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「テクノポリス21C(1982)」を毎週テレビで観たかった

「買ってからの後悔は三日で忘れるが、買わなかった後悔は三年は続く」なんていうけれど、おれの「買わなかった後悔」最新版はついに四年目に突入してしまった。

 モノはこれ。アニメ映画「テクノポリス21C」の主役ロボ、テクロイド・ブレーダーの可動フィギュアに、映画本編のリマスター版Bru-layディスクがついた特別セットである。
 おれが欲しかったのは付属するBru-layの方だったのだが(手持ちの映像ソフトが中古で買ったLDレーザーディスクしかないので)「フィギュア飾っとく場所ないんだよなあ~」とか「ディスク付きがAmazon限定ってことは、商品売り切った後にアマプラで配信とかするんじゃないかなあ~」とか日和ったことを考えてポチれずにいるうちにセットの在庫は切れ、まあまあ重たいプレミアがついたまま現在に至るのだった。もちろん配信など始まっていない。しくじった……。

 ただ、この件についてひとこと言わせてもらうなら、映画本編がフィギュアのおまけとしてしか商品化されてないこと自体どうかと思うのよね。
 確かに劇場公開アニメとしてはかなり作画が厳しいし(元々は映画じゃなくてTVアニメのパイロットフィルムだった……という裏事情を差し引いてもツラい。80年代のアニメなのに70年代の匂いがする)、「当時の最先端デザインのメカが活躍するロボットアニメ」を期待して観ると、質・量ともにもう全然物足りない。
 しかしだからといって、おまけ扱いで十分な凡作などでは断じてないのだ。TVアニメ3話分をガッチャンコさせたような内容でありながら、意図した結果か偶然か「テクノポリス21C」はきっちり三幕構成の基本を踏まえており、78分の短尺ながら「『映画』を観たなあ~」という満足感をそれなりに味わえる逸品なのである。この点において、allcinemaのレビューは完全に正しい(細部にちょいちょい間違いはあるけれど)。

 西暦2001年。未来都市センチネルシティは、メカを悪用した凶悪犯罪に日々脅かされていた。警察はこれに対抗すべく、3体の自律型捜査ロボット「テクロイド」を開発、彼らとコンビを組む3人の刑事を選抜した。特捜マシーン隊「テクノポリス」の誕生である。

 ……というのが本作の基本設定。TVシリーズ全24話のプロットから中盤の2話分が選ばれてパイロットフィルムの制作が始まったものの、いろいろあってシリーズ化の予定が流れ、第1話の内容を追加することで一本の映画にまとめられたのだという(Wikipedia調べ)。
 その第1話の前半部分が三幕構成の《セットアップ》に対応しているわけだが、まずこのパートがめちゃくちゃ上手い。主人公の青年刑事・壬生京介が乗るクラシックカーを狂言回しにして、主要キャラの人となり、海外ドラマめいてバタ臭いムード(なにせ車種はロータス・セブンだ)、作品世界のテクノロジーレベル、シティにはびこるメカ犯罪のヤバさ加減、京介の相棒となるブレーダーのお披露目……と、映画の基本情報が立て板に水の勢いで観客の脳にインストールされてゆく。
 おれが特に好きなのは、シティに向かう途中で愛車にガソリン入れようとした京介が水素燃料ステーションに立ち寄ったら、店舗の隅っこに追いやられてヨボヨボ口調の給油機型ロボットに応対されるくだり。冷静に考えたらわざわざ老人キャラのロボを製造する必要なんて全然ないんだけど(それとも新品の頃は若々しかったとでもいうのか?)様々なサービスがロボット化され、化石燃料が過去の遺物になりつつある作品世界の在りようが肌感覚でスパッと伝わってくる。この職人的な上手さが「あ、これは観続けても大丈夫なやつだ」と序盤の段階で安心させてくれるのだ。

 その後の第二幕と第三幕、すなわち映画のメイン部分を構成するのは、TVアニメの第11話~12話になるはずだった前後編である。
 最新鋭ハイテク戦車・MBT-99A「テムジン」が某国の手先に強奪される事件が発生。前編に相当するパートでは京介と仲間達が強奪犯を捕えるまでの活躍が描かれるが、後編に入るとムードが一変する。操縦者を逮捕されたテムジンの自動制御システム「コマンドⅡ」が誤作動を起こし、テクノポリスの女性刑事・風吹エレナを閉じ込めたまま暴走を始めるのだ。
 機密漏洩を恐れた軍は攻撃部隊を出動させるが、テムジンの凄まじい戦闘力の前に手も足も出ない。戦場と化すセンチネルシティ。しかもコマンドⅡは、主砲弾を撃ち尽くして継戦不能となった時、テムジンを自爆させるようプログラムされていたのだった……!

 第二幕の前半は調子よく物事が進み、後半で危険度が急激にアップするのが三幕構成の定石。コマンドⅡの暴走は、その境目となるイベント《ミッドポイント》として完璧に機能している。アクションシーンの見せ場もテクロイドからテムジンへと軸足が移り、映画のジャンル自体が未来警察ものから怪獣映画へ変わってしまったかのようだ(怪獣役のテムジンがヒロインを連れ回すあたりは「キングコング」的でもある)。

 ちなみに、「シド・フィールドの脚本術」に並ぶ三幕構成解説書の名著「SAVE THE CATの法則」では、第二幕前半を《お楽しみ》セクションと定義している。「ポスターや予告編で使った一番おいしい部分なので、観客はストーリーの進展以上にこの《お楽しみ》に期待している」とのことだが……

 公開当時のポスタービジュアルがあまりにも定義そのまんまで笑ってしまう。ブレーダー・スキャニー・ビゴラスのテクロイド3体がこの絵面どおりに活躍する場面は、まさにこの《お楽しみ》セクションしかないのだ。まんまとしてやられた感が逆に小気味よい。

 第二幕から第三幕への転換点となる《セカンド・ターニングポイント》では多くの場合メインキャラクターに大きな変化が訪れ、ラストに向けて新たな行動を開始する。本作でその役を担うのは、事件を通して成長し、京介の相棒として覚醒するブレーダーだ。
 とはいっても、いきなりブレーダーに人間らしい感情が芽生えたりするわけではない。内蔵されたAI(作中では使われてない言葉だけどわかりやすいからそう呼んじゃう)の学習データが蓄積した結果、自発的な行動や軽口混じりのコミュニケーションが可能となり、それを京介が相棒ムーブと解釈しただけである。その点はテムジンも同様で、彼はコマンドⅡの戦闘プログラムに従いながら、強奪犯が逮捕前にインプットした目的地の座標へ向かっているにすぎない。そこに何らかの意思や狂気を見出しているのは、あくまでテクノポリス側の勝手な思い入れだ。だがそこがいい。そのストイックさにこそSF的な旨味がある……いささか淡泊なのは否めないけれど。
 その淡泊さを補うかのように、第三幕ではバラード調の挿入歌(作・編曲:久石譲)やエモい透過光演出が次々と投入され、昭和ハードボイルドめいた雰囲気を盛り上げてくれる。夕暮れの埠頭で京介とテムジンが対決するシーン、めちゃくちゃ良いですよ。本作の中でここが一番好き。公開時点ですでに賞味期限切れの感があったベタ演出が、アニメという媒体ゆえにビシッと決まっている。作画があともう少しだけ頑張ってくれてたら、映画全体の評価すら上振れていたかもしれない。

 第三幕自体は10分ちょっとのボリュームしかないのだが、短い尺の中でピンチとチャンスが目まぐるしく入れ替わる怒涛の展開が素晴らしい。黒幕との対決、ヒロインの救出(※)、そしてテムジンとの決着……気が付けばあらゆるタスクにきれいさっぱりケリがつき、テクノポリスの面々はセンチネル・シティへ帰還していく。コンパクトながら満足度の高い幕引きだ。

※実はエレナが助かる手段はめちゃくちゃ強引な設定に頼っているのだが、演出のテンポが良すぎるせいでついついツルっと受け入れてしまう。「空軍の戦車だから」じゃねえんだよ!

 でもそれは、あくまで映画単品として観ればの話。実現しなかったTVシリーズの存在が念頭にあると、流れるスタッフロールを見ながらどうしてもこう思わざるを得ない。「君達ならまだ色々できるはずじゃん! ほかの話も見せてよ!」と。

 一本の映画の中で定められた役割を果たすべく情報を削り込まれた登場人物と、複数クールにわたるエピソードを保たせるために設定が盛られたキャラクターでは、可食部の大きさがまるで違うのだ。前者が悪いわけではないけれど、後者の出番が単発映画に限られているのはいかにも勿体ない。キャラが魅力的ならなおさらだ。
 囚われのヒロイン役に甘んじたエレナも別のエピソードならバリバリ活躍できただろうし、第三幕でほぼ出番がなくなってしまった「かおるちゃん」こと香坂かおる刑事(35歳男性。身長202cm。非番の日はクラシックを聴きながらバラに水をやる)のポテンシャルだって、全然こんなものじゃないはず。中盤で事件に巻き込まれるミニパト婦警コンビなんか、完全に「なぜか毎回テクノポリスがらみで大変な目にあうおもしろ準レギュラー」枠じゃないですか。ハートフルな主役回が1話ぐらいあるやつ!
 あとなんといっても、京介役の安原義人さんの声がいいのよね。クセのない軽さが逆にクセになる、ザ・二枚目半。「CAT'S EYE」の内海俊夫役からそのまま「CITY HUNTER」の冴羽獠役にスライドして、もっこりを脱臭したらこんな感じかなー……なんて想像してしまう。流れるような軽口をもっと堪能したい。TVシリーズの次回予告ナレーションを担当してくれてたら「スペースコブラ」みたいにまとめ動画が出回っていたに違いない。

 まあ、TVシリーズについてはいまさら言っても詮無いことではあるので、せめて本編を手軽に視聴できるようになってほしい……というのがおれの希望です。「脚本」「演出」「音楽」「演技」が面白さのキモなのに、実際に鑑賞するハードルが高いせいで低評価に甘んじている現状はあまりに惜しい(スチルから予想できる内容より100倍いいんだよ!)。定期的にアマプラで見放題になるくらいが理想。どうかよろしくお願い致します。

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