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分散型IDはWeb3へのパスポート(3)DIDが切り開く未来

全3回の記事構成となります。第1回・第2回目の記事は下記をご覧ください。

4.DIDプロジェクトの選択

Metamask - ブロックチェーンアプリへのゲートウェイ

新しい技術パラダイムでは、ユーザーが最も頻繁に接するソリューションが、業界の将来の発展に大きな影響を与えることがよくあります。Web1ではNetScapeやInternet Explorer、Google Chromeなどのブラウザが、Web2ではFacebook、Instagram、Netflix、Spotifyのようなアプリが戦場となったように、Web3 ではウォレットが戦場となる可能性が高いでしょう。

Web3のアプリケーションに触れたことがある人なら、ほとんどの方がMetamask(メタマスク)を使ったことがあるでしょう。ConsenSysが2016年にローンチしたMetamaskは、EthereumブロックチェーンやEthereum互換ネットワーク(Polygon、Arbitrum、Avalancheなど)とやり取りできるノンカストディアル(ユーザー自身で秘密鍵の管理保存をおこなうタイプの)暗号通貨ウォレットです。

メタマスクは、厳密には分散型アイデンティティに焦点を当てていませんが、2,100万人以上の月間アクティブユーザーが自分のイーサリアムアドレスにアクセスするためのデファクト・アプリケーションとして機能しています。Web2のシングルサインオン(SSO)オプションと同様に、ほぼすべてのEVM互換のWeb3アプリケーションは「Metamaskでサインイン」機能を提供する予定です。

Augur(左)とOpenSea(右)のサインアップオプション

Metamaskは、より広範なDIDソリューションがどのようなものかを示す強力なメンタルモデルとして、また自己主権の誓約と脅威を強調するものとして役立っています。Metamaskのユーザーは秘密鍵を自身で保持しているため、まさに資産を自身のウォレットで所有していることになりますので、第三者のセキュリティやカストディの信用性を気にする必要はありません。さらに、ユーザーはあるアプリケーションから別のアプリケーションへシームレスに資産を移動させることができます。例えば、SuperRareで購入したNFTをOpenSeaで簡単に売却できるため、プラットフォームに縛られる問題を抑え、ポータビリティを高めることができます。複雑なサインアップ手続きや複数のユーザー名/パスワード管理をする代わりに、Metamaskウォレットを接続するだけで新しいアプリケーションを試すことができるため、顧客体験も間違いなく向上しています。また、「ウォレットで接続する」は一見断片的に見えますが、これらのウォレットはあくまでユーザーインターフェースであり、基本的なアカウントシステムはすべて同じであるため、他のWeb3ウォレットにアカウントをインポートすることが容易である点は忘れてはいけません。

Metamaskへのアカウントインポート

しかし、ハッキングや詐欺は後を絶ちません。Web3のユーザーは全財産を失わないよう、ウォレットのセキュリティについて過度に用心しなければならず、ウォレットのシードフレーズを紛失するだけでも、資金を永久に失うことになりかねません。そのためユーザーによっては、アカウントのセキュリティと管理をサードパーティのカストディアンに委ねることを好むかもしれません。

Metamaskは、徐々に分散型ガバナンスに移行していくことが予想されます。ConsenSysの創設者であるJoseph Lubin氏は最近、Metamaskが近い将来にトークンをローンチすることを示唆しています。MetamaskのシニアソフトウェアエンジニアであるErik Marks氏は、Metamaskトークンのユースケースが魅力的であることをチームは望んではいるが、「プロジェクトをコミュニティ所有にするアイデアを受け入れる」と述べています。Metamaskがエアドロップを行う場合、Metamaskのスワップ機能を利用したユーザーが主な判断材料になるだろうと推測する声もあります。

ConsenSys CEOによるMetamaskトークンローンチについての言及

Source: Twitter (@ethereumJoseph)

Metamaskは主に、分散型取引所アグリゲーター、マーケットメーカー、DEXからのデータを集約し、0.85%のスワップ手数料を上乗せしたスワップ機能を組み込んで収益化しています。スワップ機能は年初から大きく伸び、Metamaskは先月、そのスワップからおよそ4,000万ドルのスワップ手数料を獲得しました。

イーサリアムL1におけるメタマスクスワップの日次取引高とDAUの推移

Source: Dune Analytics (@tomhschmidt)

実際、Metamaskのスワップ機能による収益成長率は、SushiswapやCurveを大きく上回っています。

メタマスクの収益とDeFiプロトコルの収益の比較

Source: Dune Analytics (@momir)

Uniswapと1inchはEthereum DEXとDEXアグリゲータのリーディングカンパニーで、Metamaskの流動性ソースの大部分を構成しています。

メタマスクスワップの流動性ソース

Source: Dune Analytics (@momir), November 21, 2021

Metamaskトークンの潜在的な評価レンジは広いので、株式評価額は直接比較できませんが、32億ドルの評価額で2億ドルを調達したConsenSysの最近の株式資金調達をもとに、Metamaskトークンの価値の概算を見積もることはできるでしょう(Sky Mavisが30億ドルの評価額で株式調達を行ったとき、AXSトークンは約40〜50億ドルの価値がありました)。トークンの直接比較でも広い範囲を示唆しています。MAUあたり500ドルから1,000ドルの倍率を適用すると、105億ドルから210億ドルの潜在的な評価レンジがあることを示唆しています。

コンセンシスの評価のベンチマーク

Source: Public filings, Capital IQ, CoinGecko, Amber Group estimates

Ceramic

Ceramic(セラミック)は、インターネット上の動的で変化しやすい情報を管理するための、パブリックで分散化されたデータネットワークです。Ceramic streamsと呼ばれる柔軟な構成要素を作成することにより、データベースやサーバーを必要としないアプリケーションを構築する術を開発者に提供します。

Ceramicでは各情報は「ストリーム」と呼ばれるコミットメントの追記型ログとして表現されます。各ストリームはIPLDに格納された有向非巡回グラフ(DAG)であり、StreamIDという不変のnameと、StreamStateという検証可能なステートを持っています。ストリームはGitツリーに似た概念で、各ストリームはそれ自身のブロックチェーン台帳、またはイベントログとして考えることができます。タイル文書はCeramic StreamTypeの一種で、IDメタデータ(プロフィール、ソーシャルグラフ、リンクされたソーシャルアカウントなど)、ユーザー生成コンテンツ(ブログ投稿、ソーシャルメディアなど)、DID文書、検証可能な資格情報などのデータベース代替物として頻繁に使用されています。

このプロトコルは、特定のブロックチェーンに依存するものではありません。その代わり、「doc-chain」として概念化することができ、特定の文書の状態を検証するには、ユーザは与えられた文書のデータを同期させるだけでよいのです。一般的な多くのブロックチェーンネットワーク(例:ビットコイン、イーサリアム)のように、ユーザーはネットワーク全体の状態を同期させる必要はありません。したがって、ドキュメントのグローバル台帳は存在しません。

Ceramicの主要ツールのひとつであるIDXは、クロスチェーンIDプロトコルで、すべてのアプリケーションがユーザーのDIDに関連するデータソースを登録・発見できる統一リポジトリを提供します。これは、分散化されたユーザーテーブルと考えることができます。IDXを使用することで、ユーザーは自分のアイデンティティとデータを単一のアプリケーションにロックされることなく管理でき、アプリケーション間でデータを簡単に保護し移植することができます。同時に、開発者はユーザーに対してすべてのアプリケーションで同じデータを再作成することを強いる必要がなくなり、データリッチなアプリケーションを構築することができます。

Ceramicは、DIDテクノロジースタックにおいて重要なミドルウェアです。Ceramicのネットワーク上に構築されたプロジェクトで、すでに市場を牽引し、受け入れられているものは以下のとおりです。

  • Boardroom:DAOのためのガバナンス管理プラットフォーム。Ceramicのプラットフォームを利用し、提案のコメントを保存する。

  • Rabbithole:ポイントや暗号資産を獲得することで、Web3プロジェクトの利用を促進するアプリケーション。Ceramicのネットワークを利用して、複数のWeb2、Web3アカウントを統合し、クロスチェーンのDIDにリンクし、ユーザーの評判を他のWeb3アプリケーションにまたがることができるようにする。

  • ArcX: "DeFi passport"の発行により、オンチェーンでのクレジットスコアとアイデンティティを提供する分散型アプリ。

5.結論

インターネットは、おそらく今世紀で最も重要な発明です。過去20年の間に、メディア、政治、ニュース、教育、社会的交流など、社会における情報の流れの基本的な性質を一変させました。しかし、経済活動がますます”Atom(原子)”から”Bytes(データ)”へとデジタル化が進んでいるにもかかわらず、私たちのオンライン・アイデンティティは依然として真の所有権を持たず、プラットフォームの中でサイロ化されたままです。

「価値のインターネット」の出現により、新しいユースケースを実現するWeb3を主流にするためには、堅牢なDIDソリューションが必要となります。私たちはまだ初期段階にいますが、未来は明るいのです。また、DID標準のコンポーザビリティ(組み合わせによる構築の可能性)とインターオペラビリティ(相互接続性)により、それぞれの新しいアプリケーションから生み出される勢いは、別のアプリケーションに複合的に作用するでしょう。DIDソリューションの重要性は今後数年で飛躍的に高まり、Web3アプリケーションの次の大きなサイクルを切り開くことになると期待しています。

6.付録I:ENSドメインに関する初心者向けガイド

まず、ウォレットとENSアプリを接続します。

登録したいドメイン名を検索してください。ENSドメインは長さによって価格が異なり、短いドメイン名ほど高価になります。利用可能であれば複数年登録することができます。登録と更新のたびにガス代がかかるので、少なくとも数年間は登録するのが最も費用対効果が高いです。「登録申請」をクリックし、1分ほど待ってから登録を完了させると、ENSドメインが確保されます。

「マイアカウント」にてリバースレコードを設定します。1つのイーサリアムアドレスにつき、プライマリENS名は1つしか設定できません。その後、あなたが取引する相手は、あなたの公開鍵の代わりにあなたの .eth アドレスを参照することができます。

また、ENSドメインをクリックして、ドメインのテキストレコードを変更することができます。ENS Mediumブログは、あなたが所有するDNSレジストラをあなたのENS名と接続したい場合のガイドを公開しています。

本レポートは全3回で構成されています。第1回・第2回目の記事は下記をご覧ください。

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投稿主体/著者:By Amber Group Research Team
翻訳:松本 和樹
編集:奥津 規矢
原文:Decentralized Identity: Passport to Web3