オペレーターインタビューVol.2:尾崎 湊士
コロナ禍でグローバル・ローカル企業共に多くの配信を請け負ってきた
KST EVENTS。元々需要の少なかった配信を行うにあたり、多くのオペレーターが初めての事を経験しながら成長してきた。数々の現場を乗り越え成長してきたオペレーターの仕事に触れるインタビュー。
◆オペレーター紹介◆
尾崎 湊士
茨城県出身。2021年よりKST EVENTSにコアメンバーとして協力いただいている。釣りは海派。オンライン現場ではPA(音響)として音を司っている。今回は尾崎さんにインタビューを伺いたいと思います。
ーーそれではよろしくお願いいたします。
音響とはなにか。
ーーまずよく音響さんはPA(Public Adress)と呼ばれていますが、具体的にどういった業務をされていますか。
簡単に言えば音を纏めてみんなに聞こえるように音を整えています。PAって言葉だけだとめちゃめちゃ広くて深いんですよ。
例えば、このiPadでみんな聞いてーって音量上げた瞬間PAだし。ギターとか楽器を調律して演者さんに渡す音響さんもいれば、会場全体に大きい音を出す音響さんとかもいます。
その中で自分は配信とかだと、必要なマイク数を選んでそれを自分でチョイスしてその空間に過不足なく鳴らしてますね。動画の音をPCから抜いたり、音全部を集めて調節して配信とかにその場に必要なソース選んで流すみたいな感じですね。
※PAとはPablic Adressの略であり、音響業務のことを表す表現です。以下音響業務のことをPAと記載いたします。
ーーPAさんにも多くの種類があるんですね。ちなみに尾崎さんがPAを始めたきっかけはなんですか。
17~18歳の時にライブハウスでアルバイトとして始めたことがきっかけで、機材とか触っていたら面白くて、気づいたら21、2の時にPAとして本格的に働いていました。
ーーバイト時代に機材を触ったことがきっかけとは何か運命的ですね。PAとして本格的に始めるためにどのように知識を深められたんですか。
独学でひたすら覚えました。人が誰もいないし、誰も教えてくれないのでやらざるを得ないという感じでしたが。笑 最初は全くわからない機材をめちゃくちゃ触りましたね。
自分の好きなアーティストとかのライブ見に行って音の答え合わせしてまた持ち帰ってきて、そのライブの音を真似して、の繰り返し。真似たような音作りしてみて、これはよかったな、あれはだめだったな、あんまり良くないなっていうのを自分でジャッジしていって寄せていくって感じですかね。
こうすれば音がこうなるっていうのを全部わかるようにしました。我ながらいい勉強の仕方だったんじゃないかなと思ってます。
コロナ禍での業務内容の変動
ーーコロナ前は主にどのような業務を行っていましたか。
主にライブハウスでLDHやJAYWALKなどのアーティストのPAをやっていました。あとフェス以外でもお笑いとか落語とかペンギンのPAもしたことありますよ。
ーーペンギンのPAですか!?具体的に何をされていたんですか?
仮設プールみたいなのにマイクを立てて、ペンギンの鳴き声を拡声するっていう業務ですね。1羽しかいないし1、2時間に1回くらいしか鳴かないんですよ。それで鳴く瞬間をずーっと待って、アーって鳴いたところをフェイダーつけたりしていましたね。それを7時間。いろんな意味で1番おもしろい現場でした。
ーーそれは貴重な体験ですね。コロナ禍でKSTと関わるようになり実際にオンライン現場を経験してみて、コロナ前でのリアルイベントとの違いってなにか感じましたか?
仕事内容的には変わってないものもありますが、配信の現場は全然違います。現実はいろんなものが反射して音になっているんですが、配信だとその反射がないからそれをいかに構築してあげるかみたいなのは悩んでいましたね。
物音とかも配信に乗らない方が良い時もあればそうでない時もある。使ってる機材も根本的には同じだけど、マイクは全然違いますね。リアルライブのバンドはいかにマイクの指向性を狭められるかみたいなのがあるんです。狭めて個々の音をいかに混ぜられるかが重要なので。
でも、配信はマイクの指向性がもっと広くて空間を大事にできるような機材であることが大切なんです。ただ拾いすぎてるものもあるので選定が難しいですけどね。
ーー配信現場で困ったことや大変だったことはありますか?
機材をどう組むかですかね。バンドとかはもう慣れすぎて考えなくてもわかりますが、配信現場とかだと案件ごとに条件が違うので、1つ1つ考えないとだめなんですよ。音をZoom先に送ったり、会場に鳴らせたりする必要があるので。
特に配信現場ではコンバーターを噛ませたりするのでカメラと音のディレイ(遅延)を調整することが大変でしたね。最初の方はもう少し時間が欲しいなと思いました。
ーーリアルとはまた違った大変さがあるんですね。そんな配信現場ならではの技術的なエピソードってなにかありますか?
この音響システムが面白かったなっていうのがありますね。3つの会場を使う大きな現場があったんですけど、その3会場全てのコンソールをLANケーブルで繋いだんですよ。
それで、ネットワークを使って各会場の音をお互いに行き来できるようにしてネット上で操作できるようにしました。Danteネットワークというんですが。それを使用すると1つのソースをネットで繋いでいるので3会場どこでもまとめて出せるんですよ。
だから例えばAステージにいた講演者の声をBステージで出さなくちゃいけないっていう時に普段だったらものすごい長さのケーブルたくさん引かなければいけないんですね。でもLANケーブルで繋がっているのですぐさま引かずに済んだんですよ。音の劣化も遅延もないですし、それは面白かったですね。
業務に対してのこだわり
ーーリアルイベントもオンラインイベントも経験してきた中でご自身の業務に対してのこだわりってなにかありますか?
空間の鳴りをいかにパッケージできるかってのはいつも考えてますね。本来マイクなんてない方がいいので、いかに自然に仕上げれるかを意識しています。
現実はいろんなものに反射した音が鼓膜をつたって聞こえるので、空間で音が成り立っているんですよね。でもマイクってここで録った音がすぐ耳、イヤホンとかを通して聞こえてくるじゃないですか。それだと空間がなくなってしまう。
いかにそれを自然にしていつも自分が日常でマイクを使ってない中で聞こえてる音に近づけるようにやってたりはしますね。空間はホント大事です、空間マジヤバ。これちゃんと使ってくださいね。
ーー今までのライブハウスでは実物の空間がありましたが、配信となると見えない空間を相手にしていることに対しての意識はありますか?
まあ簡単に言うと同じPCでも配信を見てる媒体によって音は違うし、それがイヤホンなのか内蔵スピーカーでも違う、というのは最初の頃はずっと意識してましたね。
ただ聞く媒体も全て違うのにどこに基準を置くのかということを考えて、自分がいいなと思った音を出すようにしてますね。何で聞いても自分らしさがあってよかったなって思ったので自分のミックスを崩さないようにしました。
主張はない。でも必要な自分らしさ
ーーご自身の音においての自分らしさってどういうところですか?
自分の主張がないようにすることを自分らしさにしてますかね。自分的にはここ高音もっと出したい、低音出したいとかあったりするんですけど、なるべくそれを出さずにクライアントの意思をどれだけ汲み取ってあげられるのかを考えています。相手の求めてる音像はどういうものなのか。バンドとかだと余計音にこだわりが強い人が多いので、聞いてる音楽に寄ってしまうのでそれが標準になってしまうんですよね。
ーーなるほど。自分の主張がないようにするためにはどのようなことを取り組んできましたか?
主張をなくすためには多くの音を知る必要があると思い、いろいろな音を聞きましたね。食べ物でいうなら和食も洋食も中華も満遍なく食べるようにしました。
多くの音を聞くことによって自分のこだわりに偏らず、相手の求める音を汲み取ってその中でベストな音を流すことができますからね。また、クライアントさんも音で表現を必ずしてくるわけじゃなくて抽象的な感じでオーダーしてくる場合もあるので今まで聞いてきた音を元に相手の方に四角を削っていく(意図を汲んで形を作り届ける)という感じですね。
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音を司り刹那の中で音と対話している尾崎さん。リアルもオンラインも経験し見えてきた空間の大切さ。
コロナ禍で移りゆく情勢の中、成長を続けるオペレーターに焦点を当てて綴った今回のインタビュー。次回も新たなオペレーターに触れていきますので、どうぞお楽しみに
尾崎さんが現場で使用している機材をご紹介
使用している機材
TF-1、M32R-LIVE、MG-12XUMG10
◆スタッフロール◆
インタビュー:RENA
写真:吉野 龍希
文:守 孝太
構成:原 一徳