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MONKEY19号刊行記念トークショー

・『ウィットバーネットに敬礼』の朗読
 ストーリー誌のアンソロジーに対する序文。1960年代に執筆。サリンジャーは1930年代に氏の講義を受講。ストーリー誌ではなく、バーネット氏の記述に終始しているため、結局この序文は掲載されなかった。1975年、バーネット氏の没後に『作家のためのハンドブック』が出版。そこにひっそりとこの序文が掲載される。日本では未翻訳、今後もおそらく翻訳は成されないと思われる。

 ・『若者たち』について
ストーリー掲載時の他の短編と比べて、ダントツだと感じた。サリンジャーは初期が一番凄いと思うくらいの会話の上手さ。ヘミングウェイ『インナータイム』における氷山の一角理論が想起される。小説では氷山の一角を語ることで、その全体を掴ませなければいけない。アメリカの小説の語りの中でも、新しい流れを感じさせる。言葉の奥に何かを感じさせるが、その何かを特定できない。語り手たちもそれが何か分かっていない。

 ・シャーリージャクスン『ジャニス』(1938)の朗読。
大学の同人誌にて発表。学校に戻れない女の子が、ガレージの中で自殺を図り、その経験を周囲の人物に幾度も吹聴する話。本当に自殺を図ったのかどうかも分からず、読める可能性の幅が広い。

 ・フィッツジェラルド『真珠と毛皮』について
サリンジャーの一つの影響源。14歳あたりの女の子の語りが新鮮。MONKEY掲載にあたり、村上春樹の許可を取ったとのこと。

 ・R・Oブレックマンについて
ストーリーの復刊に際して、表紙とデザインを手がけた。MONKEY15号に詳しい。ブレックマンの本棚の写真。フィリップロス。同世代のユダヤ系の作家。ペレルマン。グレイスペイリー。大江。村上龍。春樹。『本当の翻訳の話をしよう』の表紙を依頼(左が父。右は息子。)。村上春樹のサインが条件にあったらしい。

 ・アニメーション二本の上映。
 「アルカ・セルツァのCM」人間と胃袋の言い争いに、胃薬が仲裁に入ってくる。ハッピーエンドではない絶妙な表情。「CBSのために制作したクリスマスメッセージ」

 ・今号のテーマ、その現在との繋がり。
 サリンジャー作品には今読んでも古びない新しさがある。今号で扱ったテーマに関連する重要作はリチャードライト『アメリカの息子(Native San)』。誤って白人女性を殺した黒人男性が裁かれる。その責任は誰にあるのかを問う抗議小説。

そこから繋がる現代の作品として『Friday Black』という短編集の朗読。主人公はエマニュエルという若者。ブラックネス(黒人指数?)が数値化できる世界。人々はそれを抑制しながら生活している。ある日、白人の中年男(ダン)が、黒人の子ども5人をチェンソーで殺す事件が発生。事件を受け、エマニュエルとその同級生らは暴力組織を結成。白人たちを襲撃する計画を立て、それを実行していく。

朗読場面は、裁判の場面とエマニュエルとその同級生が車でイチャつくカップルを襲撃する場面が交互に展開。未邦訳だが、かなり衝撃的な作品で、近いうちにきっと翻訳が出るだろう。

 質問コーナー
Q.表現者としての素質があればあるほど、社会から疎外されてしまうのか?
A.それは人によると思います。程度の問題かと。イノセンスと社会は融和しない。

 Q.子どもの心が大きければ、才能が大きい?
A.作家が小説を書くときに、社会規範から逃れる。バカになって書く、という観点からすればそのようにも捉えられるかも。

 Q.今号の表紙のテーマは?
A.ブレックマンが子どもの頃、多感だったニューヨークを表現。50年代のNY。目次のところのタクシー。

 Q.柴田さんの朗読に落語の影響はある?
A.ある。

 Q.サリンジャーのゼミに通っています。原文にあるヴォイスを訳にどう反映するか。サリンジャーに近いヴォイスを持つ作家/翻訳家は?
A.村上の訳ですら、原文と違う。丸い。たぶん近い訳にすると促音が多くなる。ホールデンが常にカッターを持っているように訳さないといけない。スラング等の尖り方はなかなか日本語に翻訳できない。そういった表面上の問題を除いて、最後に残るエッセンスを損なわないのが良い翻訳。そのような意味では春樹訳は素晴らしい。

 Q.今回のトークショーは、過激なムードがある?
A.40年の『今時の若者』周辺が、現在にどう繋がっているかが、朗読のテーマ。リチャードライト以降。リアリズムを超えて、和解の幻想も超えて、現在に繋がっていく。

 Q.『針音だらけのレコード盤』の他の訳はある?
A.サリンジャーがつけたタイトルは"Scratchy Needle on a Phonograph Record"。コスモポリタン掲載時は『ブルーメロディ』。勝手なタイトルの改変にサリンジャーは激怒した。翻訳は荒地出版からの作品集に掲載されてる。MONKEY掲載時には省いたが「乗った針」の部分も必要だったと後悔。聴けば聴くほど、傷がつくレコードのように無垢を守っている自分も、人を損ねているかもしれない。そこに作中人物の人との関わり方との共通項がある。

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