映画を観た記録63 2024年3月10日    パメラ・グリーン『映画はアリスから始まった』

Amazon Prime Videoでパメラ・グリーン『映画はアリスから始まった』を観る。
え?映画はリュミエールやメリエス、エジソンから始まったんじゃないの?と大多数の人はそう思うはず。僕もリュミエールが最初の映画撮影機を作り、『工場の入口』を1895年に世界最初の上映が行われ、メリエスの『月世界旅行』が1902年に公開された最初の劇映画と頭にインプットされていた。だが、そうではなく、失われたリンクのように、アリス・ギー・ブラシェという女性が世界で最初の劇映画『キャベツ畑の妖精』を皮切りに彼女は20年に及ぶその映画キャリアで1000本もの映画を製作していたのである。彼女は、DWグリフィスより前にクローズ・アップやカットバックを行い、20世紀の入るか入らないかの頃にフィルムに着色したり、トーキー映画も作っている。トーキーは、最初に録音しておき、それに俳優が声を合わせるという方法なのだが、トーキーであることは間違いない。なぜ、このような偉大な人物が映画史から忘れ去られたのか。
この映画ではそれは「女性差別」ではないか、と見ている。私もそう見る。フランス社会は、男尊女卑が強い社会であり、そういう背景もある。
とはいえ、エイゼンシュタインやヒッチコックが書いた著書にはアリス・ギーの名前がふれられている。
しかし、残念なのは、シネマテーク・フランセーズ創始者のアンリ・ラングロワはアリス・ギー本人には感謝していると伝え、彼が館長だったころのシネマテーク・フランセーズではアリスの資料が壁のいたるところに貼られていたのだが、彼女の死後、出版されて回想録には「彼女が本当に演出、脚本したか疑わしい。」と発言していたのだ。私はとてもがっかりになりました。
それにしても偉大なのはスコセッシ。彼はアリス・ギーの才能を認め、詩的な作品であるというようなことを述べている。スコセッシは現代の映画界の「人徳者」であると言っても過言ではない。ハンガリーの鬼才・タル・べーラもスコセッシはほめたたえている。
アリス・ギーは、実在の人物であり、映画界に存在していた事実として、彼女はチャップリンの『キッド』の撮影現場に参加していた写真も残されている。
そして、アリス・ギーが雇った助監督にはジャン・ピエール・メルヴィルもいたのだ。すごくないか、これ。
問題は、ゴーモン社にあるのだ。当初、アリス・ギーの同僚が晩年、社史を出版したところ、ところどころ間違いがあり、アリスは訂正して訂正版が出るのを楽しみにしていたのだが、それは果たされなかった。ゴーモン社の中では彼女の扱いが不当に小さくされている。現実は、アリス・ギーがゴーモン社の初期の映画を支えたのだ。というか、彼女無くして、現在のゴーモン社はないといってよい。
サドゥールはアリスの訂正に答え、映画史の本は書き直したということだ。
ちなみに本作品に蓮實重彦の名前は出ません。(笑)
ナレーションはジョディ・フォスター。
プロデューサーの1人にロバート・レッドフォードの名前もクレジットされている。
彼女が1896年、最初に撮影した『キャベツ畑の妖精』は、ヴィットリオ・デ・シーカの『ミラノの奇蹟』の冒頭のキャベツ畑に赤子が捨てられ、老母が救う、という形で物まねられているのではないでしょうか。
21世紀まで生きていてよかった!映画史の新たな発見に遭遇できたことに喜びしかない。
本作品でアリス・ギーが製作した映画が流れるので、その素晴らしさに感銘していただきたい。ほぼ、現代映画のすべてが含まれているのだ。『キリストの生涯』ではなんとキリストが天にのぼっていくシーンまであるのだ。特撮まで行っていたのだ。
偉大過ぎる。
アリス・ギーはアメリカへわたり、ハリウッドが誕生する前に映画スタジオを作り、精力的に活躍した。彼女、曰く、アメリカでは出資者はいたが、フランスではいなかったということだ。やはり、過去のフランス社会は男尊女卑が強い社会であることが発言の一端から窺がえる。フランス男性は、意外にも、おしゃれは気にしないのが男だ、というマッチョな意識もあるようだ。過去のフランス映画を観ると、男臭い。メルヴィルの映画なんか男臭すぎる。だからといって悪い作品ではない。しかし、ジャック・タチは男臭くなく、女性を優位にしているように見える。『プレイタイム』の英国人女性観光客の演出に窺える。シャブロルの『いとこ同士』も女性をモノのように見ているフランス男性の意識が見えてきてうんざりすることもある。それを覆したのがロメールである。女性優位の映画である。

世界で最初の女性映画監督アリス・ギーの足跡を追ったドキュメンタリーに蓮實重彦の名前がでてこないことで蓮實のレベルがわかりました。全く世界では相手にされていないようだ。蓮實は、フランスと関りがあるのに、フランスの女性監督なのに、名前すら出てこない。映画史に関わるから蓮實は無関係ではない。彼は常に「シネマの記憶」とか言って映画史の参照を求めている人でもある。

アリス・ギーは、リュミエールの『工場の入口』上映の1895年、レオン・ゴーモンの秘書として、共に鑑賞し、物語にすればいいはず、と思い付き、1896年60ミリカメラで『キャベツ畑の妖精』を作っている。アリス・ギーは、カメラマンと共に世界各地で撮影している。当時、女性が1人で旅をするのは危険なのであるが、カメラマンがいることで安全は確保されていてのである。

世界初の女性監督・アリス・ギーの作品の中にはオール・キャスト黒人という作品まであるのだ!もともとは白黒混合でやるつもりが白人俳優たちが嫌がり、その結果、オールキャスト黒人という映画になったのである。

アリス・ギーが建てたスタジオには彼女の標語が掲げられている。
Be Natural である。俳優に自然な演技を求めていたのだ。それも当時では斬新である。

本作品は忘れられた世界で最初の女性映画監督アリス・ギーの足跡をたどる優秀な作品である。

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