ど田舎でxRの普及を一年やってみたお話

-空間を持ち運んだり飛び越えたりしたお話-

どーも、xRarchiメンバーで一番ど田舎に住んでます、でちでちです。昨年12月から今まで、首都圏での展示をやってみての知見と、実際にやったことのまとめを書いて行きます。
やったことを一言で纏めると…VRコンテンツの展示をVR空間を使い倒してフルリモートで行なう手法の確立。

基本ルール

前提として。
全てのVR関連技術を利用したコンテンツ/ソリューションは下記のルールに則り制作、運用しております。
a.VRは、十勝の空間を持ち運ぶ為の物。それは建物も町並みも自然も全て含む。
b.VRは、都会に十勝を持ち出すための物。都会に持ち出す事によって都市から田舎への人の流れを、お金の流れを作り出す為のツールとして運用する。
c.VR界隈外にリーチする事。子供に安心して見せられて夢中にさせる事。

何よりも…ワクワクしながらお仕事に使えるモノを作る!!

1.大規模商業施設での展示

まずは実際にやってみた事の本州編その一から。

ららぽーと柏の葉での十勝VR展示。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000323.000002198.html

本年3月、ららぽーと柏の葉様にて北海道の物産イベントと共にVRコンテンツの展示を行った。延べ体験者数は約2,000人、アテンドスタッフは常時2~3名体制。展示時のシステム全体の可用性は99.5%程度。

大規模な展示の原型として、本展示を行いました。

コレねー、正直すげー大変でした。マジで。

何しろ、OculusGoを使用して今までVRに触れた事が殆ど無い人相手に土日祝日の大型商業施設で2,000名規模のどデカイ展示なんてこの時点でやってる所有りませんし、当然の事ながら公表されてる知見も、一切無い。
展示実務面の負荷として定量的に表現すると…アテンド一人あたり一日200名以上を捌きつつ熱暴走起こさん様に適宜冷却を行いながら小学生/中学生がメインとなる体験者の安全を十分に確保した上で1日9時間、3日で27時間の展示を行う。

…今思い返しても良くやったなー、と。

上記を実現するためにどのような手法を取ったのかは、5月25日のHoloLensMeetup(札幌)の登壇資料を御覧ください。

ポイントとしては概ね3点。
a.施設側と協議を行った上での安全対策(待機列整理、体験中の安全確保、体験可能年齢に制限ある場合は文書による確認、取り交わし)
事前に施設管理者と文書による質疑応答を繰り返し、結構細かく取り決め行いました。
立った状態で体験すると動き回るから着座姿勢にする、着座状態でも腕を振り回すから椅子は背中合わせ配置にする。待機列が伸びると周りのお店に迷惑かかるんで列整理必須&体験時の所要時間は5min/人以内かつ、1時間辺り40名弱をスムーズに捌く。ここの所の仕様から逆算して、展示に使用するオキュゴの台数(常用6台待機3台冷温予備1台)は決めてます。
なお、実際には想定の200%程度の負荷を捌くことになりましたがまぁなんとかなった。

b.体験者が支払うコストの最小化。主に心理的、時間的なコストの低減。
コレに関しては1.の待機列を減らす事と、1名当たりの所要時間制限を満足する為にすげー重要な所。

幸いにして私は北海道VR勢。じゅーいちさんの考案した #オキュゴ・グリップ の存在は知っておりましたし、便利さも理解してた。迷わず手配&使用。

c.展示時のスタッフマネジメント。ぶっちゃけ、北海道から現地での展示協力者を連れて行くだけの旅費&交通費が出るだけの予算は有りませんでしたし、併催の物販ブースから人を借りる運用は不可能。故に、VRブース要員としてスタッフを確保する必要が有る。
選択肢としてはイベントスタッフ派遣サービスを利用する事も有りましたが、扱う機材がVR-HMDの為、事前の操作教育を行なう点で不安あり。
率直に言って簡単なトラブルシューティングまで含めた展示ブース内で必要となる操作をVR未経験者に伝える自信がなかったのでTwitterで協力者を募りました。結果としては大成功。

実運用して分かった事

a.事前に会場の制約を可能な限り把握しておいた事は正解。想定される体験者層と想定される負荷情報が正確だった為に、実際に会場で起ったトラブルは全て想定出来ていた物だった。概ね、オキュゴの電源を入り切りするレベルで復旧可能なレベル。

b.オキュゴ・グリップの使用は正解だった。コレを使用する事の効果はだいたい下記の通り。
ⅰ)HMDを手渡すだけで体験可能とする事で、被らせる手間(かぶり方説明含め1~2分程度)を無くし、ブースに着座後10秒以内に体験して貰うことが出来た。体験準備にかかる時間を極小化することで、待機列の発生を最小限に抑える事が出来た。
ⅱ)HMD本体を体験者に触れさせない事で誤操作に起因するトラブルの発生を防止出来た。間違って電源ボタンを押して再生止まっちゃう的なトラブルは発生しなかった。
ⅲ)被るのでは無く、手に持って覗き込む事で特に女性に対しておすすめしやすくなった。装着しても髪型が乱れない、化粧が乱れない点は体験に当たっての心理的障壁を下げる。

c.アテンドスタッフをTwitterで募集した事は正解だった。VR-HMDの扱いに慣れている人にご参集頂けた為、展示前の事前教育がほぼ不要だった。
それに合わせ、事前打ち合わせをDiscordやVRchat等のツールを使用し十分に出来た事も大きい。
コレねー…スタッフ派遣系のサービスを利用した場合って、原則として現場に来る人間と直接事前打ち合わせする事が不可能なんで細かい意思疎通に問題が生じる恐れが結構高い。

大規模展示の実務面に関するお話は大体このくらい。

実際に得る事が出来た知見は
ⅰ.事前段取り手順の検証
ⅱ.遠隔地からのチームビルディングの為に必要な要素
ⅲ.大規模展示時に発生するトラブルシューティングに関する知見
ⅳ.VRは男性よりも女性にウケる。女性よりも、子供にウケる。

画像3

だいたい、この辺となります。ⅲに関してはそれ程大きな物は発生しなかったけど。

2.物販イベントのサポートとしてのVR展示

実際にやってみた事の本州編その二。商業イベントでの販売促進ツールとしての運用。
二子玉川ライズでのVR展示を行ってきました。

柏の葉展示で確立した大規模展示時の手法。それをスケールダウンする形にて展示を行いました。

VRに対して求められた事。

前回の展示の様子から、ブースの賑わい感を演出する手法の一つとして展示する事を求められました。
展示実行に際しての準備作業自体は柏の葉と同様。現地との細かいすり合わせと体験者の安全に対する十分な配慮を文章として取り交わす。展示までに準備することはルーチン化する事が出来ました。
でもね…問題が一つ。

スタート時点から、製作納期が1週間しかねぇ!!

詳細な状況は上記スライドを参照してください。とにかく、依頼された日付とイベント実行日まで余裕が無かった。

キャプチャ

その上で、私が本州に行く為の旅費が確保出来る予算も出なかった。
この状況を打破する為に使用した手段として、
a)物理的な距離を埋める為のVR会議室の適用
b)フルリモートによるタスク実行
コレを採用しました。

電話やチャット、メールのやり取りでは率直に言って時間が掛かります。電話だと話がこじれる可能性すげー高いですし、同じ資料を見ながら関係者一同が合意形成する事も困難。メールやチャットの場合は、対面での対話と比較してレスポンスタイムの問題が有る。東京-十勝間に横たわる850kmの距離をそれだけで打破する事は出来ない。

VR空間を、フルに活用せざるを得ない。

幸い、本タスクのアテンドスタッフとして柏の葉展示で多大な貢献を頂いたサツキトウカ氏の協力が得られた事も有り現地アテンド人員は確保出来ました。
更に、展示関係者全員がOculusGoを使用可能な環境も揃って居ました。

桜花広場が、使える。

活用する機会は、今を置いて他には無い!!

キャプチャ1

VR空間内で資料を共有しながら、
a.必要な時に
b.必要な項目に関して
c.可能な限り即座に細かい打ち合わせを
行なう事で直接対面する事が出来ない障害を乗り越え、無事に2日間の展示を成功裏に導く事が出来ました。

サツキトウカさん、ありがとう!!

そして、この展示の際に得られた知見は下記。
a.VR空間を実業務に適用するために必要な段取り。
コレね、事前に会議参加者の認識を統一するために十分な準備が必要なんです。主に資料作成面。
b.VRコンテンツを使用する事で、体験者から高いエンゲージメントを獲得。
VRコンテンツとして体験をプレビュー頂く事でその場所に対する強い興味を得る事が出来ました。100人に被せれば、8名程度は十勝に旅行行くレベルのエンゲージメント。
c.物販ブースの賑わい感演出と体験プレビューを組み合わせ、ブース売上に貢献。
概ね、事前の想定売上を40%程度上回る売上を得る事が出来ました。
ブースの中でVRコンテンツを展示する事で、体験者からの楽しげな声が周囲に響く。それにより誘引された人がブース前で行列を作る。そして、体験者はブースで販売しているものを大なり小なり買ってゆく。
小売業向けの集客/営業ソリューションとしてVRコンテンツの持つ力を実証する事が出来ました。
d.VRコンテンツは、見せるだけでは余り意味が無さそう。
一見すると非常に強力な販促ツールに見えるVRコンテンツですが、単純に見せるだけでは余り意味が無い。ブース全体の世界観も重要となりますし、VRコンテンツから引き出される会話の流れで人は物を買ってゆく。

VRは、単体では戦えない。

d.項の見せるだけでは意味が無い件に関して補足。
VRコンテンツとして持ち込んだ十勝の全天球動画から引き出された体験者からの反応から興味深い事が分かりました。VRコンテンツ、実は見せるだけでは体験者の信頼を失いかねない諸刃の剣感。具体的には、下記。

ⅰ)VRコンテンツを体験した人は、その場に対する疑問を引き出される。
コンテンツの撮影場所はドコ?いつ撮影されたもの?自分も体験出来るの?このような通り一辺倒の疑問だけではなく、コンテンツに収録されていない箇所、例えば近所の温泉情報やおすすめ飲食店情報、首都圏からの交通手段等の詳細情報に関する疑問が引き出されます。それに答えられない場合は、ブースの商品をお買い上げ頂く事は出来ない。
ⅱ)ブースの世界感とコンテンツの世界観を統一する必要が有る。
コンテンツ内に収録されている物の世界観と、展示を行なう物販ブースの世界観が統一されていないと販売促進効果は無い。コンテンツから受けたインパクトの余韻が残っている状態で商品を売り込む事が出来ないと売上促進には繋がりません。HMDを外して現実に引き戻された際にシラけ、そのまま帰る。

とかち大百貨店

現実空間の展示場所をVR空間内の世界観に寄せてゆく事で、現実に引き戻された際のギャップを埋める。十勝のアウトドアが舞台であれば、キャンプ場をイメージしたブースとする。
なんなら横から十勝のスープのいい香りをさせる。

体験する空間作りも、VRコンテンツ。

お客さんと、話のキッカケはVRで作れる。でも、そこから先は人と人とのやり取りを経ないと価値の交換には繋がらないし、その為には展示を行なう空間自体の作り込みが極めて重要となる。この辺、xRarchi向け。

この点が明確になった事が、本年最大の収穫と考えてます。

3.観光イベントサポートとしてのVR展示

羽田空港で、デモやってきました。十勝の空間を持ち込んで観光アピールしてきました。

2.でだんだん分かってきたVRを使って十勝の空間を首都圏に持ち込む事の効果を確認するため、旅に思いを馳せる人が行き交う羽田空港で十勝VRを展示してきました。今回はなんとか旅費が出たので、私が直接オペレート。

イベント的には3日間程度。総体験者数は450名程。規模は前回行った二子玉川と同程度。オペレート的な不安は、一切無し。トラブルも、発生せず。展示の手順は概ね仕上がりました。

この段階に至ってようやく。

体験者の中で何が起こっているのかを自分の目で確かめ、考える余裕が出て来た感じ。

大量の知見を得る事が出来た展示でした。

得られた知見は下記。

a.VRコンテンツは人の質問を引き出す力がすげー強い。
従来型の動画コンテンツと異なり、自分の周囲360°をまるごと取り込むVRコンテンツの場合編集工程で情報を適切に間引く事が困難です。その上、構図を決めた状態で見せる事も困難。言ってしまえば、中途半端に情報量が多い状態で体験者に提供せざるを得ない。
そのため、体験者は360°動画を作成した時に製作者が意図して居ない部分に注目し、それに対して疑問を抱く事が多々有る。

b.質問に対し、アテンド者が適切に回答を行なう事で体験者との信頼関係を素早く構築する事が可能となる。
VRコンテンツによって引き出された質問に対し適切な回答を行なう事で、体験者の求める価値を与える事が出来る。求められた事に対して適切な価値を提供する事で、(少なくとも)収録内容に対する体験者からの信頼を5分間程度で勝ち取る事ができる。
信頼を勝ち得た段階で、こちらの目的である十勝観光への提案を行なう事で真剣にお話を聞いて頂く事が出来る。

c.VRは、マスにアプローチする力は現時点では無い。しかし、HMDの回し見を意図的に発生させる事で小規模なコミュニティ内で強力なバイラルが発生する。
従来型の平面に映し出す事が可能なコンテンツと異なり、極めて個人的な体験となるVRの場合はHMDを覗き込まないと見る事が困難。現時点では普及率の問題も有り閲覧出来る機会も限られて居る。ぶっちゃけ、イベントで見る程度しか体験する機会が無い。
その代わりと言ってはなんですが、VRHMDは手に持つことが可能。体験中の子供に声を掛ける事で、その保護者に対して子供経由で手渡す事が出来る。その際には子から親へと、コンテンツの内容を推奨する会話が発生する。コレは、強力です。
コンテンツ内容が観光地の場合、子供は親に対しその場所に行って収録コンテンツを体験したい旨を添えて親に渡す。
親は我が子が行きたい場所を確認する為にHMDを被り、それを体験する。

大きな所では上記の三点。VRの現時点でのポジション確認とVRコンテンツにより体験者に対し引き起こされる事が整理出来ました。

知見はすげーたくさん得た。では発表!!

4.三回の展示の知見をVRコミュニティに発表。

銀座VR、出展してきました。

合計三回からの首都圏展示で得られた、VRを使うことで得られる知見を発表して参りました。ここで体験された方も多いかなー、と。

以上が本州で行った事。これらの実績を元に北海道で会う人に対し片っ端から被せるムーブを展開しております。

詳細な事例に関しては現在商談中案件ばかりのため余り公に出来ないのが残念な所ではありますが…出せる範囲で。

a)VRコンテンツをお勧めする際、省力化に繋がる等の言葉は禁物。
コレ、全ての業種でVR活用を進めて居る人全てに届いて欲しい事なんですけど、利便性を相手に説明するときに活用する事で〇〇のお仕事を人にやらせる必要無くなりますって言葉は禁句と考えてください。それを口にした瞬間から、提案を行なう人に取ってVRは自分のロールを奪う敵となる可能性が有る。私が主に取り組んで居る観光VRであれば、案内所のお姉さんの代わりにHMDを置いてみては如何でしょうかって提案の仕方は本当にマズい。彼女らのロールを奪うのではなく、彼女らの能力を今まで以上に発揮するツールであると提案しないと、単に仕事を奪いに来た人間ポジションになってしまう。

b)VRコンテンツ単体、HMD単体で売り込んでも余り意味が無い。
現時点ではVRコンテンツを体験する為の場所を確保した上で売り込まないと、意味が有りません。凄いね、でも誰にどこで見せるの?で終わってしまう。私の取り組む観光VRの場合は、旅行者が手に取る場所をまず確保しておかないと相手にされない。
更に言うと、コンテンツを見る場所を提供するだけでは弱い。体験する場に具体的に誘導する為の手段が必要となります。

c)何よりも重要な事。意識低くて仕事を奪わない明確な利益を提示する事。
すげーぶっちゃけたお話。世の中の人、だいたい9割程度は美少女になりたい願望有りませんし、未来の空間に対してお金を払うつもりも有りません。
なりたい自分になれるだけでは、スケールする事は、無い。実際の物と結びついて初めて人はそのコンテンツに対してお金を払う。

私は今、上記3つのルールに従い、あくまで泥臭く十勝でHMDを被せております。そして、来年も…

最後に。

今年一年行ってきた事に関し、バーチャル学会にて発表を行います。

VRの社会実装に関する課題等、会場にて皆様とお話したいお気持ち。会場でお待ちしております。

あとはまぁ…来年はもうちょっと納期に余裕が有る案件を粛々とこなして行きたい物です。

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