第1回「ガチ中華」とは何ですか? 研究会事始めストーリー
はじめまして。「ガチ中華」応援団を自認する「東京ディープチャイナ研究会」代表の中村正人です。
当研究会は「ガチ中華」を愛好するSNSでゆるくつながったコミュニティで、約5000人の人たちが登録しています。グループの皆さんは日々自身で見つけた「ガチ中華」の店や料理、食材店や食フェスの話題、手づくりレシピなどの情報を共有・交換しています。
誰かが面白い店を見つけたら、SNSに投稿するだけでなく、食事会を企画して、みんなで集まっています。グループの人たちは、居住地も都内に限らず、国籍もさまざま。個性豊かな皆さんの情熱や体験語り、知見を抜きにして、ぼくらの活動は成り立たないことを最初に述べておきたいと思います。
この研究会発足のきっかけは、コロナ禍に見舞われた2020年春のことでした。ぼくが西池袋の雑踏を歩いていたとき、(以前から薄々は知っていたのですが)いまでいう「ガチ中華」の店の増加ぶりと料理ジャンルの豊富さに驚きました。
「これはどういうこと? いったい何が起こっているのだろう……」。
これまで経験したことのない、新しい社会現象がいまの東京で起きているのかもしれない……。少々大げさな言い方に聞こえるかもしれませんが、ぼくはそう考えたのです。
であれば、その全体像をつかんでみたい。こうして「ガチ中華」発掘のための街歩きを始めたのでした。
ぼくはもともと特にグルメな人間ではなかったので、食べ歩きを始めたというより、むしろ「歩き食べ」。すなわち、都内で「ガチ中華」が多く出店されているエリア(それはのちほど詳しく紹介しますが、池袋や上野、高田馬場、新大久保など)を中心に、どんな料理を出す店があるのか、徹底的に調べ上げ、地図に落とすとともに、気になる店は実際に入店しました。
こうして見つけた世にも珍しいガチな中華料理をSNSに投稿すると、友人から「これ何? どこで食べられるの?」と聞かれたので、「じゃあ案内するから一緒に食べに行こう」。仲間を集めて店を訪ねました。その後、多くの人たちがそれらの投稿に反応してくれるようになったので、2021年夏頃から本格的にウエブサイトやSNSの運営を始めたことが、当研究会立ち上げの経緯です。
おいしい話題はみんなで共有しよう。その方がずっと「ガチ中華」の世界も見えてくるだろうと考えたのでした。
これらの取材・調査の成果は以下の2冊の書籍でまとめています。
当研究会では「ガチ中華」を以下のように定義しています。
「海を渡って来日した中国語圏の人たちが提供している料理。これまで日本人が親しんできた中華料理とは別物で、彼らが故郷を懐かしみ、自分たちの好みに合わせて提供される本場の味」
ここでいう「中国語圏」とは、中国大陸のみならず、台湾や香港、マカオ、華人が多く住む東南アジアのことですが、さらには朝鮮半島やインド亜大陸をはじめとした世界各地で、中国由来の料理がそれぞれの土地で現地化されたグルメの世界も含まれると考えています。実際、日本にはそのような国際色豊かな多様な中華が存在しているからです。
ところで、「ガチ中華」には大きく2つの特徴があります。
ひとつは、これまで日本では味わえなかった中国語圏各地の地方料理を提供する店が驚くべきペースで増えていること。
中華料理は一般に四大料理(北京、上海、広東、四川)が知られていますが、いま都内に急増しているのは、それ以外の地方の料理で、挙げればきりがありませんが、たとえば湖南や貴州、雲南、福建、西安、新疆ウイグル、内モンゴル、東北などの郷土料理です。
もうひとつは、中国や香港、台湾などの現地の外食チェーンやモダンな創作料理などで、若い中国系オーナーによる個性的な店が次々と東京に現れ、最新の海外の食のトレンドが体験できるようになったことです。
いつ頃から東京でそんなことが起きていたのか? なぜこんなに増えたのか? こうした疑問については、当noteでおいおい説明していくつもりですが、まず「ガチ中華」とはどんな料理なのか。それをいくつかのジャンルに分類してみると、以下のようになります。
すなわち、「麻辣(マーラー)料理」「羊料理」「ご当地麺」「小吃(シャオチー)」。これが「ガチ中華」の4つの人気ジャンルです。
「麻辣料理」は四川省発祥の辛くて痺れる「麻辣(マーラー)」味の料理で、激辛な担々麺や真っ赤なスープの中華火鍋が思い浮かぶかもしれませんが、それだけではありません。その多様な料理の数々は、いまや都内を席巻しています。
「羊料理」は、北京周辺から西北地方、内モンゴル、新疆ウイグルに至るシルクロードに沿ったエリアで食べられている料理です。これまで日本人は羊料理といえば、ジンギスカンくらいしか知らなかったかもしれませんが、串焼きや炒め物、煮物、スープ、麺、火鍋など、さまざまな料理があります。
「ご当地麺」は、中国語圏各地のローカルヌードルのこと。有名どころとしては、神保町にある人気の蘭州牛肉麺や漢字の画数が57もあることで話題となったビャンビャン麺などが知られていますが、いま東京で食べられるご当地麺の種類はそれどころではない多さで驚かされます。
「小吃(シャオチー)」は、中国語圏のファストフードのことで、現地の若者に人気です。中華風ハンバーガーのロウジャーモー(肉夾饃)や現地風クレープ、お好み焼きなどの各種粉もの、スイーツも豊富です。
次回以降、それぞれのジャンルの料理をもう少し詳しく紹介していきたいと思います。
ちなみに、東京ディープチャイナ研究会は特に入会のルールなどなく、研究会のFacebookに自由に参加していただくだけです。もしよろしければ、ご自身の「ガチ中華」体験を投稿していただけるとうれしいです。メンバーのみなさんと知り合え、交流が始まるはずです。食事会やイベントの情報も
Facebook(https://www.facebook.com/groups/tokyodeepchinasociety)や
X(twitter.com/tokyodeepchina)で告知しています。
今年1月、以下の電子書籍も出版しました。池袋の街歩きに活用していただけるとさいわいです。
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