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【#ちいハコ】Act.1 ep.8 出会いは3年前に遡る

Act.1
“He is at the mercy of fate.”
episode 8

 真藤さん…。また、会えるかなぁ…

 「大学4年間の研究の集大成を、お前たちも見ておけ。学問を究めるとは何なのか、その目で見て、その心で感じてこい。」


 あれは大学2年の秋だったな。復学してまもなく、教授に連れられて学生シンポジウムに行ったとき…
 今思うと、あの場所にいたんだな、今僕が勤めている会社の理事の人。
 業界のトップランナーの人たちが大勢いる場所で、なんだか、勝手に背筋が伸びてしまう、そんな時間だったなぁ。
 後から知ったけど、真藤財閥もスポンサーになってたんだっけ。

 歳の近い人が、あんな大勢の前で堂々と自分の研究を発表してるのを見て、僕の中で学問に対する熱が高まったんだよな。

 隣に座ってたゼミ生がなんか嫌味っぽく、アノ人について言ってたのが、気に障った記憶もある。たしか…


 「あれがどれだけすげぇプレゼンだとしてもよぉ、金持ちの恵まれたお嬢さんが言ってたら、キレイごとにしか聞こえないよなぁ」

 とか言ってたかな。

 「お前もそう思わねぇか、無月?」
 「…」
 「…めっちゃちゃんと聞いてんじゃん。意識高いねぇ。」

 「…ん?あぁごめん。なんか言ってた?」

 「別に。なんでもねぇよ。しっかしお前が留年するなんてなぁ。俺みたいなチャランポランがするならまだしも、お前のような意識高い系のヤツが、また2年生をするなんてな。お前も案外、抜けてるんだな。」
 「まぁ、色々あってね…」
 「…親父のことか?」

 「おい、そこ!しっかり研究発表聞けよ」

 「へいへい。…ま、色々あるんだな」
 「…うん。」


 あのとき出てたプレゼンターが真藤、幸奈さんだった。
 それが、僕と真藤さんの最初の出会い。あれからアノ人の研究に興味を持ち始めて、論文を読み漁ったっけ…

 その2年後、今からだと1年前だな。


 まさか、またお目にかかれるとは思ってなかったな。
 あのとき声かけとけば良かった。後悔したなぁ。他人の空似だとしたら、恥ずかしかっただろうけど。そんなこと気にせず、声かけるべきだったな。

 また、会えるといいな…

 あのときあなたのプレゼンを見たのがきっかけで、自分のしたいことが見つかって。
 そして、今の会社に出会って。

 …そうだったな、そうそう。

 僕は望んだ場所に来れてるんだ。

 もっと胸を張ろう。

 やっと父親から解放されて、僕が思い描く人生を、生きられるようになったんだ。

 母さんや兄さんには悪いけど、アノ人とは金輪際、会いたくない。

 僕は僕の人生を生きるので精一杯だから。

 財閥の人ってことは、幸奈さんの親戚かな。後で聞いてみるか。話せる時間ぐらいあるだろうし。


 なんだかんだで聞くタイミング見つけ損なったな。なんかいつも忙しそうにしてるし。

 あ、でも。今日は帰り際、僕に話しかけてくれたな。合同プロジェクトのコンペのことと、それに向けたいつものミーティングに関係する話で……


 「今回のミーティングはここまでということで。あまり長引くと兄…、社長に小言を言われますからね。…では、これでお開きということで。お疲れ様でした。」
 「お疲れ様です!」「お疲れ様でしたー」


 「お疲れ様です。」
 「あーちょっと無月くん、いいかな。時間大丈夫?」
 「えぇ大丈夫ですけど。」

 「ミーティングでのキミの積極的な姿勢には、いつも感心しているよ。まだ1年目だよな?すごいよ。」
 「いえ。そんな。先輩方の足を引っ張らないように、毎日が修行って感じです。」
 「そうかぁ…。いやぁ、その熱意にな、俺もいい刺激をもらっているよ。まるでアイツみたいだ…。」
 「?(アイツ?)」
 「あぁすまん。…今日キミに話したかったのは、このチームのサブリーダーをしてほしいって話だ。」
 「僕がサブリーダー、ですか」
 「あぁ。とは言っても、あまり気負わなくていい。いつものような仕事っぷりを発揮してくれれば、それで大丈夫だから。」
 「…。分かりました。サブリーダー、任せてください。」
 「ありがとう。じゃ、任せたよ。…って言っておきながらこの話するのはあれだけど、」
 「?」
 「まぁ、なんだ。…あんまり無理はするなよ。まだ1年目だ、覚えることとかいっぱいで大変だろ?」
 「まぁ…はい。」
 「適度に肩の力抜いていかないと、ぶっ倒れるぞ。生き急いでちゃ、幸せをつかみ損ねちまうぞ。気をつけろ〜よ!…なんてな。おつかれさん。また次のミーティングで会おう。」

 と言って、真藤広樹さんはその場を後にした。


 無理はするな…か。

 そんなこと初めて言われたな。

 無理、はしてないんだけどな。真藤さんはなんだか、過保護だな…。

 他の人のプロジェクトに対する意識が、


 低いだけだよ。


                     to be continued…


*このシナリオはフィクションです。
実在の人物や団体・事件などとは
一切関係ありません。

Act.1
episode 9

August

2024

* * *
 自分は他の人と違って、意識が高く、会社のために働けていると。そう言いたげだな。

 まぁそんなことより、

 コイツが3年前にアイツと出会ってた?
 そんなこと、私の筋書きにはなかったはずだ…。
             * * *

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