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猫日記ーお隣の部屋をのぞこうとする純愛、偏愛な猫ー

好きな映画に、パトリス・ルコント監督の「仕立て屋の恋」がある。
純愛と偏愛は紙一重だと思うのだけど、この作品の主人公も見ようによっては、少し、変質者気質が入っている。

「仕立て屋の恋」。
前科を持つ仕立て屋の男イール。犯した罪をつぐなうかのように、自分の気配を消すかのように静かな日々を送っている。
とある殺人事件の容疑者として浮かび上がったイールだが、彼は犯人ではなく目撃者だった。孤独に暮らすイールは、偶然、向かいのアパートに住む女、アリスを覗き見ているうちに彼女に恋をする。そしてある日、犯行の現場を見てしまうのだ。監督は「髪結いの亭主 」のパトリス・ルコント、音楽は「ピアノ・レッスン」のマイケル・ナイマン。
このあらすじ、スタッフ陣を聞いているだけで既に泣けてくる(のは私だけ?)

好きなのが、向かいのアパートに住む彼女を、部屋のカーテン越しにそっと覗くイールの姿。純粋な恋心ゆえ、の行動なのだが、第三者からすると、怪しく、限りなく危険なおじさん以外の何物でもない。

物語のラストは切ない。
恋した相手に裏切られ、殺人犯に仕立てられてしまう主人公。
だけど、彼女のことはこれっぽっちも悪く言わない。
殺人の隠蔽に関与した彼女をかばおうとして、この主人公が口にするセリフもシビレるのだ。

これっぽっちも君を恨んでいないよ。
ただ、死にたいほど切ないだけだ。

    ☆☆☆

で、我が家の猫、みるく(4歳、男の子、繊細にして大胆、みるく王国のドン・コルレオーネ)。
彼はベランダで虫をつかまえたり、風の音に耳を澄ましたり、四季の移ろいを肌で感じるのが好きなのだけど、私に抱っこされながら、マンションの他の部屋を見下ろしたり、覗き見するのが好きなのだ。

またある時は、可愛いそのお尻を私に向けて、塀の上にデンと寝そべり、他人の家のベランダや窓をそっと覗きこむ姿が誰かに似ている。
そう思ってハッとした。

そうだ。
「仕立て屋の恋」の男、イールだ。

「みるくちゃん、あなたは猫だから可愛いって許されているけれど、もし、あなたが人間のおじさんだったら、変質者だからね。『変なおじさん』って通報されちゃうんだよ」

頭がいい猫なので、私の言ってる言葉は彼に通じているものと思う。

ところで、我が家の猫、みるくにも、純愛と偏愛が宿っているのだろうか?

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