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[公開日映画レビュー] 『メッセージ』はキリスト教圏の悲鳴か。

一般的には「難解」と語られてしまうであろう本作品の原作は、中国系アメリカ人作家テッド・チャンによる『あなたの人生の物語』

シオドア・スタージョン記念賞、2000年ネビュラ賞受賞など「新時代のSF作家」と評されつつもテーマは多分に哲学的で常に議論が巻き起こっています。それだから映画化も「無理だろう」と言われていましたが、今秋公開予定の『ブレードランナー2049』を手掛けた鬼才ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督により映画化が実現しました。

(余談ですがカナダのケベック出身でヴィルヌーヴ姓と言えば、一定層の方はかのジル・ヴィルヌーヴ、彼の子息ジャック・ヴィルヌーブを想起してしまいます。ケベック州でもヴィルヌーブ姓は多くはないとのことで“はとこ”ぐらいでつながっているのでは妄想をしておきます(笑))

本作品を「SF映画」と捉え、『インディペンデンス・デイ』よろしく、最後には宇宙人とドンパチやるのかと期待される向きには肩透かしを食らうでしょう。

邦題は『メッセージ』でトレーラーの時点で私は女性が主人公でもありジョディ・フォスター主演の『コンタクト』を連想しましたが、原題は『Arrival』。映画を観終わるとこの原題が実にしっくり来ます。

しかし先に1996年のSF作品『The Arrival』があった為仕方がなかったのでしょうが、作品のタイトルは「いかに思わせぶりに、期待感を抱かせるか」が重要ですので、これは惜しいと言わざるを得ません。ただし原作の原題『Story of Your Life』では弱いでしょう。

この作品は冒頭から薄暗い屋内やどんよりと曇った空、そして場面のたびに年齢が変わる娘ハンナ(HANNAH)がフラッシュバックのように登場します。そして母親であり言語学者のルイーズは娘に対し常に慙愧の念を湛え、ハンナの命が儚いであろう事を暗示させます。

かと思えば教壇に立つルイーズには独身の佇まいがあり、映画の進行に従いこれらがフラクタルさながらに周到に準備されたものであると次第に気づかされます。

——ザクッと端折りますが、この映画では「時間軸」に対する新視点が物語の本質的な問題提議なのかなと思います。未来をわかった上でそれを選択するのか——時間は「過ぎ去るもの」でもないし原因が結果を生むばかりではない——と。

そもそも宇宙人を介在させ、何かを伝えようとする彼らの答えがルイーズのごくプライベートで内省的な記憶から解けるという流れ。

ただし私は仏教を多少理解していますから、このあたりが非常に歯がゆい。

仏教では地球上の時間の経過は宇宙ではまた別になる事も説くし、人間には過去・現在・未来があり、身体は容れ物に過ぎないが、生命は永遠の存在であると明確に説いています。そして未来は変えられるものなのです。

本作品では時間の概念を再定義しようと試み、その答えを視聴者へ求めてもいますが、作者自身答えが依然わからぬままなのです。

この辺りがキリスト教を下敷きとする西洋思想の限界なのかもしれません。デカルトが『方法序説』で「我思う、故に我在り」と語り、しかしその「我」そのものが解かれぬままである状況から残念ながら一歩も動いてはいないのです。

今回の映画を観て私は『ブレードランナー2049』もこの調子ならちょっと困るなあと思いました。あまり押し付けの哲学性は望みませんので。


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