今日のグエンくん

今日もグエンくんが来てくれた。

私はぺったんこになって寝ていたし、昨日の寝癖がまだついたままだし、そのうえ風呂にも入っていない。一瞬居留守を使おうかと考えたが、最近の私は、不在票が入っていても、電話をかけずにぐずぐずしてしまうヘキ(癖)があるので、意を決して玄関を開けた。

もはや私の髪の毛に、スーパーサイヤ人のピンとした束感は残っていない。ボブ・マーレーのようなもふもふしたドレッドヘアーで荷物を受け取り、押印した。

はっきりとは分からないけど、他の配達員さんの時は、二回ハンコを押すような気がする。けれど、グエンくんが荷物を持ってきてくれるときはいつも押印は一回しかしない。

大丈夫なんだろうか、グエンくん。先輩たちに仕事のやりかたとか、教えてもらってないんじゃないだろうか……?心配だ。

しかしもっと心配なのは、私のほうだ。

私は中年にさしかかり、体臭もきついし、ドレッドだし、風呂入ってないし、相変わらずパジャマだし、歯も磨いてないどころか顔すら洗っていない。異国の地に来て、なれない言語を駆使し、それでなくてもストレスを沢山消化しつつ働くグエンくんが感じなくてもいいストレスを、私は彼に与えていると思う。反省する。

反省しつつ、朝ごはんにブラックサンダーなどをボリボリと食べていたところ、またもやピンポンが鳴る。

うちにお客様などこない。来てくれるのは、そう、グエンくん。彼のほかいない。

荷物を持ってきてくれるのは本日2回目のグエンくんは、
「ありがとございま……ここ、サイン、ま……」
と、相変わらずおだやかにはにかみつつ、すこし日本語の語彙が増えていた。

そしてハンコを押す場所は、相変わらず一箇所だけだった。



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