再録「あのときアレは高かった」〜エポック社の野球盤の巻
「あれ、欲しい!」
そう思うが月々のお小遣いでは到底手が出ない。恐る恐るおかんに相談してみたら、「そんなのおとうさんに言いなさい!」とピシャリ。
そりゃ、直接言えるのなら、おかんに相談しませんわな……。
と、そんなわけで、クラスの中の金持ちのボンだけが持っているのを横目に見ながら、泣く泣くあきらめたあの日の思い出。
そう、あの時あれは高かったのだ。
昭和の、子どもには「ちょっと手の出しにくい」ベストセラー商品。
当時の価格や時代背景を探りながら、その魅力を語る。
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エポック社の野球盤である。いまさら説明する必要もないが、『燃えプロ』『パワプロ』などのテレビゲームがない時代、少年たちの「野球魂」にボーボーと火をつけ続けていた、まさに神のような商品である。
最初の発売は昭和33(1958)年。モデルチェンジを繰り返しながら、今に至るまで子供たちを楽しませている。
野球盤の魅力について語りだすとキリがない。
公式のルールや使い方とは別に、子供たちの間では公認の遊び方があった。
例えば、「消える魔球」でボールが通過する瞬間に操作レバーを戻し球をホップさせたり、投球時に、球をゆっくりとバッテリー間の磁石部に静止させ、右か左にレバーを振り牽制球で相手をアウトにする、などである。
本来はふたりでやるゲームだが、「魂」の野球少年たちは、ひとりでもよく遊んだ。私などは勝手にサードやファーストを相手に昼夜千本ノックを繰り返し、(鉄の?)バットが金属疲労で根元からポッキリと折れたぐらいだ(当時メーカーに手紙を書いて送ったら無償で替えのバットが送られてきた。いい時代である)。
当時(72年)の値段は2650円(野球盤デラックス、スイッチヒッター・魔球装置付き)。現在の価格に直すと約7500円である。
いわゆるコストパフォーマンスという意味では、こんなに安上がりな商品はなかったのではないだろうか。