映画を観た記録57 2024年3月2日    チャールズ・チャップリン『偽牧師』

Amazon Prime Videoでチャールズ・チャップリン『偽牧師』を観る。
本作ではチャップリンは賞金がかかった脱獄囚。その彼は、泳ぎに来ていた牧師の服を着て、偽牧師になりすまし、一大騒動を起こすという映画である。
偽牧師のチャップリンがある家に呼ばれて、ケーキを作るのを手伝う。なんと、ケーキは、その家の主人のハットでかたどっていたのである。落ちをいってはいけないのだが…
この家でチャップリンはこの家の子どもに散々、弄ばれます。子どもはチャップリンを殴りまくります。おまけに、金魚の入った水槽に入っている水をコップに移し替えて、チャップリンにかけます。水槽そのものではなく、コップに移し替えるというところに自制を感じた。あまりにもしつこくまとわりつくこどもにチャップリンは足蹴にするのだが、チャップリンは本気でけっていないことがわかる。蹴られた子供が笑顔。二度蹴られているが、二度とも笑顔。とても素晴らしい演出である。今どき、リアル、リアルとうるさい映画からは信じられない演出である。牧歌的な演出、牧歌的な映画。それだけで「知性」を感じる。
逆に言うと今どきのリアル、リアルの映画は、ある意味、俳優に過重な負担を掛けるという意味で人権侵害にも等しい。映画監督ごときのためにそこまでやるのか、と私は感じる。マイケル・チミノの『ディア・ハンター』では、ベトコンに捕まったロバート・デ・ニーロ演じるアメリカ兵たちが水攻めに遭う。確かに迫真の演出であるのだが、私は観ていて、辛くなってきた。もう、俳優を虐待する演出はやめようといいたい。
ちなみにこの映画のエンド・クレジットに人物名と俳優名が紹介されるのだが、中には1人3役くらいやっている俳優もいる。全く誰か気付かなかった。そして、Little boy's mother  の俳優名は?である。クレジットで?で紹介される俳優を初めて観た。素晴らしい、この牧歌的な態度。そう考えると厳しい演出で知られる映画監督が嫌な奴に見えてきた。
チャップリンの映画『偽牧師』を観て、リアルに演出したりすることがさほど重要でないことがわかった。ということでリアルさにこだわった『福田村事件』は駄作以外何物でもない。社会的問題を扱った映画はパレスチナの映画監督サメフ・ソアビが演出すると、我々、日本よりハードな環境にいるのにもかかわらず、なぜか、余裕の喜劇的風刺になる。『テルアビブ・オン・ファイヤー』のパレスチナとイスラエルの問題への迫り方が洒脱で大人を感じる。
チャップリンの映画の話に戻る。そのこどもは、自分の出番がないときは、画面後ろで、階段で遊んでいる。子どもを放っておくわけにはいかないのかな。
とても優しさにあふれた映画。もしかしたら、最も優しい映画ナンバーワンはこの映画かもしれない。

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