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第14回 海鮮がおいしい大連料理の店~「ガチ中華」の地方料理⑤

大連は中国遼寧省の南端にある遼東半島に位置する美しい港町で、昔多くの日本人が住んでいました。海鮮が豊富なことから、町にはシーフードレストランがたくさんあります。
 
餃子の具に魚やアワビなどの海鮮を使うのが特徴で、おいしい海鮮スープ鍋や飲茶の点心など、日本人好みのグルメの宝庫といえます。
 
黄海に面した大連の料理が他の内陸の東北料理とは少し毛色が違うのは、19世紀に山東省から渡ってきた人たちが多いせいか、山東料理(魯菜)、細かくいうと「膠東菜(ジャオドンツァイ)」と呼ばれる山東半島北部の煙台料理を土台に、福建料理などの特徴を融合した海鮮を使った料理が多いからです。また日本との歴史的な関係も深く、日本料理の影響も受けていると思われます。

 
港町の大連では海鮮餃子が有名です。
 
冒頭の写真は、大連市内にある餃子専門店「船歌魚水餃」で食べた海鮮餃子です。
 
手前の黄色いのが、中国で黄魚(ホアンユィ)と呼ばれるイシモチの身が入った餃子で、真っ黒なのはイカ墨餃子です。イカ墨餃子の中身を開けてみると、イカと豚肉を合わせた具が入っています。皮が黒いのはイカの墨が皮に練り込まれているからです。

見た目よりずっとおいしいイカ墨餃子


見た目のインパクトはなかなかですが、意外に味はさっぱりとしています。中国餃子特有のふっくら厚みのある皮の歯ごたえも口の中で具となじんでいい感じです。イカ墨スパゲティのように口の中が真っ黒になるというようなこともありません。
 
店内には値段入りで餃子の種類を書いたプレートが吊るされています。左から「墨鱼水饺(イカ墨)」「黄花鱼水饺(イシモチ)」「大蛤水饺(ハマグリ)」「三鲜水饺(三種類の具入り。一般的には、ニラと炒りタマゴとエビ入り)」「鲅鱼水饺(サワラ)」です。値段は500グラムですから、かなりの量があるのに安いです。

大連の餃子専門店「船歌魚水餃」にて


このような海鮮餃子が食べられる店が日暮里にあります。「鴻福餃子酒場」です。

鴻福餃子酒場 台東区根岸3-7-18


オーナーの呉昌明さんは遼寧省瀋陽出身ですが、都内に2軒の餃子専門店を経営しています。

鴻福餃子酒場の海鮮蒸し餃子。色によって具材が異なる


この店の海鮮餃子は蒸し餃子なので、油ギトギトの肉入り焼き餃子とはまったく別物の、ヘルシーかつ上品な味わいです。具材のおいしさを味わうには、蒸し餃子がいちばん。水餃子にすると、海鮮のエキスがお湯に出てしまうので、それらを逃がさず皮に包み込む蒸し餃子でなければならないそうです。
 
ただ、餃子には肉汁パワーがほしいと思う人もいるでしょうから、意見は分かれるかもしれません。
 
知っていただきたいのは、中国では餃子の中に何を入れようが自由だということです。

 
大連のもうひとつの味覚は、中華風海鮮バーベキューの焼烤(シャオカオ)です。

池袋の東北料理店「小城故事」の焼烤


肉や海鮮、野菜などのあぶり焼きで、渤海沿岸の町、たとえば遼寧省の錦州が有名です。夏はビーチ沿いの屋台のような店で地元の人は海鮮の串焼きを食べています。辛さは控えめの味つけなので、好みの香辛料をかけて食べますが、大量のニンニクが使われているのが特徴です。

焼烤は遼寧省錦州の名物グルメ


池袋にある「太陽城」という店は、若者向けのパブレストランのような焼烤専門店です。

太陽城 豊島区池袋2-49-10


店に入ると、自分が東京にいることを忘れてしまいそうになります。東京に住む中国の人たちに聞くと、池袋で断然盛り上がっている「ガチ中華」といえばここだそうです。2019年8月にオープンしています。

太陽城の主な客層は若い中国の人たち
海鮮だけでなく、野菜やカエルの串焼きなどのメニューもある


この店は串焼きの種類がやたらと豊富で、カラオケも楽しめることから、週末は予約が必要です。夕刻になると、店の前に行列ができるほどです。

 
大連にはおいしいキノコ鍋を出す「何鮮菇」という店があり、ぼくは現地に行くと、必ず一度は訪ねています。もともとキノコ鍋は雲南省の味覚ではありますが、お隣の吉林省の長白山麓で新鮮な菌類がたくさんとれることから、大連でもこの店を始めたそうです。
 
実際、吉林省の町々の市場を訪ねると、何十種類ものキノコが並んでいます。日本の高級スーパーなんか話にならない豊穣さで、もちろん秋が近づくとマツタケもあります。

大連にあるキノコ鍋専門店「何鮮菇」の絶品スープ


キノコ鍋の食べ方には作法があって、最初はキノコ以外の具は絶対入れてはならないこと。肉や野菜を入れるとスープの味がにごるからだそう。
 
山盛りのキノコを鍋に入れ、ただただキノコを食べるのですが、ダシが染み出たスープのなんとうまいこと。もう恍惚たる気分です。
 
正直なところ、もうそれだけで十分という気がするのですが、中国の友人たちは、これからがお楽しみよ、とばかりに、キノコを平らげ、スープだけが残った鍋に、肉やら魚やら野菜やらをぶち込み始めます。
 
この大連にあるキノコ鍋専門店「何鮮菇」が数年前、上野に出店しています。

 
日本に住む大連の人は多いせいか、現地の人しか知らないようなローカルグルメを都内で見つけることもあります。それは「大連焖子(ダイレンメンズー)」です。

池袋の「串串炸翻天」で食べた大連名物のB級グルメ「大連焖子」


サツマイモを使ったでんぷんの煮こごりを小口に切って鉄板で焼き、ニンニクたっぷりのゴマソースをかけ、パクチーをふっただけの超ローカルフード。もともと山東省由来のものです。これが食べられるのは、池袋にある「串串炸翻天」という小さな店で、初めて出合ったときは驚きました。
 
ところで、ぼくが大連料理のことでひとつ残念に思っているのは、現地で必ず食べるおいしい海鮮スープ鍋を出す店が都内に見当たらないことです。淡白ですが味わい深い白湯スープで、新鮮な海鮮をしゃぶしゃぶしながらいただきます。

大連の海鮮スープ鍋の専門店は星海広場周辺にある
大連ではこういう新鮮な海鮮をしゃぶしゃぶして食べます


もっとも、このような海鮮鍋は日本にもあると言えなくもありませんから、わざわざ東京でこういうジャンルの店を出すオーナーが現れないのかもしれません。
 
以下、ぼくの知る限り、大連出身のオーナーの「ガチ中華」の店です。大連出身だから大連の料理を出すということばかりでもないようです。最後のカクテルバーは、横浜でバーテンダーとして修業した大連出身の若い女性の店です。
 
■大連人オーナーの店
池袋の海鮮中華「四季海岸」
池袋や四谷三丁目、湯島、西川口の「食彩雲南」
池袋の「串串炸翻天」
上野のキノコ鍋専門店「何鮮菇」
御徒町の羊スープ専門店「羊貴妃 羊湯館」
府中の中国酒とお茶のカクテルバー「染香」

 
ぜひ訪ねてみてください。

大連は20世紀初頭、最初はロシア人がつくった町で、パリを模した円形広場がその時代の名残として残っています。広場の周囲の洋風建築は日本人が建てたものです


ところで、中国東北地方の料理にぼくがそこそこ詳しいのは、『地球の歩き方 大連・瀋陽・ハルビン』(学研)というガイド書の取材で長くこの地を訪ねてきたからです。コロナで久しく行けていませんけれど。この本、自分で言うのもなんですが、読み物としても面白く、日中の近代の歴史のからみもそうですが、現在の中国事情を理解するのにかなり役立つと思います。


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