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日本クスクス党 第二話

ザザッ、、、!

砂ぼこりを巻き上げ、1ミリでも遠くへと伸ばされた足の跡を、スタッフが計測する。

その場にいるスタッフも選手も、テレビで観戦する数万人も、そして誰よりも選手本人が、数時間にも感じられる時と時の間を「これを“時間”と呼ぶのだな・・・」などと他愛もないことを感じながら固唾を飲んで見守る。

ライバル選手達には“非情”ともいえるその数字が電光掲示板に表示されたとき、周囲から嗚咽にも似た感情の高ぶりと共に、爆発的な喝さいが場内を埋め尽くした。

ここ、新国立競技場でのオリンピックテスト大会にて、「アジア人には無理」とされてきた記録が、ついに更新された。

これを皮切りに、水泳で、球技で、ひいては柔道などの格闘技でもオリンピック前哨戦での日本選手の記録更新ラッシュが怒涛のように続く。その記録的な活躍に、ウイルス禍で及び腰であったオリンピック開催への機運が急速に向上した。

「日本クスクス党」の掲げる“主食を米からクスクスに!”は、学校給食にはじまり、サラリーマンの昼食、飛行機の機内食、そしてオリンピック出場候補選手の食事にも採用された結果、これを主食とする北アフリカの人々のフィジカル(走力・跳躍力・俊敏性etc)に肉薄し、そして超越。「これなら勝てる!」と自信を持つ選手団。世論も後押しする。

毎日、こと細かに感染者の増減を伝えていたテレビ局もこの頃には、

<新規感染者数:だいたい1,000人くらい。あしたもきをつけてね!>

と、お気楽なノリで報道。というのも、番組制作者も選手と同様に、クスクスを食べたがゆえにアフリカのおおらかなノリとなり、細かなことを気にしなくなった。

自粛化でストレスを溜めた国民も、クスクス食の効果でそろって能天気となり、それを吐き出す手段であった「酒」に頼らずとも、心の平穏を保つことができた。飲食店での酒類の提供や時短要請も、もはや不要となり、地べたに座り込んでの「路上飲み」も無くなった。

時を同じくして普及したワクチンの効果もあり、ウィルス感染者数は急速に減少した。

・ウィルスの封じ込め

・日本選手の活躍

二つの条件が相まって、夏のオリンピックは開催の運びとなった。

~つづく~

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