞬で逃げるのがいつもの決まりだった。

サークル名「ぽんたを見守る会」について

ぽんたは白目がちなプードル犬です。
チョコレート色の巻き毛に長いたれ耳、真っ黒い楕円形の鼻、とぼけたまなざし。ぬいぐるみなので、ソファと背中の間に挟まってしまったときもじっとしています。
刺繍でできたぽんたの目はなにかを見上げるような表情になっているので、私とぽんたの顔が同じ高さにあるとき、目が合うことはありません。
犬はだいたい人の目線よりも地面に近いところにいるので、犬と人の目の合うとき、犬は人を見上げていることが多いことに最近気づきました。
犬の真似をするときには、上を見上げるようにするとぐっとそれらしくなるということはぽんたが教えてくれました。
「文フリに出してみよう」と思い立ったものの、まったくの考えなしに申し込んだのでとりあえず仮で入れておこう、と決めたサークル名が「ぽんたを見守る会」です。
サークル名を変更できる期間はいつまでだったのかよくわからないまま、終わっていました。ぼんやり者の人生あるあるです。

ちなみに、ヘッダーの写真は散歩中にプードル犬が木の枝で背中を掻いている様子を激写したものです。
カメラを構える私に気づいたので手を振ったら「ウー」と唸った後にワンワンと吠えていました。失礼なことをしたなと思いつつ、犬と遠目に触れ合えたような気がしてすこし嬉しかったです。

当日、ぜひお運びください。
寡黙なぽんたとお待ちしております。
よろしくお願いいたします。

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