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OKOWA TOKYO 6 ④

第二試合
後攻の深津さくらさん。
人怖を語ることも珍しいさくらさんですが、ストレートなクライム系怖談というのがまず驚きました。

大学生時代のアルバイト先での出来事は、さくらさんにとっていい思い出だったかのように聞こえました。
さくらさんも同じ大学生という境遇から、男性会員の人あたりの良さも手伝って、いい印象を持っていたことがひしひしと伝わりました。

件の男性会員の正体が分かってからは敬称を除いてTと呼び、口調も硬く焦燥や怒りが込められたような印象の、前のめりな語り口に変化していきます。
Tの本名と姿は、当時のニュースやワイドショーを賑わせていました。
私もこの事件を目にした時は、また嫌な事件が起きたと辟易しましたが、やはり他人事だったと思います。

しかしこの10分間で、さくらさんが感じた信じられないという思いや、愕然として思考が止まったり、Tに対する感情の変化の一端をさくらさんの語りを通して追体験しました。

器具や物がTが使う度に壊れていくことに、Tはどのように感じていたのか、壊れた時にどのような表情をしていたのか、一線を超えた人間の身の回りに起きることは、常人では理解できないんだと思います。


「時間が経ったから」

この怖談を語るにあたってさくらさんは、そう前置きをされました。
心の奥底で澱のように溜まっていたであろうこの忘れ難い体験談は、話術や構成うんぬんの域を超えた告白として受け止めました。
真っ直ぐ前を見据えて舞台ライトに照らされ輝く瞳が、とても印象的でした。

私は怪談の賞レースを肯定的に受け止めていますが、さくらさんのこの怖談を聞いた直後は投票したくなかったし、どちらかを選ぶことがこんなにも心苦しいとは思いもしませんでした。

OKOWAを会場で観戦することはただ漫然と楽しむだけでなく、決めなければならないことを痛感した第二試合でした。

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