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再録「あのときアレは高かった」〜グラコンの巻

「あれ、欲しい!」

そう思うが月々のお小遣いでは到底手が出ない。恐る恐るおかんに相談してみたら、「そんなのおとうさんに言いなさい!」とピシャリ。
そりゃ、直接言えるのなら、おかんに相談しませんわな……。
と、そんなわけで、クラスの中の金持ちのボンだけが持っているのを横目に見ながら、泣く泣くあきらめたあの日の思い出。
そう、あの時あれは高かったのだ。

昭和の、子どもには「ちょっと手の出しにくい」ベストセラー商品。
当時の価格や時代背景を探りながら、その魅力を語る。

     ◇

「グラコン」という言葉をご存知だろうか。某ファストフードチェーンの企画モノ商品の名前ではない。野球の時に使用するユニフォームの上に着る外套、「グランドコート」の略称である。

今から半世紀近く前の1976年。私は中学の野球部に入部した。そこで聞いた耳慣れない言葉が「グラコン」であった。

先輩たちの着ていた何だか色目のない地味なジャンパー?

新入部員の私は、いやいややられた似合わない坊主頭と「とりあえずグランド10周!」みたいな先の見えない日常にひたすら耐え忍んでいた。

そんな時、中二病ならぬ中一病の心を揺さぶったのが、この写真である。


この写真は当時の人気バンド・ゴダイゴのアルバム『CMソンググラフィティ』のジャケットである。なんと、ベーシストのスティーブ・フォックスが何気なく着ているのがこの「グラコン」である。正確なことは調べきれなかったが、たぶんローリングス製、当時の価格で一万円前後のれっきとしたスポーツ用品である。

私はこの「グラコン」が欲しくてたまらなくなった。

だが、「グラコン」は、ユニフォームと違ってチームのオフィシャルなものではなく、いわばちょっとした格好つけ(もちろん、防寒という実用の面もあったが)、その「資格」を得た上級生だけが着ることの許された「選民的アイテム」なのであった。(下級生はそれぞれがスーパーで買ったダサいジャンパーを着ている)

中学一年の終わり、そろそろ「部内カースト」をクリアする頃、私は晴れてこのグラコンを買いに行った。

いろいろ調べたが、当時の正確な値段はとうとうわからなかった。やっぱり親に出してもらったような気がする。ネットで現在の「グラコン」事情を調べてみると、ミズノ製やローリングス製で、6000円ぐらいからいろいろとある。物価の変動も考慮すると、昔はもう少し高かったような気もする。

とにかく、今見るとどっちかというとズタ袋的な単なる「上っ張り」が、お気に入りのミュージシャンの影響で、「カッコいい」ファッションアイテムになったことが、坊主頭の私には何よりもうれしかったのである。

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