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日本クスクス党 第三話

朝の食卓。いつものようにお椀をかき混ぜる父。

父「母さん、やはり納豆はクスクスにはあわないなぁ。」

母「あら、仕方ないじゃない。みんなそうしてるんだから。」

父「まったく・・・。」ひとりごとのように呟きながら、憤りを紛らわすかのようにテレビをつけ、朝のニュースを流す。

“昨夜、屋根裏で米を栽培していた男が逮捕されました。取り調べによると、「自分で食べるために作った」と供述していますが、警察は、販売目的の可能性もあると見て、捜査を続けています。”

ニュースを聞いて、この状況を受け入れざるを得ないと納得した夫婦。

母「困ったわね。そうだ!つぎは納豆の代わりに、ひよこ豆にしてみようかしら?」

父「それだ!母さん、明日は期待してるよ。」

日本クスクス党が政権を奪取して以降、米は糖尿を誘発する危険食物とされて市場に出回らなくなり、栽培さえも厳罰とされた。全国の水田はすべてがクスクス栽培へとシフトし、慣れない作業に農家の負担は増加する一方。

かたや、順応性の高い若者はクスクスに馴染み、サラダやスープに、そしてアクアパッツァなどのハレの日の料理にもとりいれた。カロリーの低いクスクスは、ダイエットにもぴったりとされ、水が砂に染み入るように若年層から普及してゆく。

「行ってきまーす!」父母の会話を気にもせず、長女は学校へと出かける。長い自粛生活から解き放たれたためか、より一層明るい表情を見せる娘。

ワクチンの普及と、クスクス食によるアフリカ的な陽気さで、この国は希望を取り戻す。先のオリンピックは、感染者の蔓延をギリギリのタイミングでのワクチン接種で切り抜け、かつ、身体能力が飛躍的に向上した日本選手の記録的な活躍により、およそ国内においては熱狂的な盛り上がりを見せた。

これ以上ないタイミングで国民の支持を得たクスクス党は次の一手を打つ。

そう。リモート環境下で明らかになった日本の働き方の改革。もはや出社の意味をなくしたホワイトカラーと、電車・バスなどの交通インフラ。そして彼らの憩いの場であった飲食業が淘汰される。

その行動変様により、彼らが集っていた社屋・テナント・遊戯施設等は解体され、山の手線内がおよそ北アフリカの大地のように広大な更地となった。その跡地に広大なサバンナを形成し、“オアシス”と呼ばれる水源地にクスクス党のアジトを築く。人々のファッションは“アフリカン・クール”と呼ばれるヒョウなどの野生動物の模様を取り入れたラフなアイテムが街に溢れた。

国中が明るく、和やかで、快活とした一方で、負の側面も見られる。それまで、独自の高い技術力と勤勉さで、輸出国としてGDP3位につけていた日本は、アフリカン特有の「だいたいで、いい感じで」のノリから、商品の製造ミスや、出荷・入金の遅れなど、緻密な作業を面倒がる体質が露呈し始めた。そう、日本はモノづくりやおもてなしの精神を失いかけた。これこそがクスクス党の狙いであった。

~つづく~




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