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祝福されし完成をとくと見よ

 新たなるファイレクシアにて登場した《ファイレクシアの抹消者》。
MTGアリーナのヒストリックアンソロジー3というセットに収録され、その目玉の1枚として注目を集めている。
 今回の記事はその《抹消者》についてとファイレクシア関連について少し触れ、またこれを採用したヒストリックのデッキ案についてをピックアップしてゆく。

1. 《抹消者》

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 《抹消者》はウルザズデスティニーにて登場した《ファイレクシアの抹殺者》をアップグレードしたものと言えよう。姿も良く似ているだけでなく5/5トランプル、クリーチャータイプも共通している。異なるのはマナコストが2黒と黒黒黒黒という点、そしてかつてはデメリットであったダメージ1点につきパーマネント1つ生贄要求がその発生源のコントローラーへと変化している。《ショック》で投了することは無くなり、どれだけ大型な生物が立ちはだかろうとも攻める分にはほぼブロック不可、守る時にも地上生物に睨みを利かせられると攻防に渡って頼もしい存在へと進化した。

 しかし、《抹消者》がスタンダードで使用可能であった当時はそれほど大きな活躍を見せることが無かった。黒黒黒黒というマナコストが厳しかったからか?それも一理あるが、何といっても同セット収録のあるカードによる影響が最も大きかったであろう。

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 《四肢切断》。黒が絡まないデッキでも1マナと4点ライフでタフネス5までの生物を仕留めることが出来てしまうカードである。黒の目玉カードが、もう1つの目玉である黒(以外も使える)除去に無力なのであった。

 その後スタンダード落ちを果たしてからも、モダンやレガシーで稀に採用されることはあったが、いずれにおいても《四肢切断》のみならず《剣を鋤に》《流刑への道》のような軽量除去が豊富だったり、マナコストの都合上そもそも採用できるデッキが少なかったのである。
 ちなみに、自分が嘗てモダンに注力していた頃は《抹消者》を4枚採用した黒単ミッドレンジを手に大会へ駆り出ていたものである。モダンの除去の基準の1枚である《稲妻》を何枚持たれていようともほぼ無視することが出来、当時は生物が横並びするため抹消者の強みが押し出せる環境でもあった。

2.新たなるファイレクシア関連

 話は《四肢切断》に逸れるが、このカードのフレーバーテキストによく目を通していただきたい。

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「お前はファイレクシアに仕える。お前の部品はファイレクシアの別などこかに仕えた方が良かろう。」    ー悪魔の長、アザックス=アザグ

 《悪魔の長、アザックス=アザグ》・・・聞きなれない名かもしれない。
それもそのはず、まだカード化されていないのである。《アザックス=アザグ》についてはこう書かれている。

アザックス=アザグは凄まじい身体能力と堕落しきった知性を持つデーモンであり、メフィドロスからオキシダ連峰の大きな範囲までその領土を広げている。彼は残虐さと恐怖によってその力を得ており、恐怖こそが真の力だと考えている。彼の配下たちは時には同じファイレクシア人である赤の派閥のウラブラスクの配下にまで襲いかかり、強制的に勢力に組み込む。

 悪魔の長という冠詞からも想像できるようにデーモンであり、思想もまさに悪魔的。その姿を拝める日が来ることを願うばかりである。
 この《アザックス=アザグ》は「七人の鋼の族長」と呼ばれる黒の派閥の1人である。まだカード化されていないものが多いが、2人は既にカードとして登場している。1人は《抹消者》の開発者である黒の法務官《囁く者、シェオルドレッド》。もう1人は《大霊堂の王、ゲス》。

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 《ゲス》はミラディン傷跡のカードであるが、同セットでもプレインズウォーカーがカード化されている。その中の一人がテーロス還魂記で久方ぶりに登場した《エルズペス》。彼女は《ヴェンセール》《コス》と共に訪問していた。

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 《ヴェンセール》は《カーン》を捜索しており、発見された時は既に心臓がファイレクシアに汚染されている状態であった。ちなみに他の2人は《カーン》を見捨てるか殺すべきだと説得を持ちかけたが彼は反論した。

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 《ヴェンセール》は病により余命が僅かであったため、彼の心臓を《カーン》へと移植し再生させた。己の命と引き換えに。

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亡き《ヴェンセール》の兜を手に取る《エルズペス》を描いた一枚

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解放されたお陰でウルザトロンと共にモダンを蹂躙した《カーン》。

 《エルズペス》《コス》はファイレクシアと戦い続けることを選ぶが、《シェオルドレッド》をはじめとする法務官が争っている真っただ中であった。

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 《エリシュ・ノーン》は《シェオルドレッド》《ウラブラスク》の領土を掌握しており、その時には既に《抹消者》も彼女に奪われてしまっているようだ。
 法務官達が集結している玉座の間の真下で、《エルズペス》《コス》は呪文爆弾を起動しようとしていた。《コス》は《エルズペス》を巻き添えにすまいと他の次元へ逃げるよう告げ、二人の間に壁を作った。脱出しようとしている彼女に《抹消者》が迫っていたが、《抹消者》から攻撃を受ける寸前でテーロスへとプレインズウォークした。

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 その後テーロスのストーリーにて《エルズペス》は《ヘリオッド》に殺害されてしまい、死の国に囚われてしまう。《エルズペスの悪夢》は《アショク》によって見せられた悪夢-過去の自身の記憶である。そこには《抹消者》が描かれている。

3.ヒストリック

 自分はこれまでヒストリックというフォーマットをプレイしたことがほとんどなく、せいぜいアリーナ内のFNM等の小規模イベントで僅かに触れた程度である。しかし冒頭でも触れたヒストリックアンソロジー3で《抹消者》が解禁されたことにより、ヒストリックへの関心が高まった。(加えて今のスタンダード環境に少し嫌気がさしたのも理由の一つである)

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 ヒストリックには上述の《四肢切断》等に代表されるような1マナ除去はほとんど無い。また、ヒストリックではチェックランド(M10ランド、イニストランドとも呼ばれる)があり、毎ターンアンタップインしながら太いクロックを展開するグルールアグロや、赤単に赤黒・赤白のショック&チェックランドを大量投入してまでルールスをタッチしたようなデッキも成立する。しかしそういったデッキは《抹消者》への対抗手段を持たないため、一度着地すれば盤面の優位は築けるであろう。総じて、《抹消者》はヒストリック環境への影響が大きいと言える。

 だが、ヒストリックに於いて《抹消者》が完全無欠の存在かという訳でもない。《無情な行動》等の2マナ除去で処理されることもあるが、特に注意しなければならないのが以下の2枚である。

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 これらは直接その呪文がダメージを与える訳ではなく、影響を受ける生物が自分自身へダメージを与える。《抹消者》に対しこれらを打たれると、《抹殺者》同様に自分がパーマネントを5枚生贄となってしまう。ジェスカイヨーリオン等には採用されることも多いため、そういったマッチアップではサイドアウトも要検討となる。

 さて、具体的にどういったリストで《抹消者》を運用しているのかをご紹介。まず自分が着手したのは黒単アグロ。

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 1マナ域はお馴染み《漆黒軍の騎士》に加え《戦墓のグール》《敵意ある征服者》の計10枚を採用し、2マナ域には《帆凧の掠め取り》を採っている。《騒乱の落とし子》への繋ぎとしても優秀で、更に疑似ハンデスによって対コントロール等で重宝する1枚である。3マナ以降は《抹消者》以外にも《朽ちゆくレギサウルス》《騒乱の落とし子》と太いクロックを用いて速やかにライフを削りきる。
 サイド後は相手に応じて必要な妨害手段を追加し、ミッドレンジとして立ち回るようになる。《抹消者》同様ヒストリックアンソロジー3にて《掘葬の儀式》《絶え間ない飢餓、ウラモグ》が解禁されているためマルドゥカラーのリアニメイトがアーキタイプとして成立し、使用者もたまに見かけるため墓地対策枠は2枚以上入れたい。更にヒストリックに於いても《ウィノータ》《ルーカ》は健在であるため《墓掘りの檻》が重宝する。またシミックネクサスや上述のジェスカイヨーリオンにはハンデスを追加し、赤単(ルールスタッチ含む)やグルールのようなアグロ相手にも除去を追加することとなる。

 ちなみにこのリストをメインにランクマで調整しており、トップ1200圏内が見える順位をマーク。長らくトップ1200を維持していたが、4月は逃してしまったためこのラインに乗れるのはモチベーションや自信に繋がってくる。

 《抹消者》のマナシンボルの濃さから黒単信心を考える方も多いであろう。実際にアリーナでも黒単信心の使用者は度々見かける。いずれも《ファイレクシアの闘技場》を採用した形であり、自分も当初はそれを織り込んだものとしていた。ところが思った以上に相手のキルターンが早かったり、相手が遅いならこちらから生物を展開してダメージを稼いだ後で《アスフォデルの灰色商人》でフィニッシュするくらいの勢いが必要だと判断し、《闘技場》は結果として抜けてしまった。

 黒単信心の案は幾つかあり、そのどれもが調整中であるが現状は以下のような構築案である。

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 ウモーリを採用し、上で紹介した黒単アグロに《灰色商人》を組み込んだような構成。このデッキの終着点は《灰色商人》でのフィニッシュとなるため1ターン目の生物は必ずしも打点を優先する必要は無く、後手時でも地上生物と相打ちが望める《穢れ沼の騎士》を採用。出来事によってアドバンテージも稼げるため他の接死生物より優先。
 3マナ域はシンボルの濃い《ロークスワインの元首、アヤーラ》《戦慄の影》もいるが、除去の的になりつつアド損しない《真夜中の死神》を優先。《黒槍の模範》で絆魂を付与するとドロー誘発時にライフが減らないというささやかなシナジーもある。

 もう1つご紹介。これは墓地利用を軸としている構成。

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 《縫い師への供給者》から《悪魔の職工》と繋ぐことで2ターン目に1/1より大きいサイズが見込める上に《職工》で《供給者》を生贄にすれば更に肥大化させることも可能である。潤沢に肥えた墓地は《夢の巣のルールス》のアドバンテージにもなり、3マナ以上の生物は《ルールス》経由で《死者の神のお告げ》によって拾うことが出来る。こういった墓地肥やし・墓地利用機構がかみ合えば無尽蔵のアドバンテージや巨大な《職工》によって押し切ってしまう事も出来るが、噛み合わない時は墓地に有効牌や欲しかった土地が落ちてしまうこともある。《供給者》《職工》《ルールス》というラインナップはこれに限らず他の形でも試してみる価値はありそうだ。

 6/1付で発表された禁止改訂並びに相棒のルール変更。スタンダード・ヒストリック共に《創案の火》《運命の工作員》が禁止(ヒストリックは一時停止)。相棒は3マナ払って外部から手札に加わるという挙動へ変更。
 これにより上述の《ウモーリ》構築は見直さねばならなくなったが、《ウモーリ》が活躍する機会はそう多くなかったためあまり痛手ではない。むしろそれ以上に相手の相棒が弱体化したこと、《創案の火》《工作員》の規制は喜ばしい。スタンダードよろしく《創案の火》《ルーカ》《ヨーリオン》の動きはヒストリックでも強力であったがこれが無くなり、《ウィノータ》から《工作員》が着地して《抹消者》を奪われる心配も無くなった。
 今後は更に《抹消者》が暴れられそうだと思うが、どのようなデッキが登場し、流行するかも気にしなければならない。《アングラスの匪賊》有する《ウィノータ》は健在であろうし、規制が関係なかった緑系統のランプデッキから《ウラモグ》が早期着地してくるかもしれない。カードが追加されたばかりでもあるため、今後も引き続きヒストリックを研究してゆきたい次第である。

それでは皆さんにも、"祝福されし完成"があらんことを。


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