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マリア様はご機嫌ナナメ 26  白石麗子。見参!

 「進堂ちゃん、ちょっと」
呼ばれたので浅田さんのデスクへ行った。
「十月の番組の改編で、月曜日の二時のところに目下売り出し中のアイドル、白石麗子のコーナーを三十分入れることになった」 
 「白石麗子ですか」
「そうなんだよね、彼女はアイドル歌手としては、もう歳を食ってるし、まあ、見栄えはそれなりなんだけどね・・・」
浅田さんにしては歯切れが悪いな。
「天の声だよ」
僕も多少はこの世界を知り始めた。
「要するに、彼女は大会社の重役さんのお嬢さんで、系列のテレビ局の役員を通じてのプッシュなんよ」
確かに彼女の父上の会社はうちの局のコマーシャルの大スポンサーだ。

 「それで進堂ちゃん、彼女のコーナーでスタジオで横に座ってサポートして欲しいんや、それと送り迎えもお願いするわ」

 まあヒナコとマリアで帝塚山のお嬢様たちの生態は知っているけれど、ここに東の横綱、田園調布のお嬢様が参戦するのか。 ヒナコとマリアでも相当手こづってきたのに、さてどうなるかな。まあ、決まったことだから、やるしかないな。

 白石麗子もいちおう大学生ということで売り出している。歳は僕らと同じだ。でもろくに学校へは行ってないので、お迎えにも行かなければならない。大学の授業が終わったら山手線で渋谷に出て東急電車で田園調布へ行く。なるべく電車を使うのだが、お嬢様だから車で行きたかったようだ。
「え~。今日も電車ですか~~」
「そうですよ、電車で通勤するのも社会勉強の一つですよ」

 終わるのが深夜だから帰りはタクシーを使っていいとのことで少し助かった。局を三時すぎに出て、田園調布まで送ってから戸越へ帰ってくる。

 そんな生活が始まった。夕方から朝方まで麗子さんと一緒に行動する。自然と仕事以外の話をするようになった。

 「私も念願の歌手デビューしたんですけど、なかなかヒットしなくてね」
そりゃそうだ、お父上の力で押し付けられたレコード会社も作詞・作曲をする先生方も力が入っていない。そこで深夜放送でコーナーを持たせて若者の人気を得ようとしてこちらにお鉢が廻ってきた。

 二時から始まる「麗子のきまぐれトーク」と題したコーナーは麗子さんのフリートークと彼女の曲をかける。デビューして間もないので彼女のオリジナル曲は限られている。だから麗子さんのお気に入りの曲や僕が選んだ曲を適当に挟み込む。

 ラジオ放送で一番怖いのは「無音状態」になることだ。だからフリートークとはいえ、台本は僕が書いて準備しておく。リスナーのハガキを読んで、それをもとに話題を拡げていく。
 本番では彼女が読み間違えしないように横でインカムを通して指示する。

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