『デジモン』のカードゲーム発となる新シリーズ『リベレイター』スタート記念。クリエイターとプロデューサーによるスタッフインタビュー!
●取材・文:池田元気(TARKUS)
1997年に電子ゲームとして発売され、アニメ化などで多くのファンを獲得。現在も続く長寿シリーズに発展した「デジモン」こと「デジタルモンスター」。その人気コンテンツの一つ「デジモンカードゲーム」を題材に、カードと連動したコミックと小説を展開する新プロジェクト『デジモンリベレイター』が始動した。その中心スタッフ3名にお越しいただき、企画の経緯や今後の展望などを語っていただいた。
小林史弥氏
デジモンデザイン
村田康平氏
バンダイ デジモンカードゲーム プロデューサー
兎塚クニアキ氏
『デジモンリベレイター』設定、脚本、テイマーデザイン
――まず『デジモンリベレイター』の企画の経緯について教えてください。
村田:おかげさまで「デジモンカードゲーム」は来年で5周年を迎えることになります。嬉しいことですがトレーディングカードゲーム(TCG)という都合上、長く続けているとどうしてもアグモンやオメガモンのようなラインナップが人気デジモンに偏ることが増えてしまいます。商品の特性上、TCGはおおよそ3カ月に1回の新弾発売で数十種以上が必要となります。その度に攻撃力(デジモンパワー)の違う新キャラを作ってきましたが、5年目にもなるので新しいことにチャレンジしたいと思ったのです。そこでユーザーの皆さんに喜んでもらえる新たな取り組みとして、新たなデジモンを作るということを考えました。さらに、そのデジモンたちが活躍する、デジモンカードゲームの世界観を拡張したストーリーを考えました。
――そこでコミカライズとノベライズが企画されたわけですね。
村田:今、デジモンカードゲームは日本以外のアジア地域でも日本語版、中国内地は簡体字版、韓国は韓国語版、欧米は英語版と非常に多くの地域で遊んでいただいております。ウェブコミックはネット回線が通っていればどこでも読めるので、全世界に向けるにはウェブ上で読めるコミックやノベルが相応しいと考えました。そこで日頃、デジモンカードにご協力いただいている皆さんに「漫画を描ける方はいないか?」と相談し、そこにいらっしゃる兎塚さんを紹介していただいた流れです。兎塚さんは僕のぼんやりしたイメージから「その設定なら、こんなデジモンはどうでしょう」と具体的なアイディアを出してくれました。
兎塚:僕が以前、シナリオで関わった『アニマギア』の担当だった方から紹介されて、このプロジェクトに参加しました。実は商業で漫画を描くのは今回が初めてですが、その方は僕がプライベートで漫画描いていることをご存じだったんです。
――WEBTOON(縦読み漫画)スタイルにしたのは海外展開を想定したからですか。
兎塚:最初は普通の横開きスタイルでネームを描いていたんです。そのネームにOKをもらえたので、編集担当さんにネームをお渡ししようとしたところ、急に村田さんから「謝りたいことがあるので、バンダイ本社に来てくれませんか」と呼び出されました。何事かとビクビクしながら約束の時間にお伺いしたら「すみませんが、縦描き漫画に直してください」と言われたんです。
村田:後で気付いたのですが、縦読み漫画には画面がそのままカード化できるメリットがあるんですよ。場面を切り取ったカードデザインをする広がりも考えられますからね。また他の漫画との差別化や、迫力を出したいという意図もあります。そこで兎塚さんに無理を言って縦読み漫画に直してもらいました。
兎塚:縦読み漫画はいわゆる「綴じ方向」がないので、グローバルに展開しやすいというメリットもあったので、結果的に正解だったと思います。
――表現スタイルの変更は大変だったのではありませんか?
兎塚:会社に呼び出されたときは「企画の中止」を覚悟していたので、表現スタイルの変更と聞いたときはハードルが一気に下がりました(笑)。その後は1カ月ぐらい縦読み漫画を片っ端から300本ぐらい読んで勉強しましたね。
小林:そういう作戦だったのかも(笑)。
村田:そこまで考えていませんよ(笑)。
兎塚:縦読み漫画って、見開きページがないことや、時間経過の表現に長いコマを使うなど、縦読み漫画ならではの技法を勉強するのに苦労しました。ですが、縦読み漫画が基本的に1スクロールに対して1コマだけ表示する媒体なので、ネームを描く上では考えることがシンプルなんです。そのことに作業を進める中で気付きました。
村田:いや、決して楽ではないと思いますよ。これも兎塚さんから教えてもらったのですが、縦スクロールだと次のページの展開が見えてしまうので、わからないように工夫して描いてくださっているんです。本当に感謝しています。
――コミック版の戦闘演出はゲームやアニメを参考にされたのでしょうか?
兎塚:WEBTOONはアニメ的な見せ方が一般的で、昔のフィルムコミックのようなイメージなんですよ。部屋に入る描写で大袈裟に例えると『扉を開ける』『部屋に踏み入れる』『扉を閉める』みたいな、普通の漫画では描かないような時間経過を入れたりします。その技法で進化シーンをどう表現するか考えたとき、いきなり進化するのではなくアニメ的な演出を入れるべきだと考えました。戦闘演出に関しては、上から下にズドーンと突き抜けるコマ割りをするので、「デジモンストーリー」などのゲームのバトルシーンを参考にさせてもらいました。
――デジモンそのものではなくカードバトルというスタイルならではの苦労はありますか?
村田:実は当初はカードゲーム漫画ではなく、デジモンの漫画を予定していたんですよ。
兎塚:そのときも村田さんに呼び出されました。「すみません、カードゲームに変えてください」って(笑)。
村田:後になって「自分が伝えたいのはデジモンカードゲームの良さなんじゃないか?」ということに気付いたんです。それでカードゲームの強みを活かした設定に変えてもらいました。
――デザインに関する部分で兎塚さんから提案されたことはありますか?
兎塚:キャラクターデザインをする際に色々とパターンを用意して提案しましたね。漫画版に関してはすんなり決まりましたが、小説版の主役・ユウキのデザインで揉めました。
村田:お話に関しては全振りしましたが、キャラクターは”顔”になるので妥協はできず何度も揉みましたね。
――テイマーのデザインコンセプトは?
村田:近年の漫画で流行っている大人向けなキャラクターを狙いました。そこでスラッとしたスタイル&実際に原宿で歩いていそうな服装をオーダーしたんです。アニメや漫画的な服装を否定するつもりはありませんが、記号化された衣裳にはしたくなかったんです。
兎塚:そのコンセプトには自分も共感しました。ところがオシャレの方向性が合わず、何パターンも描いては直しました(笑)。他はすんなり決まったのに、ユウキたち女子のファッションで揉めましたね。
村田:ファンを意識して各キャラクターの誕生日や身長体重なども考えたんです。そういう設定があるとユーザーが共感できて応援しやすいですし、キャラクターの誕生日にはぜひSNSなどで生誕祭のように盛り上がってくれたら嬉しいですね(笑)。
――新規デジモンも数多く登場しますが、どのようにデザイン発注されているのでしょう?
小林:デジモンの世界観を前提として、メイン商品である液晶玩具のときは「こういう進化ルートを作りましょう」と考えて作るのが基本ですが、他のゲームやカードの場合は「こんな活躍をするデジモンが欲しい」というオーダーで新デジモンを作る流れですね。
村田:デジモンカードゲームの場合はゲームの性質上進化の都合が大きく関わります。進化ルート上にいないデジモンの補完というケースが多いですね。
――主役デジモンのプテロモンはどのような経緯で誕生したのでしょう?
村田:主役デジモンは恐竜型を含めていくつも候補がありました。ただ主人公のカードプールの色に赤と黄が多い印象だったので、緑で鳥っぽいデジモンの主人公を作ろうと思ったんです。他の新規デジモンもプレックスの小林さんにコンセプトを伝えてデザインしていただきました。
小林:プテロモンは村田さんから「主人公デジモンで、鳥だけどドラゴンっぽくしてほしい」というオーダーをいただきました。また「鳥竜型」や「データ種」という設定も具体的に言ってくれたので、それほどデザインを固めるのに時間がかかりませんでしたね。ただシューモンに関しては「黄色でパペット型」くらいしか決まっていませんでしたね。
村田:最初は「オシャレな感じ」というイメージで、たしかパーカーを着ていましたよね?
小林:最初は「服を着せたい」という要望でしたが、「はたして服の進化とは?」で疑問が生じてコンセプトを見直したんです。それで村田さんがスニーカー好きだったことから「オシャレは足元から」とも言うことでスニーカーを成長期にしました。でも今度は「靴の進化とは?」にブチ当たり、試行錯誤の末に今のシューモンの進化ルートが導き出されました。シューモンは一足の靴、シューシューモンは二足のローラースケートがモチーフです。
――究極体のサンドリモンが『シンデレラ』のガラスの靴になったのは?
小林:靴というモチーフの中で特別な格のあるイメージを持つものが「ガラスの靴」だったためです。完全体のシャペロモンは究極体のサンドリモンから逆算的におとぎ話の要素を取り入れて『赤ずきん』をモチーフにデザインしました。過去シリーズでもおとぎ話をモチーフにしたデザインは多くなかったので良いのではと考えました。
――風真照人と城之崎有紗の最初のパートナーデジモンにムーチョモンとジャンクモンが選ばれた理由は?
村田:デジモンカードはゲーム展開的に似たような系統のデジモンでデッキ構築する必要があるんです。その条件であまり陽の目を見ていないデジモンにスポットを当てようと思いました。
兎塚:ムーチョモンやジャンクモンの他にも、既存のデジモンからパートナーを選定する中で『デジモンペンデュラムZ』という商品が浮かび上がってきました。デジモンカードの色という概念に、ペンデュラムZのキャラクターが見事に当てはまったんですよね。そういうこともあって、ムーチョモン・ベムモン以外の既存デジモンから選定したパートナーデジモンは『デジモンペンデュラムZ』シリーズで登場したデジモンで統一する流れになりました。
村田:実は『デジモンペンデュラムZ』は僕がバンダイに入社し、2年目にして初めて手掛けたデジモン商品なんです。社会人2年目でわからないことは全部小林さんに全部教えてもらいました。
小林:僕にとってもデザインディレクションをした初めてのデジモン商品になります。だからジャンクモンを選んでくれて嬉しいです(笑)。
兎塚:『デジモンペンデュラムZ』のときに初めて、小林さんとがっつりタッグを組んでデジモン図鑑を作ったんですよ。ですから僕にとっても『デジモンペンデュラムZ』のデジモンは思い入れがあるんです。
――珍しいデジモンとしては、中国配信アプリ『デジモン エンカウンター』に登場するブルコモンが出ていましたね。
兎塚:今回の主人公であるプテロモンの究極体が魔法騎士型のゼファーガモンで、「ウィッチェルニー」という別次元のデジタルワールド由来のデジモンという設定なんです。その第1話の対戦相手を考えたときに「新旧魔法騎士型を対決させたい」という話になり、そこでブルコモンの究極体であるヘクセブラウモンが選ばれました。
――今度はノベル版についてお尋ねします。こちらに登場するインプモンは進化形態が今までと違う姿でしたね。
村田:ユーザーの皆さんにインパクトを与えたいと思っており、「人気のデジモンが新しい進化先に進化したらおもしろいのでは?」という思いで選定しました。
――デジモンのデザイン上でのルールはあるのでしょうか?
小林:難しい質問ですね。色々なデザインに挑戦できるので、基本的にはデザインに共通するルールはありません。でも20年以上続く歴史の中に1,000体以上のデジモンがいて、それらには言語化されてないルールがあることも確かです。そのことに注意しながら新たなデジモンを作ることは非常に難しい作業ですよ。ただデジタルなモンスターなので「端末の向こうに存在するデジタル生命体に、ネット上の情報が加わることで進化するモンスター」というのはコンセプトの中心にあります。だからサンドリモンも『シンデレラ』以外の情報を取り込んで進化しているんですよ。
――コミック版と小説版のキャラクター同士の共演はあり得ますか?
兎塚:あります。サイドストーリーとはいえ同時進行なので、実を言うと早い段階で顔を合わせることになると思います。それぞれ独立した『デジモンリベレイター』という作品ではなく漫画と小説でひとつの作品として考えていただけたら嬉しいです。
――テイマーたちが携帯するD-STORAGEは実際に商品も販売されますね。
村田:『デジモンリベレイター』で象徴的なメインアイテムを作るなら、カードケースが良いのではというアドバイスを小林さんからいただき、トイ事業部の担当と相談しながら作りました。カッコいいディティールに注目してほしいです。
――これからの見どころも含めてファンの方に向けてのメッセージをお願いします。
村田:今後、『デジモンリベレイター』を進めるなか、ユーザーの皆さんが何を求め、どんなデジモンの活躍を期待するのかを日々考えています。ファンの皆さんに喜んでいただける作品を目指すので、ぜひご期待ください。
兎塚:子どもの頃からデジモンが好きで、プライベートでもデジモンの物語を温めてきました。自身もファンの一人として、ユーザーさんが楽しめるものを出せる自信があります。作中ではカードバトルの行方だけでなく、キャラクターたちの動向も掘り下げていきます。数々の驚きを用意するので、楽しみにしてください。
小林:これからも『デジモンリベレイター』に新デジモンが続々と登場します。楽しみにしていてください。
PROFILE
小林史弥
5月18日、京都府出身。建築系の仕事を経て、株式会社ウィズに入社。現在は合併に伴い株式会社プレックスに所属。『デジモンユニバース アプリモンスターズ』からデジモンに関わる。好きなデジモンは、小学生の頃にそのカッコいいビジュアルに衝撃を受けた「ティラノモン」。
村田康平
8月28日、長崎県出身。知人の勧めでBANDAIに就職する。2年目からボーイズトイにて、『デジモンペンデュラムZ』『VITALBRACELET』を手掛ける。YouTubeバンダイ公式チャンネル『VITALBRACELET』の解説者・パルス村田としても活躍。その経験から『VITALBRACELET』の主役デジモンだった「パルスモン」を好む。
兎塚クニアキ
10月19日、神奈川県出身。寺である実家の副住職とクリエイターを兼任する異色の経歴を持つ。ブラウザゲーム『デジモンフォーチュン』のシナリオを皮切りに、デジモン図鑑や小説『CHRONICLE-X:THE LAST EPISODE』などを手がける。デジモン図鑑でロイヤルナイツの設定を作った思い入れから「ジエスモン」を好むが、見た目で選ぶなら「ムゲンドラモン」、設定なら「アヌビモン」が好きとのこと。
DATA
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関連情報
(C)本郷あきよし・フジテレビ・東映アニメーション
(C)本郷あきよし・東映アニメーション