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ロブスターボーイ殺人事件

★ロブスターボーイ殺人事件
 1992年フロリダ深夜、人が銃に撃たれたと通報を受け、警察は現場に向かいました。向かった近隣はトレイラーハウスが立ち並ぶ貧困層が住むエリアで、目的住所のトレイラーハウスの外には車いすが置かれていました。警察が中に立ち入ると、真っ赤な血が床や壁中に飛び散っていました。ソファーには男がうなだれるように座っていました。近づいてよく見るとその男は頭部に数発の銃弾を受け死んでいました。さらに調べてみると2発はある程度の距離から、おそらく最後の一発は死を確かめるように至近距離から後頭部をめがけて打ち抜かれているようでした。顔中血だらけなので、誰なのかはわかりません。しかし警察は彼の手を見て驚きました。それは彼が今まで見たことのない奇妙な形をしていたからです。殺されていたのはロブスターボーイことグレイディー・スタイルズでした。

 彼の持つ手足の特徴的な先天的奇形は、50パーセントの確立で子供に遺伝する病気です。同じ病気だった彼の祖父は1840年からサイドショーサーカスの一員として働いていて、息子すなわちグレイディーの父親もこの病気でした。一族は見世物稼業に従事していたわけです。グレイディーは7歳から学校にもろくに行かされず働かされていました。だけど、これしか生きる術がなかったのです。
 10代になったグレイディーは、体を鍛え始めました。指の中で一番力が強いのって親指ですよね? その親指の2,3倍の大きさの指が二本あるって想像したらわかると思うのですが、尋常じゃない握力なのです。足も奇形で短かったので車いすが必要でしたが、上半身はバッキバキに鍛え上げられました。
 その頃グレイディーはマリー・テレサという女性に出逢いました。彼女はフリークスではなく普通の子でしたが、幼いころに親戚から性的暴行を受けた影響で、精神が少し不安定でした。フリークショーが心のよりどころとなり、通い詰めるうちに、スタッフの一員として雇われることになりました。そこでグレイディーに出逢い、二人は恋に落ちました。
 1963年二人の間にドナという長女が生まれました。彼女は健常な姿をしていました。続いて生まれた二人の子供は父親の奇形を受け継ぎました。
 結婚した当時のグレイディーはとてもやさしくいい人でしたが、結婚して何年か経つと彼は酒におぼれ始め、酔っぱらっては妻に暴力をふるうようになりました。起きてきて、朝食も取らないうちにウイスキーのショットをあおって、あの蟹の爪で妻を殴り倒すのです。かなりの酒豪でダブルのウイスキーを12杯とか飲んでいたそうです。
 一家は夏の間は各地をツアーしてお金を稼ぐのですが、冬の間はカーニバルがないので家族は家に引きこもるそうです。コロナ化のステイホームでもDVの被害が拡大するとか言われていますが、まさにそうなのだと思います。 冬の間はフロリダのギブソントンという街にそういうサーカス団の家族が集まっているそうなのです。今でもそこはトレイラーハウスだらけで、フリークスたちだけじゃなくて、庭に普通にライオンとか象とかがいたりするそうです。
 グレイディーの妻への暴言と暴力は日に日に悪化し、ある時、彼は妻の膣に手を突っ込んで、IUDを引き抜きました。IUDというのは女性の膣内にセットする避妊具ですが、お医者さんでないと取れないくらい奥にあります。ていうか子宮内ですから。それをあの太った手をねじ込んで引き抜くのです。恐ろしい事です。
 グレイディーは言っていました。
『女はみな俺の手を見て、セックスしたいと思うんだ。俺の手マンはすごいんだぜ』

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 そんなグレイディーについに我慢できなくなって、妻はとうとう離婚を決意しました。
 二人は家庭裁判所で、親権を争うことになります。グレイディーは見世物として金になる子供たちを渡したくなかったからです。彼は裁判所でも妻を罵倒し、彼女が全て悪い、離婚したいのはこっちの方だと主張しました。裁判官は哀れな障碍者である彼に同情し、まんまと丸め込められます。
彼は子供をつれて生まれ故郷のピッツバーグへ引っ越し、今度はバーバラという女性に出逢いました。彼女もまた健常者でしたが、彼の特別な手に惹かれていきました。
 ドナという長女には病気はありませんでした。彼女はもうこの家族と生活に辟易していて、早く逃げ出したいと常日頃思っていました。
離婚した元妻マリー・テレサはグレン・ニューマンという小人症の男性と結婚しました。彼は優しくて性格がいいと評判でした。二人は健常な息子をもうけました。3人は幸せに暮らしていましたが、マリー・テレサは最初に産んだ子供たちのことを常に恋しがっていました。当然ですよね、自分の産んだ子供なのだから。ある時、意を決し彼女は元夫のロブスターの元に出向くことにしました。旦那も同意し、一家は一緒にグレイディーの家を訪れました。しかし子供たちの姿がありません。彼女と夫は不安になってきました。するとグレイディーは突然拳銃を取り出し、口笛を吹きました。するとドアの向こうに270kgで当時世界一のデブと言われた男が入ってきました。自分よりも何倍も大きな巨漢に小人のニューマンがかなうはずはないのです。グレイディーは元妻にとびかかると、みんなの前で彼女を殴り倒しました。そしてまた子供に逢いたいといってきたら、こんどは本当に殺してやるからな、と脅しました。
 グレイディーの長女ドナは魅力的な十代へと成長しました。そこでジャックという青年に出逢いました。彼女より少し年上のジャックは長身でダークヘア、まるで俳優のようなとてもハンサムな青年でした。彼はグレイディーが望んでも絶対に手に入れられないものを持っていて、そのことがグレイディーを深く嫉妬させました。彼は二人の交際は何がなんでも絶対にダメだと言い張りました。傷ついたドナは家を飛び出しました。グレイディーはジャックの家に電話をしてドナにいいました、今すぐ家に帰ってこないなら、お前のボーイフレンドを殺してやる。それがいやなら戻ってこい。ドナは翌日父親に電話をかけました。
『わたし、彼と結婚します。けしからん、グレイディーはどなります。結婚します、だってわたし妊娠しているから!』そういって彼女は電話を切りました。妊娠しているのは、嘘でした。それしか方法がないと思ったからです。

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 結婚式は9月28日に予定されました。その前日9月27日、グレイディーは、ジャックを家に呼びました。ついに祝福の言葉をかけてもらえるのかとジャックは思いました。グレイディーはいいました、ドナは俺の娘だ、お前なんかにやるものか!ジャックもこれにはキレて、言い返しました。僕は彼女を愛しています。あなたのような人から彼女を守りたいんです。きっぱりとそういうと、もうここには用はないと玄関のドアに向かいました。その彼の背中を、17歳の青年の背中を、グレイディーは銃で打ち抜きました。
ウェディングドレスをかかえたドナと継母のバーバラが家に戻ると、玄関には血だらけで倒れているジャックの姿と、パンツ一丁のグレイディーがいました。
なぜパンイチだったかというと、ただ彼の家にはエアコンがなかったからです。
裁判がはじまりました。グレイディーはわたしがやりましたと素直に罪を認めました。しかしここからが彼の演技のはじまりでした。
『みなさんよく見てください。わたしの姿を。わたしには皆さんのような普通の手足がありません。何をするのも不便で、車いすに乗るか、地を這わなければ移動できないのです。わたしは幼いころからサーカスで働いていたので、小学校くらいの教育しか受けていません。さらにわたしにはわたしと同じような姿の子供が二人もいるのです。わたしがいなくなったら一体誰が彼らの世話をするというのでしょう?』
 裁判官は、彼に同情しすっかり騙されてしまうのです!彼は17歳の青年を殺したのに、刑をまぬかれたのです。自宅で15年間、保護観察になりました。
 二人目の妻バーバラももう限界ということで彼と離婚しました。グレイディーは再びマリー・テレサに電話をかけるようになります。テレサもグレイディーと子供たちを忘れることができていません。なんと彼女は素晴らしい夫ニューマンの元をさり、グレイディーと再婚するのです。最初彼は生まれ変わったように、良い人のようにふるまい、婚約者を殺されたドナも父を許すようになりました。しかし年月が経つにつれ、またグレイディーの暴力的な面が現れだしました。1992年テレサは小人症の全夫との間に生まれた息子にグレイディーの殺害をもちかけます。息子は友人に1500ドルを渡し、グレイディーを銃殺させました。発砲したのは友人の方でしたが友人は27年の刑、テレサは12年、息子は終身刑になり今も服役中です。CAT
【デスラジオ E101 2021年5月17日配信】

                                                                                                   



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