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キャンプとナイフ 初めての救急車

ども、デロです。

突然ですが、最近強く思うことがあります。

こうやっていつもキャンプ出来るのは当たり前じゃないということ。

健康で、仕事があり、情報があり、家族がいて、仲間がいる。

そう、情けない話だけど、僕は先日キャンプ場で、負傷してしまった。

ナイフで指をやってしまったのだ。ざっくりと。。

ご存知の通り、薪の束に巻きついた針金がとてもきつく縛られている事がある。たいていは、少し上から押したり叩いたり、引っ張ったりしたら、取り出せるのだけど、この時はぎゅうぎゅうに縛られてて、どんなに頑張っても取り出せなかった。

 


ナイフで薪を削いで少し痩せさせると、緩んで取り出しやすいかな、くらいに思い、何の疑いもなく、針金付近の薪をナイフでちょっとずつ削っている時、事は起きてしまった。

 

少しずつ針金の縛りが緩んでいって、もうちょっとで、薪が取り出せる、というところで、油断というのか、慌ててしまった。

上から下に、ちょうど縦方向に針金付近の薪を削っていた時、削いでいたナイフの手元が、ガクッと薪から滑り、その勢い余って、下で薪の束を支えていた左手の親指を、ザクッとやってしまったのだ。

親指のやや内側の柔らかい部分が、一瞬で鋭く裂けた。

一瞬の事で、パックリ切れた親指が信じられなかったが、すぐに血が溢れ出て、見るからに深いとわかった。

えぐれたように、親指の中の肉が見える。そして、血がどんどん滲み出てくる。

さっきまでの、牧歌的なソロキャンプ の状況が一変した。

今自分のいる環境、えぐれた傷の深さ、そして、野外での負傷という現実が、急に降りかかった事に、狼狽し動転した。

何故、狼狽したか。

・1人単独で山奥にキャンプに来ている事
・応急処置できるものを全く持っていない事
・辺りは真っ暗な事
・傷が深いと予想される事
(神経や腱までいってるのでないかという不安)
・山での傷は破傷風などの感染症リスクがある事 (更にこのナイフで生の鶏肉をカットしていた)

これらが整理されないまま、頭をぐるぐる回り、今まで味わった事のないような、恐怖的鼓動を覚えた。

さっきまで、焚き火を楽しんでいたのが嘘のように、あたりを包む夜が、不安を煽る。

傷の近くを強く圧迫(後から知ったのだが圧迫止血というらしい)しながら、不自然な格好で、管理棟までの急な坂道を全力で走った。本当に全力で。

息を切らしながら、はー、はー、すみません!!

(ジョギングでも少しやっていてよかった。非常時、体力は大事だ)

近くに病院ありますか!??

手を切ってしまって!

声がうわずるのが分かる。

30前後と思しき若めの管理人さんが、ゆっくり外に出てきた。

少しぼんやりした声で、近くと言っても、この辺はぁ………

(知っての通りこの辺は山しかないですよ)

と言いたかったに違いない。

しかし、僕の血の溢れる傷の深さを見て、
途端に慌てるのが分かった。

こ、これは、救急車呼んだ方がいいです!!声のトーンが変わった。

そう、僕も本当はそれが言いたかった。

すみません、お願いします!!

すぐに消毒と包帯を出してくれ、自らぐるぐる巻きに縛る。

縛り過ぎも良くないと、後から知るのだが…

とりあえず、止血だ!!とずっと頭で誰かが叫んでいる

ちょっと、撤収してくるんで、また戻ります!

相変わらず、心臓はドキドキしている。
僕は血圧が高い方ではないが、あの時測ったらかなりの数値だったに違いない。

怪我の程度が分かった今から考えると、
時間的には、病院で診察の後、また戻って撤収ということも出来たかもしれない。

あるいは、ひょっとして、後日着払いで送ってもらうということも、お願い出来たかもしれない。

でも、自ら撤収して、持ち帰った方がいいと、その時、僕は判断した。

結果的には良かったのだけど…

これがもし万が一、後遺症などを生むもっと大変な怪我だったら、このように無理して撤収などした事を、ずっと後悔したかもしれない。

よく言われる通り、
窮地になるほど、その時の判断がその後の結果を大きく変える。

生きるとは……判断だから。

いい結果を得るには、
積み重ねて、精度を上げるしか術はない。

でも、一人暗闇で血を止めながらの撤収など、二度と体験したくない。もう泣きそうだ。

また全力で走って、我がエリアの方に戻り、

さっきまで、ゆっくり眺めていた、焚き火をやみくもに消し(幸い殆ど消えかかっていた)

やりかけていた、
全てのアクティブを停止した。

そして、救急車の到着までに、
全てを終えなければならない。
僕の下した判断、自分で選んだミッションだ

包帯をゆっくり固定する精神的時間的余裕はなく、ただきつく巻いただけの包帯は時折勝手にほどけてくる。

何度もそれを押さえながら、かつてない勢いで、撤収し、ザックにみんな押し込んだ。

殆ど片手だし、痛いし見にくいし、焦るし、傷が気になるし、この撤収が本当に辛かった。途中で何度かやめたくなった。

Sending out an SOS…

家族がいたら、家族にお願いしただろう。でも、それは今、叶わない。

キャンプする事のわくわくの裏に実は常にある、色んなリスクを点検する必要があると思う。

リスクとは、天変地異や予測不能の事態の事ではない。それは起きてからの危機管理の問題であり、リスクではない。

リスクとは予測し得るものの事だ。

なぜ僕はグローブをしてナイフを扱わなかったか。慢心以外の何ものでも無い。

今回の件は起こるべくして起こった。
予測出来得た事態であり、慢心や油断、慣れを象徴する出来事となった。

反省は、家に着いてやろう。

大方、終わったが
最後の最後、マットの袋が見つからない。

あたりは暗いが、さっきやって来た若い団体が、キャンプファイヤーを囲んでいる。歓声が遠い耳鳴りの様にこちらまで届く。

そして、 とうとう、救急車のサイレンが遠く方からから聞こえ始めた。

くっ。

たかが、袋、放っていくか!

と、諦めたその直後、見つかった。

全く高価なものではなかったけれど、
色んな思いを交錯させながら、やっとこぎつけた、大事な東京でのソロキャンプギアだ。
いくら安物でも簡単に見過ごすのは嫌だった

もちろん、一刻も早く、管理棟付近にまた戻り、静かに救急車を待ちたかったが、小さな消耗品も、酒も、生もの以外の食材も全て、ザックに押し込んで持ち帰ろうと思った。理由は、そうすべきだとその時思ったから。
ただの感情であり、判断もくそもなかった。

だんだんと、サイレンの音が大きくなり、こちらに徐々に近づいて来るのが分かる。

よしっ!と、僕は公称80 ℓのザックを背負い、今度は確かめるようにゆっくりと、
管理棟までの坂道に近づいて行った。

楽しげな、キャンプ場に響きわたる、
異様なサイレン音。

救急車とは坂道で鉢合わせる。

僕は大きく手を振った。まるで、山でヘリに助けを呼ぶ人みたいに。

自分の顔を指差し、自分だ、というように救急車にジェスチャーする。

どうやら、事象をかんりにんさんから聞き、
サイトまで、来ようとされていたようだった

あたりはソロやグルキャンの客、比較的若い人たちが多かったが、それほどの客数でもない。

彼らは、時折不思議そうにこちらを見ていた(と思う)。

そう、1人のおっさんがはしゃいで怪我をし、救急車を呼ぶ姿を。

おっさんは、プラス思考だけが取り柄だから、、
とりあえず。

笑われようとも、キャンプを愛す皆んなに
良いキャンプを!と叫びたかった。

管理人さんに、一連の礼を言い、尋ねられた連絡先などを告げ、僕は静かに救急車に乗った。

感覚に痺れが出始めた傷口が、
ずっと気になって仕方なかった

救急車に乗り込むと、すぐ始まったのは、
患部のチェックと止血、そしてバイタル。

救急車の壁際に座り、色々と聴取を受ける。
こうなった事の次第を丁寧に聞かれた。

何でどうやって切ったのか?
いつ此処へ来たのか?
酒はどれくらい飲んだか?
気分は悪くないか?
何故ひとりなのか?w

程なくすると、受け入れてくれる病院が、見つかったとの事で、救急車は動き出した。

しかし、病院に行ってみて先生の判断で、処置不可能となった場合は、違うもう少し大きな病院を探す事になると、但し書きが付いた

奥多摩の山奥から、青梅市まで、サイレンを鳴らしながら、40分以上は走っただろう

ときに、日本の医療費は40兆円を超える。
超高齢化社会に突入し国は医療費の圧縮に躍起だ。予防や未病が叫ばれる時代、宅内での転倒やアウトドア領域での、所謂危険予知についても、国民がより認識しやすい構造的な制度と仕組み作りが待たれる。

救急車で運ばれている僕が言うには滑稽過ぎる責任転嫁をひらめきながら、気づくと救急車は病院の前に留まっていた。

救急車から降りると、80ℓのザックは苦笑と共に隊員の方が背負ってくれた。

奥多摩地区は、雲取山や御嶽山など、登山者が非常に多く、山で怪我する人が運ばれるケースもあるらしい。この手のザックも時々背負うことがあるが、それでもちょっと大き過ぎるとの事だった。

入室後すぐ隊員の方が、大方を医師に説明され、僕は患部を見せた。

結果は処置可能との事だった。ひとまず、良かった。

かなり痛むだろうから… と、麻酔をしてから水道水で、きれいに手を洗う。

麻酔は親指付け根付近に注射を打たれた。先日の腰への注射といい、この手といい、腕以外の注射は、身構えてしまう。刺される瞬間は、うっと、少し声が出てしまう程だ。もちろん、痛い。

傷は2センチくらい
深さは思ったより深いなあ・・

先生は言った。

30半ばくらいだろうか。銀縁眼鏡で、オールバック、優しくしっかりした敬語を喋り、処置は淡々と無駄なく行う印象だ。

僕の素人の目視では深さ3ミリ〜4ミリくらいかと思ったが、さて、カルテにはどう書かれていたのか。

1人でキャンプしてたんですか?

はい、(慌てながら)は、流行ってるんですよ!

え、流行ってるんですか…

きっと頭がおかしいやつと思われたに違いない

もう少し説明したかったが、安静な救急病院で、息巻いてソロキャンプを語るのには気が引けた。説明した後の虚しさが簡単に想像出来た。

そして、さらに麻酔を塗り込み、縫合が始まる。

10分程度で、あっけなく終わった。
5針の縫合。黒い糸がイトミミズの様に親指に這っていた。

ひとまず、深く安堵した。

そして、やはり野外での負傷は、感染リスクがある為、破傷風の予防接種を受けようという事になり、体温を測る事になったが、熱が7度6分あったため、後日受けて下さいという事になった。

発熱は喉の痛みと興奮状態によるものだろうと思った。

最後に抗生物質が処方され、最低4日間の禁酒を命ぜられショックに追い打ちがかかる。

ため息の中、受付でタクシーを呼んでもらい、その病院の最寄りの駅まで行き、電車で帰宅した。何ともザックが重かった。

 

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↑膨らんでいるのは腫れではなく、 圧迫止血のためのガーゼで膨らんでいる。
翌朝このガーゼを必ず取るように医師に何度も言われた。 止血のために圧迫し過ぎて、鬱血し壊死する可能性がある為だ。

救急車の中でも、圧迫続けたが、20分置きくらいに、圧迫を緩めるよう指示された。
やはり、その先へ血が通わない事を避けるためのようだ。

救急も診察もとても丁寧だった。大げさだけど、日本の誇るべき医療だと思った。感謝したい。

帰宅後、安堵の後、どっと疲れがやってきた。やれやれである。この2時間程の間に起きた出来事を頭で反芻した。基本、何でも前向きに考えるたちだが、この時は幾ばくかへこんだ。
さっきまでキャンプ場にいたのが、今何故か自宅にいるという圧倒的現実。

この怪我をする直前まで、インスタで、新潟の黒スナさんと、乙女のチャットの如く、コメントのやりとりをしていた。いや、はしゃいで僕が連発して黒スナさんを困らせていたと言った方が正しい。

野営最高!みたいな無邪気な?やりとりだ。

直前までやりとりさせて頂いていたご縁だと、またしても迷惑な解釈をし、この事の顛末を整理されない一方通行な長文で、黒スナさんにラインしてしまった。

黒スナさんからは、

大事に至らなかった事が本当に良かった事、刃物との付き合い方について考える契機になったと前向きな捉え方も出来るのではないか

という趣旨の丁寧な返信を頂き、大変有難くも何とか少しずつ気持ちは上向いていった。

黒スナさん、突然驚かせてすみませんでしたm(_ _)m
色々受け止めていだだき感謝です(^^)

そして、明けて月曜日、指示通り、自宅近くの病院に行きその後の処置を受けた。

例の予防接種を打ち、更に抗生物質をもらい、一日置きに患部を見せに行き、お陰様で今は抜糸し順調な予後となっている。

〜明日のために…My安全リマインダー〜

野外で遊ぶのに1人であろうと家族であろうと
油断は禁物。装備は、安全から始めなければならない。
慣れてきた頃が一番怖いと心得よ。キャンプを始めた頃ナイフを持つなど考えもしなかった筈だ。色々経験するにつれ、様々な物事への心理的障壁が下がる。安全あっての挑戦である。アウトドアにおいてはトライ&エラーはありえない。セイフティー&トライだ。年々歳をとる。体力も昔と同じではない。
今回酔っていたわけではないが、酒は入っていた。長くキャンプをしたければ飲み過ぎは悪だと心得よ。また、疲れや寝不足に注意だ。判断や思考のピンボケは思わぬ怪我に繋がる。
ファーストエイド はもちろんの事、1人で夜中腹痛になったら?熱が出たら?管理棟に常駐がなかったら? 鎮痛を始めとした薬も常備せよ。ファミ、父子、ソロ関係なく。

今回は、肉体的にも精神的にも財布的にも痛いケースになってしまった。最近は斧や鉈、ナイフでの負傷が増えているらしい。
安全への認識が希薄なまま扱うととんでもなく危険な道具なんだという事を改めて認識したい。そして、これからも、今回の事をレアケースと思う事なき様、自戒の念を込め記事として留めたい。

 

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