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ここが私のアナザースカイ

もう9年前になるか、卒論研究のために単身ドイツを訪れた。はじめての海外、2週間の旅程で毎日違う町に宿をとったので、移動は常にばかでかいスーツケースをゴロゴロ引きずってそりゃもう足取りが重かった印象しかない。今の僕なら、普段のリュックサックひとつぶんの荷物で全然乗り切れるだろう(それはそれで、少なすぎやしないかと周りの人が心配してくれるのだけど)。

そのときは美術史を学んでいたので、主に各都市の近現代美術館をまわっていた。ヨーゼフ・ボイスをはじめとした大作をたくさん見れたのはとてもいい経験だったけど、それ以外にあまり遊びを入れなかったのは、今思えばちょっと勿体なかったかもしれない。
それでも思わぬ出会いというのはあった。ミュンヘンのドミトリーで同室になった中国人と本物のオクトーバーフェストに繰り出したり、フランクフルトブックフェアに来ていた老婦人にフリットを奢ってもらったがドイツ語会話に混じれず「早く寝たら?」と言われたり、日本人のゲームクリエイターの人と打ち解けてバーに行ったり、すっぱいパンが食べきれずにライン川で鳥の王になったり、田舎の宿で英語がいっさい通じず部屋に引きこもったり、おねしょパンツを洗っているところを同室の足の臭いアメリカ人に目撃されたり、思い返すとコミュニケーションとディスコミュニケーションが半々という感じだが、そこにある「世の中」に肌で触れていたという感覚がある。

ミュンヘン、フランクフルト、デュッセルドルフ、ケルンなどなど巡った中で、ベルリンは異彩を放っていた。とにかく博物館が充実していることはもちろんなのだが、新旧の文化が入り乱れ、あるところでは未完成の余白がぱっくりと口を開けている。巨大な傷跡のようにも見えるが、そこを覗き込むと新しい細胞が次々分裂し、噴き出すときを待っている。たった2、3日の滞在だったが、そんな印象をもった。
ベルリンの壁のグラフィティアートが残されているイーストサイドギャラリーで、一枚一枚写真を撮ってまわった。壁は川に沿って建てられていて、川には煉瓦造りの尖塔がふたつついた橋がかかっている。その上層を市電が走り、下層を歩行者や自動車が行き来する。僕の宿は大きな駅から川を挟んで向こう側だったので、スーツケースを引きずって何度かこの橋を渡った。
古風なアーチ状の梁を見上げながら橋の中央部にさしかかると、鉄骨のアーチにネオン灯がふたつ、かつての東西ベルリンの境界を挟んで向かい合うように設置されている。ふたつのネオンが順番にグー、チョキ、パーの形に光る。夕陽のなかでジャンケンをつづけるネオンをみつづけているうちに、なんとなく、ここなら住んでもいいな、と思った。
いつかその日が来るかもしれない。楽しいだろうな。

いろいろと新生活が動きだす今日このごろ、そんなオーバーバウム橋が恋しくなってマグネットにしてみました。
マグネットって本当にいいものですね。。

お店の準備やら何やらであまりお金がありません。おもしろかったら、何卒ご支援くださると幸いです。