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再録「あのときアレは神だった」〜石原裕次郎

テレビアニメ、漫画、スポーツ、アイドル歌手などなど。
実在の人物から架空のものまで、
昭和にはさまざまな「キャラクター」が存在した。
われわれを楽しませたあの「神」のようなキャラクターたち。
彼ら、彼女たちの背後にはどんな時代が輝いていたのだろうか。
懐かしくて切ない、時代の「神」の軌跡を振り返る。

(2016年より、夕刊フジにて掲載)



久しぶりに実家に帰りビールなんぞを飲みながらオカンとテレビで野球の試合を眺めていたのだが、野球を知らないオカンの話題は、もっぱら日本ハムの大谷翔平の足の長さだった。

「あら、あの子、足長いわね~」とこんな具合である。

足が長いといえば、石原裕次郎である。

だが、残念ながら、わたしには実際の裕次郎の長足ぶりの実感はない。どちらかというと、『太陽にほえろ!』などで、デスクに座ってたばこを吸っているか、もの思いにふけりながらブラインド越しに通りを眺めているかの印象しかない。

だが、やはりこの「裕次郎、足長伝説」は、巷に浸透していたらしく、昭和一桁生まれのうちのオトンも、新しいズボンなどを履く度に「俺の足の長さは裕次郎と張り合う」という、子どもには若干意味の分からない冗句を連発していた。実際にはオカンには笑われ、生意気盛りのわたしには「ダックスフントみたいだ」と言い返されるのだが。

裕次郎は、たしかに足が長かったんだろうと思う。詳しいデータに興味はないが、映画などで垣間見るそのスラっとした肢体は、たしかにカッコ良かった。

それにもまして、「足が長い」ということが妙に意味を持った時代だった。

足が長かろうが短かろうが本来はどうでもいい話なのだが、やはりこのイメージの先には「外国」があった。当時、みんなが憧れていた西洋のスターのように、背が高く足が長く、スラっと細く、おまけに割れた顎、みたいなやつである。

その後、時代はいくつもの変遷を経て、パンタロンとアクションの似合う長足俳優やら、ジーンズ腰履きの短足俳優やら、いろいろなスターが登場した。もちろん、日本人の足が短くなったわけではない。むしろ長いのが当たり前であまり話題にも上らなくなった。

そして、2010年代の日本にさっそうと登場した大谷くんは、「洋ピンものの長足」ぶりが脚光を浴びる、久しぶりのスターだ。もちろん、そのイメージの先にあるのはメジャー。「長足の神・石原裕次郎」の青春時代から60年後の出来事である。 =敬称略 (中丸謙一朗)



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