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ジェネリックスターウォーズ境界線上のボレロ「スターウルフ/宇宙の勇者 スターウルフ(1978)」

「ジェネリックスターウォーズ」とは何か。それは世界最初のスターウォーズ(のちのエピソード4)が大ヒットして宇宙SFブームが巻き起こった「あの頃」に公開・放送された、スターウォーズ有効成分を相当量含有する映像作品を指す概念である。(※個人の定義です)
 かつてジェネリック医薬品が「ゾロ新(先発医薬品の特許が切れたらゾロゾロ出てくる新薬)」という不名誉な俗称で呼ばれていたように「パクリ」「パチモン」「便乗作」などの誹りを受けがちなジャンルではあるが、そこには独自の味わいと確かな多様性が存在するのだ。全然味がしないやつもたまにあるけど。

【スターウォーズ有効成分の例】

・宇宙戦艦底面ゴゴゴゴフレームイン(含有率トップクラス)
・プラモ部品ペタペタ宇宙メカ(経年劣化ウェザリングつき)
・宇宙戦闘機ドッグファイト(細い地形を通りがち)
・ビーム銃撃戦(血は出ない)
・ビーム剣チャンバラ(血は出ない)
・ブラック鉄カブト宇宙ヴィラン
・フルフェイスヘルム宇宙トルーパー
・ジュー・ウェア宇宙ヒーロー
・プリンセス系宇宙ヒロイン
・なんか小さくてかわいい宇宙ドロイド
・なんかでかくて毛むくじゃらの宇宙生物
 etc...

 有効成分がどの程度入っていたらジェネリック認定すべきか……それはデリケートかつ主観的問題だ。定まったレギュレーションがない以上、それぞれの作品にどれだけスターウォーズっぽさを(あるいはスターウォーズブームでひと儲けしようとする商魂を)感じたか、己の胸に手を当てて逐一ジャッジする必要がある。「宇宙からのメッセージ(1978)」や「宇宙空母ギャラクティカ(1978)」のように、100人中100人が「アッこれはスターウォーズのようでスターウォーズじゃない何かだ!」と思う作品は、実はなかなかないのだ。

 たとえば「惑星大戦争(1977)」。完全にブームに乗っかったタイミングで公開されたものの、内容的には「海底軍艦(1963)」の宇宙版とでも言うべき由緒正しい東宝SF映画であり、「スターウォーズっぽい何かを観た」という感想は抱きにくい。浅野ゆう子を襲う宇宙獣人がギリギリ毛むくじゃら枠かな? ぐらいな感じ。個人的にはジェネリック選外としたい。
 スターウォーズ追っかけ作品と受け取られがちな(少なくともプロデューサーは100%そのつもりだったはず)「フラッシュ・ゴードン(1980)」もミーム的には逆にスターウォーズの元ネタのひとつであり、ジェネリック扱いはシツレイにあたろう。一方「スター・ファイター(1984)」はというと、ブームの時期を逸してはいるものの「辺境でくすぶるティーンネイジャーが銀河に旅立ち成し遂げる冒険物語」というエピソード4の芯をがっつり食っており、精神的なジェネリック作品と言える。

 ……そんな風に仕分けを進めていくと、いつもおれの手元にはひとつの作品が残る。ジェネリック認定すべきか否か、いまもって結論を出しかねる特撮TVショウ。かつて日本テレビ系でON AIRされた円谷プロ制作のアストロノーティカドラマ「スターウルフ」である。

 上記のダイジェスト動画を見たら、100人中100人が「いやいやいや完全にスターウォーズのようでスターウォーズじゃない何かじゃん! 悩む必要なくね?」と思うかもしれない。だがちょっと待ってほしい。この動画で確認できるスターウォーズ有効成分のほとんどは、2クール目の路線変更テコ入れで追加されたものなのだ。

 そもそもこのTVショウの原案となったのは、「キャプテン・フューチャー」のエドモンド・ハミルトンが最晩年に執筆したハードボイルド・スペースオペラ小説。宇宙ヒーローと宇宙ヴィランが銀河狭しとド派手な戦いを繰り広げ、スパイシーな宇宙ヒロインが華を添える世界観の「先」を目指して書かれた(であろう)物語である。

 銀河中で忌み嫌われる宇宙の略奪者集団「スターウルフ」の一人・ケインは、仲間割れから傷つき追われ、傭兵部隊に身を投じる。その正体を知るのは部隊のリーダー・ディルロのみ。素性を隠し、果てしない宇宙で過酷なミッションに挑むケインを、かつての仲間たちが仇と付け狙う……。

 奇怪な異星生物や超兵器、古代文明の超科学マシンといった濃い目のSFガジェットが結構な頻度で登場するものの、それらの扱われ方は総じてペシミスティック。すごい科学で宇宙に版図を拡げてもなお、人類(異星人含む)の営みは欲と争いにまみれている。そんな連中の面倒事を引き受けるのが、星間文明圏内ではシケた貧乏惑星でしかない地球人類の身すぎ世すぎ、命を張った傭兵稼業なのだ。
 宇宙というメキシコに魅せられて危険に飛び込んでゆく真の宇宙の男スターマン達の、渋く熱い生きざまがシリーズの魅力である(作者の死で中断したのが惜しまれる)。個人的には3作目「望郷のスターウルフ」の冒頭、老いたディルロがオレンジ農園に隠居しそこねるくだりが好きですね。

※ここでいう「メキシコ」「オレンジ農園」は、ダイハードテイルズ逆噴射聡一郎先生が真の男について語る際に用いられる概念的存在です。実際にディルロが隠居しそこねるのはイタリアの港町ブリンディシです。ブドウやオリーブ農園はあるらしい。

 だが、そんな作品を原案に据えた番組を放送するには、状況的にいささか逆風が強すぎた。なにせ当時は、スターウォーズの中でも特に明朗快活なエピソード4がウケにウケている真っ最中だったのだ。
 2クール目で早々にオリジナル路線に転向したTVショウ版「スターウルフ」は、スターウォーズ有効成分の注入をドーピングめいて繰り返しながら当初の予定を大幅に下回る全24話で最終回を迎えた(本来は1年かけて3冊の原作を追う予定だったらしい)。同時期にNHKで制作された「キャプテン・フューチャー」のアニメ版が、明るくポジティブな原作を再現しつつ全52話(+特番1話)を走り切ったのとは対照的だ。民放と公共放送における制作方針の違いもあったとは思うけど、あの頃求められていたのは古き良きスペースオペラのアップデート版であり、その「先」ではなかったのだろう。

 スターウォーズブームに背を向けるかのように硬派路線を貫いた前半と、ジェネリック化を推し進めてどんどん派手さを増す後半。いま再見すると、それぞれに違った旨味がある。「この作品はジェネリックスターウォーズである/ではない」と無理やりどちらかに定義して残る一方を取りこぼしてしまうより、おれとしては作風の変遷も含めた全24話の総体をまるっと愛でていきたい。

 問題は、作品を愛でる手段が2022年現在DVD-BOXしかないことだ。とくにプレミア化とかはしておらず現在も普通に購入可能ではあるが、動画配信で気楽に見られる選択肢がないのは少々つらい。ウルトラサブスクことTSUBURAYA IMAGINATION様におかれましては、ASAPなるはやで全話配信を実現してほしい(「むしろなんで配信してないんだよ!」と言いたいところだが、そこは我慢する)。

 いや待てよ、配信されるとしても年額¥19,800(税抜)のプレミアムプランだよな絶対(「怪奇大作戦」とか「緊急指令10-4・10-10」と同じ枠)。もう少し出せばDVD-BOX全巻買えるじゃん。全然気楽じゃない! 
 ……うーむ仕方ない。とりあえず今は視聴環境が整った時に備えて、旨味の濃いエピソードをピックアップしておこう。「それいけ! ゴールドバーグ家」のときの轍を踏んでいるな。だがやむなし。


銀河系の彼方の星、ヴァルナ。
そのヴァルナ星・ウルフアタッカーは
略奪集団として全宇宙から恐れられている。
地球人でありながら悪の星ヴァルナで育ったケンは
アタッカー随一の強さを誇り
「スターウルフ」と呼ばれていた。
しかし、地球を襲ったとき仲間を殺したため
ウルフアタッカーから追われる身となる。
ふるさとを失い、宇宙を独りさまようケン。
そのケンを救ったのは地球のバッカスⅢ世号だった。

これは、スターウルフ・ケンの物語である。

(冒頭ナレーション:納谷悟朗)

第1話「さすらいのスターウルフ」
第2話「銀河を駆けろ! バッカスⅢ世」

 基本設定がセットアップされるファーストエピソード前後編。「スターウルフ」の名が主人公ケンこと新星拳ニイボシケン個人の異名だったり(そもそも原作のケインはスターウルフの中では虚弱な方だ)、傭兵部隊に相当する組織「スペースコマンド」のメンバーや乗船が固定されていたりと、登場人物やメカニックのキャラを立てるためのアレンジが随所に入っている。で、その一環で主人公まわりの人間関係も補強されているのだが……

【原作】略奪の分け前をめぐるいざこざから、ケインはスターウルフの同僚・スサンダーを殺してしまった。
【TV】地球を襲撃した際、自分と同じ名前の子供を探す母親に銃を向けるのをためらったケンは、それを見咎めた恋人の兄・スサンダーと揉み合いになり殺してしまった。

【原作】傭兵部隊のジョン・ディルロは、かつて任務で地球を留守中に妻子を火事で失った過去がある。
【TV】引退して地球の家族と暮らすと決意したスペースコマンドのキャプテン・ジョウ(演:宍戸錠)。しかし、最後の任務から帰還した彼を待っていたのは妻子の亡骸だった。ケンと共に地球を襲撃したウルフアタッカーに殺されたのだ。

 昭和の湿気をたっぷり吸った補強材に、ベテラン俳優の演技がさらに重みを加えていくスタイル。胃袋が完全にスターウォーズになってる1978年当時の視聴者が摂取するには、さすがに味が濃すぎるだろう。いま観たほうが先入観なく、あるいは懐古的に楽しめるかもしれない。

第12話「惑星ミサイルに賭けた命」

 最初の1クールは、原作1作目「さすらいのスターウルフ」をもとにした連続ストーリー。ドライすぎるぐらいドライなムードが魅力の原作とは対照的に、宇宙の男達がさらけ出す感情の重さが見どころである。
 特に、原作では一脇役でしかなかったヨローリン大尉の存在感が凄い。ケンと同じく故郷の惑星に見放され、やむなくスペースコマンドに身を寄せながらも、最後の最後で愛国心を捨てきれなかった男。12話で見せるその末路は壮絶だ。スペースコマンドとケンの戦いは13話まで続くのだが、感情的には一旦ここで極まっちゃった感すらある。

第14話「宇宙に浮ぶ黒い竜」~
第17話「いざ! 黒い星の決戦」

 ここから番組タイトルに「宇宙の勇者」がつく。あまりのトーンの変化に開幕直後から「うわっテコ入れが入った!」と驚かされる14~17話は、2つの惑星を舞台にしたハイテンポな宇宙活劇。おもしろドロイド・コンピューターロボットRM8号(通称コンパチとケン専用の宇宙戦闘機・ステリューラーが加わり、一気にスターウォーズみが増した。寡黙な悪の首領だったハルカン司令(演:山本昌平)もヴェイダー卿よろしく鉄カブトを被り、現場をすっごい楽しそうに仕切り始める。
 ベテラン組と若者組に分断されたスペースコマンドがそれぞれ窮地を脱するべく奮闘し、クライマックスで合流して大暴れ……という展開は、むしろ「キャプテン・フューチャー」を彷彿とさせる。今まではジョウに首根っこを押さえられて思うように活躍できなかった感のあるケンが、若者組のリーダーとしてのびのびと振る舞うさまが微笑ましい。1クール目で身バレしたからもう怖いものないしね!

第19話「ケンを狙う赤い流星」

 18話以降は1話完結型のエピソードが続く。C-3POっぽい純金ドロイド、でかくて毛むくじゃらの宇宙恐竜ニポポ、ジャワ風の地底居住者など「そこを盛られてもなあ……」と微妙な気持ちになるスターウォーズドーピングが連発された時期だ。
 その反面、宇宙での戦闘シーンが大幅に増量。1クール目では極力戦いを避けていたバッカスⅢ世も機動性を100倍ぐらいアップさせて、ウルフアタッカーの戦闘機をバンバン撃ち落とすようになった。序盤との温度差に風邪をひきそうになるが、見たいものをわかりやすくお出しされた喜びがある。
 そんな中で推したいのがこの19話。前半では宇宙アサシンとケンがキレッキレの操演ドッグファイトを繰り広げ、後半はバッカスⅢ世を巻き込んだ宇宙港大爆破シーンが堪能できる。「住人が全員女性の星」という昭和スパイシーな舞台設定も含め、深く考えずに楽しめる娯楽編だ。ゲストのキャスティングも良い。

第24話「大宇宙宿命の対決!」

 ヴァルナ星に舞台を移して繰り広げられる最終決戦。ハルカン司令の宮殿へ物理体当たりしてミニチュアぶつけてドッカンドッカン破壊しまくるバッカスⅢ世の雄姿に、特撮スタッフの気合を感じずにはいられない。
 ケンとハルカンの一騎打ちに流れるのはいつもの勇壮な主題歌ではなく、寂寥感あふれるED曲。シリーズ初期の硬派なアトモスフィアをつかのま蘇らせてくれる。ラストシーンでは主題歌のボレロバージョンが旅立つケンの背中を押し、駆け足ながらもビシッと幕が引かれます。

 言いそびれてたけど、「スターウルフ」はOP・EDに加えて劇伴も素晴らしいのです。(さっきの動画のBGMは別物なので忘れてください)Spotifyとかで配信して!

(いじょうです。この際、バンダイチャンネル単話配信とかでもいいんですよ?)

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